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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第3章:自立編

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50:野営



 頭がないシカと拾った角と、首が千切れそうなシカを引きずって森の際へ向かう。

 ブーストのことはココアたちにもまだ話すなと言われているので、森際からはミレディの土系統魔術で運んでもらった。


 ルーカスが言うに俺のブーストはかなりおかしいので、知る者の人数が少ないに越したことはないと。

 ココアたちに口止めすりゃそれで済むと言ったんだが、「外出先の食堂なんかでブーストの話をしないと断言できるか?」みたいなことを言い返された。

 断言なんぞ出来ないし、何なら盛り上がりそうだから従っておく感じだ。


「うわ、センパイがヨゴレ芸人になってる」

「誰が芸人だ。抱きついたろか」

「むーりー」

「どうしてそうなったの?」

「諸般の事情が大量に」

「ものすごく臭いますけど水かぶります?」

「んや、川に入るからいい」


 ルーカスに借りたナイフを咥えてシカの足を握り、ミレディの魔術で二頭とも川へ落とした。

 流れは緩やかなものの、浮力が効いて流れそうな上に、くそ重いから踏ん張らないと体ごと持ってかれそうだ。


 どっちも血抜きの切り込みを入れる必要はなさそうなので、川底の石を錘代わりに載せ、腹をばっくり割っていく。


「割っただけじゃ内臓が出ないな」

「繋がってるからな」


 兄貴の指摘にご尤もと納得し、仕方がないので腹に手をつっこみ、食道っぽいとこと大腸っぽいとこを切った。


「臭っ!?」

「早く掻き出さないと肉に臭いが移るぞ?」

「ユウト! スコップ!」

「あ、はい」


 図らずも役に立ったスコップで内臓を掻き出し、念のためロープで足を縛って木立に括りつけておいた。

 そのまま少し川上へ移動して服を脱ぎ、体液とか脳ミソの欠片を洗い流す。


「イオリは良い体躯をしてるな」

「体育会系だからな」

「体を育てる会があるのか」


 ねえよ。


「明るいとこで見るとアガル♥」

「ギルドで模擬戦やった時よりすごくなってるよね?」

「ですね。究極のナックモエといった体です」

「お? ユウトはムエタイ好きなのか?」

「父の会社のバンコク支社がタイ国内戦のスポンサーなんです」


 そういうやつね。つーか、これムリだな。

 オレンジとネイビーのとこは目立たないけど、白いとこは醤油をリットル単位でこぼしたみたいになってる。


「今日はこのままここで野営にするのか? それとも丘陵地方面へ行くか?」

「行っても着きはしないよな?」

「無理だね。そもそも丘陵地で野営はできないよ」

「なぜ」

「あそこは草地で見通しが良すぎるからね」

「あぁヒツジに集られ……はっ、はくしょん! (さぶ)っ!」


 冬季鍛錬には慣れているが、雪解け水はやっぱり冷たい。


 ともあれ、ここで野営することに決め、シカは一晩沈めて冷やす。

 ユウトが水系統上位の氷冷を使えるようになったので、アデーレへ戻るまでに鮮度が落ちることもないだろう。


「食事は私が作るね」

「頼むわ。腐りそうなやつからどんどん使ってくれ」

「そうする。ココアちゃん、ユウトさん、手伝ってくれる?」

「いいよー」

「もちろんです」


 素っ裸の上から防寒着を羽織り、ウォームアップ代わりに天幕を設営しようとミレディに向け顎をしゃくる。

 支柱や蝋引きのキャンバス生地は重いが、軽くブーストすれば難はない。


 最後に木杭を打ち込んでいると、ミレディが木槌で肩をトントンしながら寄って来た。


「イオリはこの先も錬金術師として生きていくのか?」


 ミレディに目を向けると、僅かに視線を逸らされた。

 ルーカスがフリーズしたくらいだから、察しはつく。


「探索者資格は取るかもだけど、迷宮で稼ぐ気はない」

「潜るのは素材のためか」

「必要な素材が手に入らない時だけな」

「手に入らないような素材は深層から先じゃないか?」


 それなあ。奇特な猛者パーティーを捕まえるしかないだろうなあ。

 分け前は要らないから、この素材は俺にくれ、みたいな。


「今んとこ手に入らないようなモンはないから、先は分からんね」

「そうか。迷宮都市へ来る時は私が所属するクランを訪ねてくれ」

「デカいクラン?」

「人数は五十もいないが十席会の一角だ」


 へぇ、百以上あるクランのトップテンとは凄いな。


「なんてクラン?」

金色狐(こんじきこ)だ」


 なにその怪しい名前。化け狐?


「なんか意味あんの?」

「マスターが神獣金狐の血を引いていてな」

「わお、神獣ってマジでいたんだ?」

「お前知らないのか? リリアーナも神獣の血統だぞ?」

「えっ!? あぁいや、そう驚くことでもないか。リリ神秘的で超カワイイし」

「………」


 こらこら、アホを見る目を向けるな。現然たる事実だ。


「行くことがあれば寄らせてもらうよ」

「私から誘っておいて難だが、ウチのマスターに色目を使うなよ?」

「あん? 女の人ってこと?」

「リリアーナに勝るとも劣らない美貌のマスターだ」

「分かった。是非とも寄らせてもらう」

「やっぱり来るな」

「分かった。是非とも寄らせてもらう」

「お前は…」

「ジョークだよ。俺はリリとココアがいればそれでいいの」


 まあ、行くとしてもまだまだ先の話だ。

 探索者認定試験を受けるには、戦士か魔術師の五等級以上って規定がある。


 ギルド員証を持ってるのは俺だけだし、その俺も八等級でしかない。

 戦士ギルドのガンドウが等級上げには年数がかかると言ってたことだし、俺らが漏れなく五等級まで上がるのはいつになることやらって話だ。


 さておき、テントならぬ天幕の横にトイレを置いて設営完了。


「便所を売り出すのはいつだ?」

「この程度の完成度で売り出すつもりはねえな」

「そうなのか…」


 ミレディ兄貴は既にシャワートイレの虜だったりする。

 初日の野営で初めて使ったミレディが、恍惚とした表情でトイレから出てきた時は笑った。

 遮音してるから聞こえなかったものの、中で嬌声を上げたに違いない。


「センパーイ! ごはんできたよー!」

「おーう! 行こうぜ」

「食事が楽しみになる野営なんてお前たちくらいだ」


 持って来た食材からして、美味いメシが食えるのも明日が最後だろう。


 カノンたちが作った今日の晩飯は、オーソドックスなオムライス。

 卵が新鮮な内に使い切ってしまおうってことだろう。

 米じゃなく押し麦だしケチャップもないんだが、フレッシュトマトを煮詰めたソースは甘ったるくなくて好みだ。


「これは美味い。よく考えてある料理だ」

「良かった。卵はもうないけど中身はまだありますよ」

「そろそろ米食いたくね?」

「あたしも思った」

「探せばありそうですよね」

「ん? 米は南部から取り寄せできるぞ?」

「なん…だと…!?」

「テンプレ台詞きた」(笑)


 分かってくれたココアの頭を撫でてから、ミレディを問い詰める。

 どうやらタイ米っぽい話だが、大麦より安く売ってるらしい。


 俺を含めて「米がないと生きていけない!」ってタイプじゃないが、普段のメシで「ここに米があれば」と思うシーンはたまにある。

 値段は高いがスパイスもそれなりに流通してるみたいだし、米があるならテンプレの異世界カレーを作れそう。


「なあカノン」

「カレーかな?」

「それ」

「食べたい!」

「いいですね!」

「インド系って言うか、スープカレーで良ければすぐ作れると思う」

「よし、帰ったら取り寄せ注文だな」


 俺はサラサラで辛いカレー派だから、スープカレーはむしろウェルカム。

 素揚げした野菜と、ほろっほろの骨付きチキンドラムカレーなんて最高だ。


「カレー作れるならあたしナンが食べたい」

「私もナン好き。美味しいチーズあるからチーズナンもいいよね♪」

「イイ! カノン作れる?」

「パン屋さんで酵母をもらえばフライパンで作れると思うよ」


 ココアとカノンがすっかり仲良しになったのは良いことだ。



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