48:画策
道往きは快調で、三日目の午前中に魔獣の森の際に到達した。
予想を遥かに超えて森林の密度は高く、木の一本一本が異様に太い。
とまあ、それはいいんだが。
「想像の斜め上いってんな」
「怖いよ…」
「考えが安易すぎたね…」
「どんな生態系ピラミッドなんですかね…」
森の際にはデカいヘビ。ショッキンググリーン単色のツルっとしたやつ。
胴体の直径は三〇センチくらい。長さはよく分からないが長い。
「なあ、あれ毒持ち?」
「どちらも神経毒だ。毒性は同等なんだが、カエルは群れるし射程も長い。おまけに酸毒も分泌するから溶かしながら食う。お、打ちそうだから見てろ」
ゲコッ ゲーコ ゲーコ ゲーコ ゲコッ ドシュドシュドシュドシュドシュッ!
ギシャァァァァァァァ……ドスンバタンドスン……
「「「「うわぁ」」」」
「決まったな」
体長一メートル近いずんぐりむっくりのカエル五匹が、鋭い先端の舌をすんごい勢いでヘビに刺した。
のたうち回るヘビの胴体にはバックリ溶けた跡がいくつもあり、瞬く間に毒で動けなくなったヘビが地面に沈んだ。
五匹がビョーンと跳んで食らいつく。
「さあ行くか」
「「「「いやいやいやいや!」」」」
「ん? 奥へ行かないとシカはいないぞ?」
「あの横を歩いて行く気かよ!」
「食いきるまでは他に目を向けやしない。ほら行くぞ」
やべえ、ミレディが漢前だ。兄貴って呼ぼうかしら。
いやそうじゃなく。
ココアとカノンは顔面蒼白だ。ユウトも膝がカクカクしてる。
「ミレディちょい待ち」
「どうした」
「お前ら馬車で待ってていいんだぞ?」
「センパイは行くの?」
「さすがに独りじゃシカ引きずって来れねえだろ。いくらミレディが漢前でも」
「誰が男前だ!」
ココアとカノンが『怖いけど…』と呟いた。
俺だけ行かせることに気が引けるんだろう。
「ユウト、二人を連れて馬車に戻ってろ。反論は認めねえ。行け」
「分かりました。カノンさん、吉岡さん、ここは黒須さんに任せましょう」
「…ちゃんと帰って来てね?」
「心配すんな。ミレディの兄貴が肉盾になってくれる」
「お前ほんと失礼で酷いな!?」
マジでブチギレ五秒前のミレディを宥め、背を押してヘビ食ってるカエルどもの横を抜け森の中へ。
森の密度が高いから一気に薄暗くなる。
「イオリも待ってていいんだぞ。シカは――」
「土系統魔術で運べるんだろ。分かってんよ」
「錬金以外は苦手なくせに、そういう察しはいいな。何を企んでる?」
ミレディはムダに勘がいい。
「状況次第だけど、ちっと試したいことがあってさ」
「フン、強化だろう」
「お前ほんとムダに勘がいいな?」
「お前はいつも一言余計だな? で、もう出来るのか?」
難しい質問しやがる。
試すって言ってんだから分かるわけないだろ。
「これくらいの厚さのミスリル板なら腕力で曲げれる」
「は?」
経験豊富なミレディがこの反応か。悪くない。
ぶっちゃけ、魔獣狩りよりもブーストに関するミレディの評価を知りたかったまである。
「ちょっと見ててくれ」
カーゴパンツのポケットから作業用の革グローブを取り出しつけた。
巨木の前に自然体で立ってゲートを開き、魔力を供給しながら高速循環をかける。
肌から魔力が漏れ出る感覚を掴んだところで拡散しないよう留め、右脚と右拳に魔力を集中させ…
「しっ」
ドパンッッ!!!
「なっ!?」
軸足が地面に跡を残し、古流の縦拳打が巨木に楕円形の破砕痕を描いた。
円心の深さは二〇センチあるかないか。
前回より深くなってるし、拳にダメージはない。
この場の雰囲気のせいか調子がイイような。
「もうひとつ見てくれ」
「あ、ああ」
今度は左足首から左膝、股関節、腰、脊柱、右肩、右肘、右手首、右掌の一連に魔力を集中させ…
「覇ッ!」
ドシンッ! ゴバーーーンッッッ!!!
「ば……馬鹿な……!?」
深く踏んだ震脚が木の根ごと地面を穿ち、大地の反発力と筋力を関節の連動で右掌に伝播させ、掌底打が巨木の深部を粉砕した。
円形破砕痕の奥に粉砕された木屑が貯まっている。
アニメでしかない結果に、我ながら震えてくる。
「ふぅ。最初のが【岩崩】で、今のは【獅子哮】っていう浸透勁の打撃だ。どう思う?」
「本気…いや違うな。全力でやったのか?」
「どっちも八…えぇと、今日の八割だな。少しずつ上げながら試してる」
「前々から思っていたが、イオリは頭がおかしいな?」
「お、ケンカか? ケンカだな?」
「茶化すな。どこで試してるんだ?」
「黙秘権を行使する」
「ど・こ・で・た・め・し・て・る」
「うるせえな? ルーカスに喋るなって言われてんだよ。ココアたちも知らん」
(シルバラッド様が口止めなさる程ということか……)
ミレディが、哀れな木と俺を交互に見て、思案を始めた瞬間に手刀!?
薙がれる手刀を半身のスウェーで躱した。
「てめえ、魔術師のくせに意外と速いじゃねえか」
「イオリも錬金術師だろうに」
「まぁそうね。で?」
「私が幼体を釣るから狩ってみないか?」
そうこなくちゃ。
「やる」
「索敵をやったことはあるか?」
「むしろ得意」
「おかしなな錬金術師だ」
感知をかけろ的に顎をしゃくられたが、森に入った時から感知はかけている。
色んなのがいるものの、大きさ的にこれだろう。
シカっつーよりエルクだな。
「シカって群れる?」
「もう見つけたのか? この森で群れるのはシカくらいだが、数は判るか?」
「大型が五と、中型が九、小型が馬くらいで六」
「(干渉魔力波を全く感じない…)動きも感知できるか?」
「水場でまったりしてる感じだな」
「は? そんなことまで判るのか?」
「最近の趣味は魔力感知だぜ」(キメ顔サムアップ)
兄貴が不審者を見る目を向けるので、説明してやろう。
二重減圧で魔力強度をグンと下げ、更に線化して細かい網目状かつ球形に編む。
自分を中心として網球魔力を一秒に一回展開し続けると、魔力を持つ全てを感知できる。
魔力量や大きさは当然ながら、それが動いているのか静止しているのか。
動いてるならどう動いて何をしているか。
かなり正確なイメージが脳裏に浮かぶ。
シカは寝転がっているヤツや、首を上げたり下げたりしているヤツもいる。
水場だと分かるのは、ここが領域だからか、水も僅かに魔力を帯びている。
「まさか、ずっと感知をかけてたのか?」
「分かんなかっただろ。魔術師にバレない方法を考えるのに苦労したわ」
「……距離や位置も判るか?」
頷いて小枝を拾い、地面に〇を描いていく。
俺とミレディ、哀れな木、馬車にココアたちで、川はこう流れてる。
ここから四〇〇メートルほど先に水場がこんな形であって、シカはこんな位置どり。
小さいのはちょろちょろ動くが、母親だろう中型からそう離れることはない。
あと、群れの周りを遠巻きにうろつく、大型犬サイズの個体が四頭いる。
「こんな感じ」
「そこまで出来てなぜ錬金術師なんだ?」
「安全に稼げるから」
「説得力が凄いな…」
ミレディは闇系統魔術の【幻惑】を二体の幼体にかけ、親に気づかれないないようゆっくりと釣りだす。
俺は群れから三〇〇メートルほど離れた川沿いで待機。
俺と幼体の距離が一〇メートル程になったところで、ミレディは【高揚】をかけて【幻惑】を解く。
戦闘態勢の俺に気づいた幼体たちが襲いかかってくる、と。
感心するくらいプロフェッショナルだな。いや待て。
「二体に襲われるじゃん。ヤバいじゃん」
「心配するな。無理そうならイオリから遠い方を私が仕留める」
「じゃあ近い方に速攻かけて、イケそうなら二体目もやる」
頷いたミレディは群れの方へ歩き始めた。
歩速が速いのに、足音や衣擦れの音がしない。
ミレディ兄貴は漢前。このフレーズが俺の中でもう流行ってる。




