44:出荷
俺ら復活! 銀の車輪は癒しである!
なんか五百万ユルグ近く払わされたが、まぁよろしい。
一人に一人メイドを付けてもらったから妥当かもしれん。
初日と二日目は、皆してメイドから「あーん」で食わせてもらったし。
三日目は遅れ馳せながら喜びがこみ上げてきて、皆で抱き合いアオハルした。
休息日だったリリともたくさん話をした。
今日は二月末日の四十日。俺たちは確信を持ってルーカスの家へ向かっている。
カシュ ガチャン キィ…
ほらいやがる。
「来たか」
「来たか、じゃねえわ!」
「じゃねーわー!」
「やっぱり意図的だったんですね」
「中々に古風なやり口だと思います」
テンパってたからホテル三日目まで気づかなかったが、ルーカスはわざと帰って来なかった。
領主に呼び出されると分かった時に、そう決めたんだろう。
「嬉しそうな顔してんじゃねえ」
「フッ、よもや【発火】を千も造っているとは思わなかったものでな」
「あそ。で、そっちはどう決まったんだよ」
「うむ、日付は確定しておらぬが」
九月下旬から十月初旬あたりで、領主から男爵に叙される。
九月下旬なら年内にシュミッツへ赴任、十月初旬なら年明けに赴任する。
やはり王都でひと悶着あったらしいが、国王も渋々ながら承認したそうだ。
暇に飽かせて迷宮都市へも行ったらしく、十席会と呼ばれる上位クランの月例会議に出席し、複合魔導具プロ仕様の追加注文を請けてきたと。
「数と納期は」
「六月末までに百だ」
「よゆー」
「であろうな。早い分は構わぬし、これに関しては各クランとの直接取引になる。護衛込みの輸送費は四百万ほどみておけば良い」
皆で顔を見合わせた。商会利益と税金もなしで丸儲けってことか?
「ダンカン商会は知っているのですか?」
「無論だ。後ほど出荷のついでに承諾書を届けに来る」
手回しの良いことで。こいつ帰って来たの今日じゃないな。
「イオリ、ココア、ユウト、カノン、よくぞ遣り遂げた」
唐突だった。が胸に染みた。
そう、俺たちは遣り遂げた。いい言葉だ。
その他として、領都での戦勝式はルーカスが代理参列で済ませてきたそうだ。
ユウトとカノンは、野盗団討伐報奨金として総額五百万シリンを受け取る。
少ない気がするものの、ユウトは大喜びしてるからいいだろう。
これで個人資産はココアが最下位に転落だが、遅くとも来月には五百万シリンなんぞ誤差にもならない大金を、遣り遂げた成果として手にできる。
「王都の土産という程でもないが、中位国民証の交付が認められた」
テーブルに置かれたのは、ヴォーリッツ王国中位国民証と書かれた厚紙。
クレカより二回りほど大きいくらい。
国民証があるのは知っていたけど、ランクがあるとは知らなかった。
「中位って?」
「正規の職に就き身元が明らかな者だ」
自然と四人で顔を見合わせ、半笑いになってしまう。
身元が明らか?って感じだが、身元保証人の欄にはルーカスの名がある。
ともあれ、中位国民証は八等級の戦士ギルド員証より使えるはず。
今後はルーカスの紹介状や書付がなくても、材料注文を請けてもらえそうだ。
完全な課税対象者になったわけだが、国民と認められたのは素直に嬉しい。
そうこうしていると玄関がノックされ、ダンカン会頭と五人のゴリマッチョがやって来た。
外壁の向こうに馬車の幌が五つ並んでいる。五台も要るか?
「これはまた壮観でございますなシルバラッド様。木っ端貴族二家や三家の総資産を超えておりましょう。いや失礼をば。クロス殿、先ずはこちらを」
ルーカスへ目を向けると頷かれた。
「どうも」
思ったとおり直接取引の承諾書だが……
「あたしたちの名前だ」
「ほんとだ」
「なるほど、そういうことですか」
「どういうことだよ」
「魔導製品は僕らの領分、ということですよね?」
「然り。魔術薬の製造販売には免状が必要となる故な」
「あ~そういうことね…って、え? 納得してんのあたしだけ?」
「ココアだけ。だっておかしいだろ」
「なにが?」
「例えば、【治癒】の魔導具を造ったらどうなるよ」
「む、そだね」
「その話は後日だ。ダンカン、始めてくれ」
「承知しました。始めなさい。取り違えぬよう丁寧にな」
「「「「「へい!」」」」」
ゴリマッチョたちが木箱と麦藁束を運び込み、一箱に二十五個の複合魔導具を詰めていく。
麦藁は緩衝材か。何かにつけて環境に優しいな。
「造ったそばから箱詰めすりゃ良かったな」
「お部屋が広くなってくー」
「嬉しいような寂しいような」
「解かります。苦労の塊ですからね」
複合魔導具は一三〇〇グラム前後。魔石付きは五〇グラム増しくらい。
二十五個なら木箱の重量込みで三七キログラム超。
十四箱で五二〇キログラムほど。
【発火】魔導具は一箱に五十個か。
ノズルがアルミナ製だから、余裕で五〇〇グラムを切る軽量っぷり。
仮に五〇〇グラムとしても、一箱で三〇キログラム足らず。
二十箱で六〇〇キログラムほど。
総重量は一トンと一二〇キログラム。
鬼積みすれば一台でイケそうだが……出荷先が五ヵ所なのか?
「じゃあな、今夜は寝かさないぜ火も点けちゃうぜマンと火を点けるぜマン」
「まだ言ってる長いし」
「私たちは何も言えないね」
「はい、何も思いつきませんでした」
商品名は付けないことで落ち着いた。
日本人的感覚で「商品には商品名を」ってノリだったが、ダンカンに言わせれば「道具の名称は使っている者が好きに付ける」と。
小洒落た商品名を付けようとした俺らが間違っていたわけだ。
「クロス殿、こちらが商品の預り証明になりますのでご確認を」
当然のように渡されたんだが、こういうのは工房主の仕事なんだろうか。
いや、担当が決まってないからノータイムで俺にくるんだな。
「今から書類担当はユウトで」
「え…まあ、構いませんけどね。では私が受領します」
ユウトが預り証に目を通し、質問を始めた。
「要旨は責任や所有権の移転を、商品や案件ごとに切り分ける点ですよね?」
「左様ですな」
「過去の実例を三件ほど書面に纏めてください。費用が発生するなら請求書を」
「書面作成代を払って頂けると?」
「仕事ですから。但し、作業工数や時間単価が明確な請求書でお願いします」
「なるほど、不当請求は認めないと」
「当然です。そちらの単金が改定される場合なども事前通知をお願いします」
「承知しました。クロス工房は手強いですな。いや実に結構」
俺とココアは意味が分からず半笑い。
カノンは目をキラキラさせている。
ユウトがいて本当に良かった。
手塩にかけた魔導具たちを積んだ馬車を見送り、迷宮都市からの追加注文分と魔術薬についての話を始める。
なんかユウトがノリノリだ。
「材料の発注と納入を経験して、懸念を覚えました」
「単価と納期か」
「はい、ルーカスさんへの配慮が非常に大きいですよね?」
有名人ルーカスへの配慮が材料の値段や納期に反映されているため、シルバラッド錬金工房の材料購入原価は低く、納期も短い。
そういった恩恵を、クロス錬金工房も受けられるのか。
それがユウトの懸念だ。
絶対にやると決めているわけじゃないが、俺たちは便利な魔導製品を低価格で売りたい。
金持ちが楽を出来るのはジャパンも同じ。
だからといって平民の暮らしが不便すぎると、回り回って俺たちも不便な目に遭う。
今がそうだし。
大変すぎる仕事や家事を、ほんの少し楽にする魔導具を安く売りたい。
だから原価が上がると困る。ものすごく困る。
「ほんの少しか」
「楽にしすぎると困る偉いさんが出てくるんだろ?」
「言い得て妙だ。具体的に何を造りたい」
「井戸水とか排泄物を浄化する容器。これは絶対に造る」
「ふむ、仕事を失う者は出ぬ。貴族が文句をつける物でもない」
「それで、どうなんでしょう?」
「お前たちが配慮してもらえるよう、私は身元保証人になったのだがな」
「「「「あ~」」」」
したり顔ルーカスの一言で解決してしまった。
魔術薬についてはルーカスから注文を請け、ルーカスに納品すれば良い。
もしもの時に責任を取れという趣旨の免状らしいので、ルーカスが全数を【鑑定】して出荷すれば問題ないらしい。
「はい終了。材料発注しに行くか」
なんだかんだで、ルーカスには頭が上がらないと。




