47:魔獣の領域
朝メシ食ってルーカスん家まで行って馬車に乗り込み、ミレディの家へ。
御者台に並んで座るユウトとカノンはラブラブしてる。
「ミレディーちゃーん! あーそーぼーっ!」
「四階まで行くのめんどかったんだ」(笑)
「声張るのもめんどいけどな。拡声器でも造るか」
ものすごい勢いで玄関を開けたミレディが跳び出してきた。
「お前は子供かっ! 恥ずかしいだろ!」
「はいはい、さっさと降りてこいミレディちゃん」
「くっ!」
ガチガチのフル装備で来るかと思いきや、普段と変わらない。
魔術発動体だろうアクセサリーが少し多いくらい。
「これは何だ?」
「トイレ」
「は? わざわざ作ったのか?」
「俺らお上品だから」
「どこがだ。そんなことじゃ探索者になれないぞ」
なる気はないが、やっぱ所かまわずか。
「迷宮の中って臭そうだな」
「そんなことはない」
迷宮の床や壁、天井は、迷宮産物以外を飲み込むそうだ。
探索者の遺体も三十分ほどで飲み込んでしまうらしい。
戦闘が長引けば遺品の回収は出来ず、ポーターが荷物を背負ったまま死んで飲み込まれると、探索を打ち切って帰還するしかないのだと。
「ところでイオリ、ヒツジとシカを狩ると言ったよな?」
「言ったな。問題あるか?」
「棲息領域が違う」
「「「「え」」」」
「シカが棲む森から北西へ半日も行けば、山脈手前の丘陵地が見えてくる。ヒツジはそこだ」
アデーレから見ると、南西から北西へと山脈が走っている。
山脈を北へ越えるとイヌイット的な少数民族が住んでいて、西へ越えるとお隣の国がある。
山脈が曖昧な国境線になってるらしい。
ヴォーリッツ王国北部に位置する鉱山都市がアデーレなので、西側の鉱山周辺は魔獣領域を潰してある。
東側には領都へ南下する街道があるため、こっちの魔獣領域も潰してある。
が、アデーレ以北には潰されてない領域が点在しているそうだ。
「寒い土地のシカってデカそうだよな」
「雄の成体は軍馬の五割増しで大きいぞ」
「デカっ!?」
「ねえセンパイ、そんなに大きいなら十頭もいらなくない?」
「十頭も狩るつもりだったのか?」
「シカとヒツジを十頭ずつで考えてた」
「お前たちの狩りの目的は何なんだ?」
狩りの趣旨を説明するとコートの表地と裏地、靴、バックパックならシカは幼体二頭で十分だと言われた。
ヒツジは積載量的に三頭が限界だとも。
シカもヒツジも肉が美味いので、ミレディは肉が目当てだと思っていたらしい。
「便所はまあいいとしても、清流があるのに水の大樽を二つも積んでどうするんだ。空の中樽ひとつでいいだろうに」
そんな気はしてた。アデーレの傍にも山脈が源流の川が二本あるし。
「ねえねえ、狩りってどうやるの?」
「私は闇、土、火の三系統魔術師だから、狩りなら【地槍】を使う」
「狩りなら? 他にもあるの?」
「討伐なら【火球】で丸焼きにして、討伐証明部位を切り取る」
「へぇ~」
納得の理由だ。
【地槍】はグランドランスって感じだろう。
皮を取るなら下顎から頭蓋を貫通させればいい。
ヒツジも羊毛をリリとココアのニットに使うから、頭を狙って串刺しだな。
丸焼きにしたらココアがキレる。
「縄と滑車は血抜き用か?」
「要らねえって言うんだろ。もう分かってる」
雪解け水の川が近いなら、首の太い血管を切って腹を割り、川に沈めればいい。
血と内臓と汚れは流れて、肉も冷えるから一石四鳥だ。
川の魚も餌が流れて来て喜ぶことだろう。
内臓を埋める穴掘り用にスコップ造ったが、これも要らなかったな。
「イオリは狩りの経験があるんだな」
「三回だけな」
「そうなの? いつ?」
「中三と高一と高二の冬休み。爺さんの山籠もりに強制連行されて、ペンションやってる猟師のおっさんと狩猟に行って教えてもらった」
「ふ~ん。何を狩ったの?」
「イノシシとシカ」
「シカは焼くに限るが、冬のボアは煮込むと美味いな」
熟成必須と言ってたけど、確かに牡丹鍋とシカの焼肉は美味かった。
大学受験がなけりゃ高三の冬休みも行っただろうな。
「おいユウト、方角がズレてるぞ。竜咢の方だ」
「すみません、それどこですか?」
「竜の咢みたいな山が見えるだろう? あれだあれ」
いや分からんし。星座レベルで分からん。
そもそも俺がイメージしている竜と同じかも怪しい。
結局は太い川沿いを北上することになり、低反発な座布団が欲しい気持ちを膨らませながら、当然のように俺の脚に座るココアを撫でる。
同じ暮らしをしてるのに、なぜココアとリリはいい匂いがするんだろうか。フェロモン?
何にしろ、ココアのぷりぷりプリケツは最高だ。
「思ったより距離を稼げたし、今日はこの辺で野営にするか。二頭とも良い馬だな。高かったんじゃないか?」
「ルーカスの名前が利いてんじゃね?」
納得の表情でミレディが先に降り、トイレを二人がかりで降ろす。
「なんでこんなに重いんだ!?」
「ああ、天幕ってのと敷革を入れてる」
「天幕まで持って来たのか!?」
「あたしたちお上品だから」(笑)
朝晩の冷え込みもなくなったし、要らないかなとは思ったが、雨に降られでもしたら流石に眠れないから買った。
ユウトとカノンが馬の世話をする間に、ココアとミレディを助手にしてキャンプめしを作る。
帰りは干し物ばかりになるが、行きはちゃんとした物を食いたい。
カチッ ボォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!! カチッ
「ほんと便利だな。母さんも驚いていた。いつ売り出すんだ?」
「ダンカン商会がそろそろ売り始めると思うぞ。五十万シリンで」
「ほぉ、そんなに安いのか」
マジか。ダンカンが「五十万でも安い」と言うはずだ。
ちょっとココアさん、ムダにキョドらないでくれ。
材料原価が二万五千だから気持ちは分かるけども。
にしても、なんで魔導製品って高いんだろう。
他の工房の買ってバラしてみようかね。
「イオくん私も何かお手伝い…クロックマダムだ!」
「朝メシっぽいけどな。生ハムとポーチドエッグのバージョン」
「贅沢な食材ばかりで美味そうだ。有名な料理か?」
「有名っちゃあ有名だな。すげー遠い国で」
最近見つけたチーズが美味すぎたから、ホールで買って担いで帰った。
この辺のチーズは塩気と臭いが強いものばかりなので、感動的に美味く感じる。
カロリーを気にしなけりゃ、チーズマカロニをがっつりいきたいところだ。
付け合わせは青豆のガリバタソテーと、フレッシュトマトと干し野菜のスープ。
「よし出来た」
「すごい量だな。まあ、イオリたちの魔力量と強度ならそれくらいは食うか」
「なんだと?」
「あたしも気になった」
「やっぱり理由があるんだね」
「興味深いです」
食べながら問い詰めようと、天幕に入った。
高いだけあって、真ん中の支柱に折り畳みテーブルが付いてて便利だ。
「「「「いただきます」」」」
「んんっ!? 美味い! 卵がトロトロだぞイオリ!」
「食いながら叫ぶな子供か」
「チーズが美味いぞー♪」
「スープも美味しいね。酸味がきいてるのに、まろやかでいい香り」
「僕は嫌いだったグリーンピースが病みつきになりそうです」
ポーチドエッグを作った湯でそのままスープを作ったから、ワインビネガーとトマトの酸味がきいてる。
まろやかに感じるのはサフランを入れたからだ。
もちろんルーカスん家のキッチンからパクってきた。
「さてミレディ、魔力と大食の関係をサルでも分かるように説明しなさい」
「講師みたいな物言いをする生徒だな?」
「いいから早よ」
「循環は魔力路を分岐、延伸させるだろう?」
「だな」
「高強度魔力を大量に循環させるほど、魔力路の分岐と延伸は促進されるんだが、並行して、劣性で不活性な魔導因子が活性化され優性に変わる」
因子? 遺伝子的な?
「変わるとどうなる?」
「魔術師としての全盛期へ到達しようと、体や魔力器官の成長と発達が促進される」
「成長のエネルギー消費がデカいから大量に食うって?」
「大食の原因はそれだが、重要なのはその先だ」
「ほお」
「全盛期に至ると、魔導因子は全盛期の維持を始める。端的には長寿命化だ。要は見かけ上の不老なのだが、三百年以上も全盛を維持して名を馳せた先達もいる」
((((リョウタロウ・ナカムラ))))
四人して半笑いが止まらなくなった。はい、不老確定って感じ。
皆もリョウタロウ・ナカムラの名前が頭に浮かんだはずだ。
ま、俺たちは俺たちらしくやっていきゃあそれでいい。




