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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第4章:立身出世編

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64:魔石がない!?



 問題発生かなりヤバい。

 どこぞの錬金工房が、高品質な魔石の買い占めに動いてる。


「どこの工房か教えてもらえる?」

「ウェールト公爵様お抱えのホランドン錬金工房です、はい」


 ホランドン……聞いたことねえな。


「いつ頃から?」

「先月からでございます。少しでも回せるよう努力いたします」

「助かるけど無理はしないでいいから。じゃあまた」


 分からないのは、ローメンス辺境伯領の魔石を集中的に買い占めていること。

 こういう時はルーカスに教えてもらうに限る。


「ユウトとカノンも聞いてくれ。問題発生だ」

「「はい」」

「ルーカスはホランドン錬金工房を知ってるか?」

「知っておるが、なぜイオリの口からホランドンの名が出る」


 斯く斯く然々。


「ふむ、帝国皇立アカデミーが先々月に発表した研究論文の影響であろう」


 言ったルーカスは席を立ち、自室から論文を持ってきた。

 テーマは『魔導製品に魔石・魔核を用いる際の効率化手法』とある。


 ルベリオン帝国皇立アカデミーは、付属高校と研究系大学院がある国立大学みたいなもんらしく、不定期で研究成果を論文として発表するそうだ。

 論文は友好国の国民かつ会員登録をしている者にしか送付されず、研究成果を利用する場合には、安くない利用料を支払わなければならない。


「この辺りを読んでみよ」

「カノン要約よろ」

「ちょっと待ってね………………へぇ~。えっとね」


 六大系統のどれかに特化した魔導製品の場合、特化系統と同系統の性質を持つ魔石・魔核を使用すると術式効果が高まり、消費魔力量は軽減される。


「つまり?」

「具体例は分からないよ」

「寒冷地に棲息する魔獣の魔石は、冷蔵や冷凍の魔導器に向いておるのだ」

「「「あ~」」」


 続けて現状を推察するルーカスの話は、納得できるもののタイミングが悪すぎるとしか言えない内容だ。


 ローメンス辺境伯領はいわゆる北部辺境で、特にアデーレの冬は鬼寒い。

 要するにローメンスで魔獣を狩るなら夏場が最適で、俺たちが狩ったシカやヒツジ魔獣も春先に繁殖するので数も増えている。


 一方、ホランドン錬金工房は冷蔵、冷凍、冷房、暖房、保温、加熱といった、魔術系統としては対極にあたる水と火の魔術師を大勢抱える大手錬金工房。

 彼自身も腕利きの魔術師で、王都を含め王国中央に居を構える貴族家は、総じてホランドン錬金工房製の魔導器を購入していると言っても過言ではない。


 皇立アカデミーの研究論文と季節の影響で、冷蔵・冷凍・冷房魔導製品向けに、高品質な魔石を買い占めているに違いない、と。


「冬から春でアップグレード品を造り、来年の夏向けに発売する戦略でしょうね」

「ホランドンさんとはお知り合いなんですか?」

「若かりし時分、皇立アカデミーで共に切磋琢磨した同輩だ」


 ルーカス大卒かよ。

 ホランドンも出来る錬金術師なんだろうな。


 とまあ、そんなことよりどうしたもんか。


 仮定納期二ヵ月として、製造期間は余裕を見てるが余剰は十日間が限度。

 十月の魔術薬と年明けのインフラを考えれば、ブラックな働き方すると死ねる。


 あっちが北部の魔石を買い占めるなら、こっちは南部だといきたいとこだが、ヴォーリッツ王国は南部の方が発展してるから魔獣領域が殆どないらしい。


 最悪は自分たちで狩りに行くしかないが、シカもヒツジも大物じゃないと質の高い魔石は取れない。

 この時期は他所のハンターが来てるとも聞いたので、大物狙いで狩ってるだろう。


 となると…


「西の山向こうにある国って友好国か?」

「隣国くらい知っておけ。ウェルニア聖皇国と敵対する国などない。正統聖教会の本拠地だ。聖都と巡礼都市周辺以外には魔獣の領域も多い」

「最高。魔石扱ってる商会の心当たりは?」

「聖都に本店を構えるバラッカ商会は有名だが、知己はない」

「何とかする。片道どれくらい?」

「東西交易中央街道で三十日前後だ」

「おぅふ」

「街道は山脈を南へ迂回するから遠いですよね」

「直線距離なら遠くなさそうなのにね」


 なに? あぁそうか、山越えすれば近いってことか。


「ここから真っ直ぐ聖都へ向かったら何日で着ける?」

「山脈を越える気か? 馬が走れる道など……強化か」

「正解。で?」

「八日で越えた山人の話を耳にしたことがある」


 山人っつーとドワーフか。

 会ったことないからどんなもんか判らんな。

 つーか、九日は代官府訪問だから、八日間で往復しなきゃ間に合わない。


「保存食買いに行ってくる。ユウトは家から塩、砂糖、一番デカい真空ボトル、魔導ライト…は要らんな。複合魔導具と木剣も取ってきてくれ。カノン、聖都の方角と山の高さを知りたい」

「経口補水液にして持ってきます」

「分ってんじゃん。砂糖多めでよろ」

「難所も調べておくね」

「頼むわ」

(フッ、止めようとはせぬのだな)


 俺的に一番の問題は食量だ。

 普段でもアホほど食うのに、ブーストすると余計に腹が減るから相当量を持って行かなきゃもたない。

 カロリー密度が高い食品を選んでも、背嚢に詰め込めるのは三日分が精々だろう。


「おっちゃん、クルミをローストしたのある?」

「あるよ!」

「ん? これってローストしたヘーゼルナッツ?」

「そうだよ、アデーレの特産だ」

「へぇ、じゃあ半々で混ぜてこの袋に一杯で」

「ありがとよ!」


「おばちゃん、ドライフルーツを色々混ぜてこの袋に一杯で」

「はいよ、ありがとうね」


「おっちゃん、一番デカい黒パン三つ」

「ほいきた!」


「お姉さん、バターを一番デカい瓶で二つね」

「ありがとう♪」


「おっちゃん、脂が付いてる干し肉をこの袋に一杯くれ」

「毎度あり!」


 工房に戻ってキッチンに入り、ナッツをゴリゴリ砕いてとドライフルーツをザクザク切ってバターと混ぜる。


 ものすごいカロリーだろな。

 よい子の皆は真似しちゃいけない。めちゃくちゃ太るぞ。


「それは何だ」

「食ってみるか?」


 バゲットを薄く切り、ナッツフルーツバターを乗せて渡す。


「む、悪くない」

「だろ? 超高カロリーだけどな」

「野戦糧食に良いのではないか?」

「かもな」


 ユウトが戻ってきたので、剣帯ベルト魔導具用を装備して複合魔導具をホルダーに差す。

 ナッツフルーツバターを食べようとするユウトから瓶を奪って背嚢に放り込み、真空ボトルも放り込む。


 うん、重い。三〇キロはある。


「お待たせ!」

「どこで調べたんだ?」

「商工業者ギルドだよ」

「独りで行けるようになったのか」

「コーニッツさんを呼ぶとすぐ出て来てくれるから」

「誰それ」

「黒須さんが引きずり出そうとした職員さんですよ」

「ああ、中途半端なバーコード禿げか」

「「酷い」」(苦笑)


 さておき、カノン手書きの地図を見れば、聖都は西南西に位置している。

 が、アデーレと聖都の直線上には山脈の第二高峰が聳えているため、第二高峰南側の谷間を越えて北西に進路を変える方が早いらしい。


「高さが分かればどうとでもなるんだけどな」

「高い所には、亜種だけど中型飛竜の巣があるみたいだよ?」

「ワイバーンか。谷間越えで」

「魔獣狩りに行った時の距離感を基にした推定値だけど、谷越えの道のりは一〇〇〇キロメートル前後だと思う」


 平均時速二〇キロメートルとして五〇時間。余裕じゃね?


「明後日の昼前には着きそうだな」

「やっぱり寝ずに走るんだ…」

「お願いですから生還してくださいね?」

「変なフラグ立てんな。リリとココアに伝えといてくれ」

「会って行かないんですか?」

「だからそれフラグになるだろうが!」


 フラグの呪いをバカにしちゃいけない。

 「帰ったら結婚しよう」なんて一二〇パーセント呪われる。震えるわ。


「んじゃ行ってくる」


 唇の前で人差し指を立て「下手なこと言うな」と釘を刺し、苦笑する二人に背を向ける。

 定位置で本を読んでるルーカスを少しは見習え。

 いやそれはそれでどうなんだと思わなくもないが。


 独りで遠出するの初めてだなと思いつつ西門を抜け、複合魔導具のストックに埋め込んであるコンパスの針を頼りに駆けだした。



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