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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第3章:自立編

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53:切れない魔剣



 迷宮都市向け複合魔導具の材料が届くまであと七日。

 何もすることがなくて暇だ。


 ミレディの狩り魔術に触発されたユウトとカノンは、真剣な顔で魔術のトレーニングに勤しんでいる。


 隣に座ってるココアも縫製魔術師を本気で目指すようで、ルーカスに術式構築のコツを教えてもらいながら試行錯誤中。


「暇だからランニングに行ってくる」

「いてらー」

「暇なれば疑似魔剣の試作をしてみてはどうだ。今ならそれなりに造れよう」

「そんな話したな」


 造形と刻印の修練中だったもんで「いつか」と思ってたが、なんちゃって魔剣くらいは造れそうな気がする。


「故国では剣を使っていたのであろう?」

「ちっと反った片刃の木刀を稽古で振ってただけ」

「造りたい形が判らぬということか」

「そうでもない」


 イメージはある。

 爺さんに誘われて行った刀剣博覧会で見たファルカタ。


 古代イベリア半島で生まれたファルカタは、軽く湾曲した片手剣。

 切っ先側に重心があり、切っ先の三分の一は両刃になっている。

 ローマ軍にも採用された歴史があり、「イベリアのグラディウス」と呼ばれていたそうだ。


 とまあ蘊蓄未満のゴタクはさておき、シンプルにカッコイイと思った。

 俺が見たのは剣身が厚くて、全長は六〇センチくらい。

 帯剣に難はなさそうだし、何より殴打武器として使えそう。


「試作してみれば良いではないか」

「まぁそうなんだけどさ」

「煮え切らんな。何を迷っておるのだ」


 魔剣ってことは、クソ重い魔導金属を使うわけで。

 剣帯は頑丈に造ればいいとしても、常に軽くブーストしてないと重くてどうしようもない。


「そんなモンで殴ったら痛いじゃ済まねえだろし」

「何を馬鹿な。抜くのは抜かざるを得ぬ脅威を前にした時のみであろうに」

「む、確かに」


 キャラバンの商人が帯剣してる世の中だもんな。

 何なら刃をつけないって手もある。

 だったら警棒でいいじゃんって話か。

 でもトンファーとか使ったことねえしなあ。


「ねえセンパイ、あたしとリリを守る時だけ使えばいくない?」

「天才かよ」

「天才だぜ」(サムアップ)

「……」


 こらこら、アホを見る目でため息をつくな。


「そうだ、いいこと思いついた。アダマスの薄板を一枚使わせて。返すから」

「薄板で何をする気だ」

「実験」

「ふむ、我も行こう」

「あたしもー」


 ノートとシャーペンを手に製作室へ入り、引き出しを開けてアダマスの薄板を見やる。

 一番薄いのは一ミリくらいだが、ここは五ミリくらいのをチョイス。


 ノートに「鋭化」と書いてアダマス板に【刻印】した。


「どのような意味だ」

「鋭くなるって意味」

「面白い」


 刻印したアダマス板を鋼材で挟み鋼線で縛ってブーストをかけ握り、アダマスに指を当てて魔力を流した。


「お!」

「薄くなった!」

「ふむ、画期的ではあるが――」

「焦るなって。次だ次」


 今のは術式刻印だけで変形するか確かめただけ。

 本番はここから。


 今度はノートに「刃化」と書き、アダマスの刻印を【消去】してから「刃化」を【刻印】した。


「それは何だ」

「刃にするって意味」

「ほほぅ、イオリの発想は実に面白い」


 鋼材を握ってアダマスに指を当てて魔力を流すと、「鋭化」よりは尖ったが刃と呼べるような鋭さはない。


 刃引きした剣より鈍いのは明らかなものの、ここまで鋭くなるならもう一息だ。


「閾値の問題か」

「だといいよな」


 今度は「刃化」を【消去】してから【造形】をかけ、片側の板厚を一ミリ薄くしてみる。

 推定四ミリ厚になったアダマスに「刃化」を【刻印】し、再び魔力を流すと…


「イケそうじゃね?」


 一つ頷いたルーカスが、ワゴンに載っている魔銀の塊を指さした。


 アダマスの重さを支えられる程度のブースト率に下げ、魔銀の塊にアダマスを自重だけで落とす。


スン


「うわ!? すごっ!」


 豆腐でも切ったかのようにワゴンの台ごとスッパリ切れた。


「悪い」

「構わん。私は剣を知らぬが、これは危険であろう」

「どういう意味で?」


 ルーカスが言うに、少ないが剣術を嗜む高位の錬金術師はいるだろう。

 俺の刀剣に対する煮え切らない言葉から察するに、剣を知る高位錬金術師は「刃化」と同等以上の術式や術陣を編める。


 要するに、名匠でもない魔工鍛冶師が打った鈍い剣でさえ、とんでもなく切れる魔剣に変えることが出来てしまう。


「誰でも思いつきそうなもんだけどな」

「固定観念の問題だ」


 切れない金属の塊を剣と呼ぶ剣士はいない。

 敢えて切れない剣を造るなら魔道金属など使わないし、儀礼剣や模造剣と呼称される。


 魔剣と呼ばれる物の大半は【斬鉄】や【軽量】を刻印してあるが、切れない剣を造り術式で切れるようにするという発想はない。


 魔剣士と名乗れるほど魔力量と魔力操作に長けた者が少ないとはいえ、刃化は魔剣士未満の者が魔剣士を名乗れてしまう。


「何より、歴とした魔工鍛冶師を敵に回す」

「それありそう。ココアくん秘密で」

「うむ」


 でも俺が予想するに、へっぽこな錬金術師と魔工鍛冶師のコンビじゃ造れない。

 刃化の術式で魔剣を成立させるには、少なくともあと二つ工夫が必要だ。


「構造の話か?」

「まぁそうなんだけど、魔力消費量の話でもある」


 刃化は刻印した魔導金属の端面全てが鋭くなってしまう。

 この薄板でもアダマスはアホほど魔力を食うのに、一〇ミリ超えの剣身を丸ごとアダマスで造れば、魔力は食うわ重いわでやってられない。


 何しろ、魔力伝導率がほぼ一〇〇パーセントのミスリルに対して、アダマスのそれは三〇パーセントくらいしかない。因みに、オリハルコンは一〇パーセント程度だ。


 とはいえ、頑丈さを考えればアダマス使用は必須になる。

 ならどうするか。

 刃だけをアダマスにして、剣身は靭性もあるミスリルにすればいい。


 なのだが、パッと考えただけでも超難しい。


 仮に刃になるアダマスをミスリルで挟んで鍛造しても、ミスリルに挟まれた内部のアダマスも端面が刃化してしまう。

 するとどうなるか。

 十中八九は内部がガタつき、剣として信頼できないモノになる。

 バランスが悪くなるのは試作しなくても判る。


「確かに難題だ」

「だろ? なーんも思いつかねえし」

「ねえねえ、中の方だけ鋭くならないくらい鋭くしといちゃダメなの?」

「「!?」」

「あ、イケてる? あたし天才?」


 天才どころじゃねえ。ココア神が降臨した。ほんと頭が柔らかいわ。

 その方法なら、切っ先だけ両刃のファルカタが余裕で造れる。


「ココア天才」

「うむ、苦しゅうない」

「非の打ち所がない策だ」

「うむ、苦しゅうない」


 問題は、アデーレに名匠レベルの魔工鍛冶師がいないこと。

 急いでるワケじゃないものの、何事も思うとおりには進まないもんだ。



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