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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第3章:自立編

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55:正しい自立



 今日で四月が終わる四十日、俺も含めて皆がソワソワしている。

 嬉しいけど怖いような、怖いけど早く知りたいという、奇妙な緊張感。


 目の前にはアデーレ代官府の高級官吏と下級官吏がいて、ルーカスにお伺いを立てながら何枚もの書類を作成していく。


 ルーカスの隣には、ダンカン商会頭が瞑目したまま泰然と座っている。

 そんなダンカン会頭の隣には、商工業者ギルドのオルセン支部長がいる。

 今日も爽やかダンディズムな支部長は、優雅な笑みを浮かべてらっしゃる。


 とまあ、そんなことはどうでもいいんだが、たぶんココアたちも「なぜ?」と思ってるに違いないことがある。

 ルーカスたちの背後にあって然るべき、鐵で補強された木箱がない。

 そう、現ナマが入っている木箱が一つとしてないのだ。


 二月の修羅場で稼いだ金額はもちろん把握してる。

 ものっそい大金だ。


 が、ダンカン商会やギルドに丸投げして把握してない物もある。

 避妊薬、ナプキンとタンポンの生理用品、そしてコンドーム。

 ついでにコンドームの残りゴムで造った後付け用の靴底。


 避妊薬はルーカスのお墨付きが必要なので、実際に創ってるカノンは累計数量を把握してる。

 でも、プロモーション販売での様子見から正式発売をダンカンに丸投げした。


 普及価格で売りたかったものの、薬剤販売には薬師共同組合が絡む。

 安売りすると強烈な反発を食らうというので、手広くやってて方々に顔が利くダンカンに任せろとルーカスに言われた。

 なので、今日までの販売数量と売上額はまだ知らない。


 生理用品とコンドーム、ゴム製靴底は、最初から普及価格を絶対条件にした。

 だけどゴム製靴底以外は結構手間がかかる。

 そこでユウトが半自動の製造機器を考案し、ココアが図面を引き四人で作った。


 製造は西広場の亜麻製防水シート工場の隣に建屋を増築し、ギルドを通して働きたい女性を公募。

 モノが分かり易かったのか共感したのか、あっと言う間に人手が集まり操業を開始した。


 なのだが、販売価格の点で高級品専門のダンカン商会は自ら辞退。

 しかし、この手の商品を好んで扱う商会なんてルーカスも知らない。

 そこでオルセン支部長に突撃売り込みを仕掛けた。


 ルックスどおりフェミニズム多めの支部長は賛同してくれ、低価格の新商品はギルドを通して商会を公募するのが常套だと教えてくれた。

 ギルドの審査をパスする複数の商会に扱わせれば、経時的に上手く多く売る商会が頭角を現すものだと。


 そんなこんなで、俺たちは奇妙な緊張感に包まれているわけだ。


「最後に工房関連権利の譲渡時期は如何いたしましょう」

「名称の変更も含め、私の叙爵と同日が良かろう」

「畏まりました」


 なんか関係ない書類まで作ってると思うのは俺だけだろうか。

 いやココアもだな。

 ユウトとカノンは「ですよね」って顔してる。


「仕上がりましたのでご確認ください」

「うむ。…………………………………………問題ない。イオリ、署名せよ」

「へーい」


 ルーカスが差し出した羽ペンを受け取り、指でトントンされるまま十枚の書類にサインする。

 続けてココア、カノン、ユウトが二枚の書類にサインする。


「ユウトさんこれって」

「金融機関口座の原形に思えます。利用料は取られますが、これは助かりますね」


 ちゃちゃっとサインして俺の隣に戻ったココアと顔を見合わせ、目で会話する。

 「ちゃんと読めよ」「お前もな」と。

 まぁ木箱がない理由は判ったからヨシ。


「ユウトとカノンは理解した様だが、念のため説明しておく」


 俺とココアのためね。あざーす。


 銀行口座的な仕組みの利用は、俺たちの中位国民証に紐づけされている。

 ヴォーリッツ王国商務院が公認する両替商会と、ヴォーリッツ王国内の五大ギルド各支部でなら、現金の預け入れと引き出しが可能になるという優れモノ。


 但し、王国全域で利用できるのは凡そ半年後になる。


 アデーレ代官府、ローメンス辺境伯府、宮廷商務院の順で登録処理され、宮廷商務院からローメンス辺境伯府以外の各領府と各ギルド支部に対し、元になるアデーレ代官府の登録情報が通達されるからだ。


 高座残高も各地からアデーレ代官府に入出金履歴の照会・確認が入るため、基本的に自分たちの残高を把握してないとバーストもあり得る。

 要は残高を把握して、それ以上は引き出すなよっていう当たり前の話だ。


 口座の利用には専用の魔導式認証カードが必要で、発行は居住登録地のアデーレ代官府になる。

 居住地を変える場合は転出先の主府で国民証と認証カードを提示し、これまた半年くらいかけて登録情報の変更と更新が行われる。


 サービス利用は有料で、年額六〇万ユルグと何気にお高い。


「何か質問はあるか」

「ある。魔導式認証ってどんなん?」

「固有の魔力波動で認証する」

「一つとして同一の波動はない、という意味ですね?」


 ルーカスがユウトに頷きを返した。


 個人的にこの話は「やっぱりそうか」と納得できる。

 魔力感知をかけまくってた頃に、俺と俺以外の人の魔力は何かが違うと感じていた。


 ほぼほぼ確信したのは、シカとヒツジを狩りに行った時だ。

 シカはシカ同士、ヒツジはヒツジ同士で感知した魔力が似ていた。

 でも微妙に違うと感じる部分もあった。

 人も同じなら、血縁者の魔力波動には類似性があるはず。


 そしてもう一つ。


「あのさ、魔脈の魔力には波動がないとか?」


 ルーカスがニヤリと笑んだ。当たったな。


「そのとおりだ。よくぞ独自に気づいた」

「センパイのドヤ顔がヒドイね」

「イオくん、波動ってどんな感覚なの?」

「難しいこと聞くな? ん~~~、クラブでガンガン鳴ってる音楽みたいな?」

「本当に波動なんだね。たぶんイオくんほど感度高くない気はするけど」

「振動ということですか。面白いですね……」


 天才が何かを考え始めた。掘り下げると長くなりそうだから放置で。


「シルバラッド様、よろしいでしょうか?」

「うむ、始めてくれ」

「リッツ君」

「承知しました」


 下っ端官吏が、クレカより大きく国民証より小さい金属の薄板四枚を出した。

 材質は光の反射具合からして純度高めのミスリル系魔銀だが、俺らが作る魔銀の方が質は圧倒的に高い。


「ローメンス辺境伯家の紋章が鮮明に浮かび上がるまで魔力を導入してください」


 四人してカードに人差し指を当てて魔力を導――


ピシッ!


「あ……(やべえ)不良品だぞ(と言ってみる)」

「魔銀だと気づいたであろうに。(やはり質が低すぎるな)」


 ココアたちもジト目を向けている。バレバレっすね、そうっすよね。


「さーせん。減圧すんの忘れてました」

「魔力お化け」

「逆にすごいよね」

「僕は圧縮してもたぶん割れませんよ」

「ご心配なく。シルバラッド様ご指示の通り予備を持参しておりますので」

「いい判断だぞルーカス。いやため息つくなって」


 無視ですか、そうですか。

 減圧をかけて少しずつ導入すると、赤い縁取りの紋章が浮かび上がった。


「紛失せぬようにな。されば成果金の総額と均等割り個人支給額を伝える」


 きた!


「総額は一一三億一二八五万三〇〇〇シリン」

「「ヤバ!」」

「「すごい!」」

「個人支給額は二八億二八二一万三二五〇シリン」

「よっしゃーーー!」

「やったーーー!」

「計算が合わないよね?」

「合いませんね。ルーカスさんは僕ら四人で均等割りしています。なぜです?」


 マジか…あ、ほんとだ。これはダメだ。素直に喜べない。


「材料原価分は差し引いてある。労働の成果とは、働いた者に齎されるものだ」

「私はシルバラッド様のご意向に賛同いたしますな」

「私も同様です。額に汗した対価は須らく受け取るべきですね」

「「「「………」」」」

「イオリ、ココア、ユウト、カノン、今日この時を以て正しく自立せよ」

「「「「っ…」」」」


 ぐぅの音も出ない。転移から七ヵ月で自立できるなんて思ってなかった。

 日本だったら、夢にすら見ない大金を稼げている現実がここにある。


「なあ、ルーカスの分を工房の運転資金に回さないか?」

「「「賛成!」」」

「決まりだ。ありがとなルーカス、正しく自立させてもらう」


 薄く笑んだルーカスが、満足気に一つ頷いた。


 いよいよ甘えられなくなった感がハンパないものの、悪くない。

 世界最高の錬金工房でも目指してみるかな。



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