45:魔獣講座
活動報告にも書きましたが、5/6までは24時と12時に1本ずつ投稿します。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
迷宮都市向け百個の材料が揃うのは、三月二十日頃。
魔術薬を作る時期でもないので、ヒマ感がハンパない。
ユウトの貧乏も解消されたし、いい加減にレンタル防寒着を脱ぎたい。
とくればだ。
「服をオーダーメイドしようぜ」
「ムリっすよパイセン!」
「なにキャラ?」
「わかんない」(笑)
デザインは少し変更したが、パターンとかいう服の設計図は完成している。
なぜ無理なのさと尋ねれば、もうオーダー済みだから、と。
「は?」
「トップスとボトムスだけね」
「いつ?」
「昨日。センパイがリリを襲ってた時」
「襲ってねえけどマジで?」
「マジっす。ってことで魔獣狩りに行こうぜ!」(サムアップ)
「なに言ってんのアホなの?」
「ちょっとだけ」(キメ顔)
「仕立て屋さんにね、コートの裏地は魔獣素材がベストって言われたの」
「ブーツもです。革職人を紹介してもらいました」
読めた。
トップスとボトムスは仕事に支障がなく、役割にも合うデザインにしている。
俺のトップスは夏用のTシャツと、冬に重ね着する厚めのロンT。
ボトムスはちょいルーズなカーゴパンツ。今がタイトカーゴだから。
靴は、つま先鉄板入りのエンジニアブーツ。
ココアは夏用にオフショルのロンTと、冬用はハイネックのロングニット。
ボトムスは『ミニスカと見せパンは譲れない! 冬は毛糸パンツ!』だと。
靴は柔らかい革素材のニーハイブーツ。
夏用にデッキシューズも作るらしいが、俺はビーサンがほしい。
リリはトップスがココアと同じで、ボトムスは俺と同じがいいそうだ。
ココア快心のタイトなワンピースは『恥ずかしいよ』と却下された。
リリにルーズカーゴはピンとこないから、タイトなカーゴにする。
靴はココアが可愛くデザインした編み上げブーツ。
ユウトはスリーピースとネクタイに、靴はショートブーツ。
カノンはリボンシャツとパンツスーツに、ユウトと同じくショートブーツ。
ココアのミニスカとニーハイブーツ以外は、デザイン的に無難だ。
靴底は錬金合成した強化ゴムにする。
こっちの靴底は、木製か薄い革を貼った物なので歩きにくいこと請け合いだ。
問題は、クソ寒い冬用の防寒着。
オシャレとか言ってられない寒さなのだ。
切っ掛けは、リリが『お揃いにしたーい!』と言ったこと。
チームなんだしいいじゃんってことで、立て襟のフード付きダッフルに決定。
フードも含めて裏地をリアルファーにするかもしれない。
俺は出来た物を着るから何でもいい。
「動物より魔獣の方がいい理由は錬金処理するからか?」
三人が頷いた。
これの切っ掛けは、俺が『寒くねーの?』とルーカスに尋ねたこと。
俺たちがガクブル震えていた時も、ルーカスは薄手の黒ローブだけで平然としていた。
聞けば、裏地が錬金処理した魔獣の毛皮だから寒くないと。
動物の毛皮も特殊な錬金処理をして裏地に刻印すれば、魔力を流すことで保温効果を得ることが出来るそうだ。
それが魔獣の毛皮になると、僅かな魔力量で格段に高い保温効果を得られるらしい。
「コートの裏地は分かったけど、ブーツは何でだ?」
「魔獣の革は耐久性が格段に高いそうです」
「ダッフルの表地はヒツジ魔獣の毛糸で、あたしのニーハイは羊革にするのー」
「防水と防カビ用の錬金処理もあるんだって」
「ルーカス出来るのか?」
「私が考案した処理法だ。三種混合錬金溶液に十日も浸ければよい」
あぁそうか、仕立て屋もルーカスの紹介だったな。
それはいいとして、
「魔獣ってヤバいから肉も高いんだろ? 狩れるのか?」
「魔獣ハンターより強い人がいるじゃん」
「………あぁミレディ?」
三人が頷いた。なんかすげえ高くつきそうなんだけど。
「解体は戦闘系ギルドと契約している解体職人に頼みます」
「あそ」
「あれ? センパイ嫌なの?」
「勇者になる気はないって言っただろ」
「うん…」
三人とも野生動物に遭遇したことがないから、気楽に考えてるんだろう。
野生は想像の何倍もヤバい。
ペットと違って、人間が敵でしかないからあっちは必死だ。
それが魔獣ともなれば…
「意外に慎重なのだな」
「悪いかよ」
「感心しているのだ。魔獣は捕食衝動の塊ゆえな」
「「「え…」」」
「そもそも魔獣って何なんだ?」
「ふむ、魔脈の話を覚えているか?」
魔力源として使う魔力結晶、通称「魔晶」がどういうモノかと尋ねた時に、魔脈の話をされた。
魔脈は、地中深くを縦横無尽に走る、天然魔力の生成構造体。
魔晶が迷宮の六十一階層以深でしか発見されないのは、太い魔脈ほど地中深くを走っているから。
魔脈から漏れ出た魔力が、長い年月をかけて結晶化したのが魔晶だ。
魔導金属も似たような物で、金属元素が魔脈から漏れ出る魔力の影響で変質すると、ミスリルやアダマス、オリハルコンになる。
「魔獣の第一世代は、地表に隆起した魔脈の影響で突然変異した野生動物だ」
魔脈が隆起した原因は、遠い昔に起きた大規模な地殻変動と云われている。
近傍の魔力濃度が高まり、世界各地で爆発的に魔獣が発生した。
厄介なのは、天然魔力が動物の捕食本能と凶暴性を異常に高めること。
証明はされていないものの、知能が低い動物ほどその傾向が強いらしい。
「魔晶ってヤバい物だったり?」
「謎多き物だ。魔晶によって人や動物が凶暴化した事例はない。魔石や魔核も同様だ」
「テンプレのご都合主義だな」
魔獣は満腹や空腹に関係なく、獲物を捕捉すると襲って捕食する。
肉体や五感が魔力で強化されているため、原種の動物とは比較にならない強さになる。
「魔獣が交配した第二世代以降は全個体が魔獣として生まれ、基本的に生まれた土地を離れることはない。故に、棲息地を領域と呼ぶ」
魔獣を領域から離して飼うと、捕食本能や凶暴性が経時的に弱まっていくのは証明されている。
それらの個体を闇系統魔術で精神的に縛れば、従魔として使役することが出来る。
「迷宮都市へ行けば、魔獣を従えている探索者が散見される。尤も、元来凶暴な種は、凶暴性が弱まる前に種の寿命で死ぬのだがな」
「魔獣領域って近くにある…よな。肉売ってるくらいだし」
「馬車で北へ三日の森が最も近い」
「意外と遠いな。いや違うか。馬車が遅いんだっけ」
魔獣が大発生した時代、多くの村や町、都市が魔獣の襲来で壊滅したそうだ。
以来、産業的な要所に町や都市を開発する際には、真っ先に魔獣領域を潰してまわるという。
「アデーレは潰した小規模領域の上に開発された都市だ」
「だから領都よりも魔力濃度が高いんですね」
「カノンも感知技能が向上しているようだな。重畳だ」
「ありがとうございます」
俺とココアはアデーレを出たことないんだよな。
ユウトは微妙な顔してんだが、まさかこいつ。
「僕も判りましたよ! 何となくですけど…」
いや聞いてないんだが、感知も顔と同じで微妙か。
魔獣に興味がないと言えば嘘になるけど、狩りたいとは思えないし…
「魔獣ハンターに依頼する方が良くね?」
「依頼料が高いみたいだよ?」
「おいくら?」
「さあ? リリに聞いてみる?」
「四人分の毛皮と皮なれば、解体料を含め五百万シリン程であろう」
「「高っ!?」」
「お肉の値段を考えればそれくらいしそう」
「狩りと運搬を一人や二人でこなすのも難しいでしょうし」
「ミレディなれば、百万程で動くと思うがな」
「一人で狩れるって意味か?」
ルーカスが頷いた。
コート裏地の保温性や、靴の耐久性と履き心地が前提なら、ヒツジとシカの魔獣で必要十分らしい。
迷宮六十階層を突破したミレディなら、単独でも余裕で狩れる種だと。
「黒須さん、複合魔導具プロトタイプの材料原価は約百万です」
「ナイスアイデアだよユウトさん! ミレディさんには四千万の価値があるね!」
「四千万で買った言うて仲間からお金取りそう」(笑)
守銭奴ミレディならやりそうだ。俺らには使いどころもないしな。
「ミレディん家に行くか。三千九百万スタートで売る」
「鬼」(笑)
「イオくん流石だよ」(苦笑)
「言われてみれば論理的ですね」
「材料費はルーカスが出してるからな」
「精々高く売るがいい」
「任せろ」
落としどころを三千五百万に決めて、ミレディ宅へ向かった。




