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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第3章:自立編

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44/61

43:二月の修羅たち



 二月に入って十日が過ぎた。

 ルーカスが帰って来ないこと以外は順調と言っていい、ような気がする。


 俺の【造形】と【刻印】が超速で熟練度を上げていることもあって、四人でイイ感じに役割分担ができている。


 ココアとカノンとユウトは、アルミナ製の【発火】専用魔導具用ノズル千二個を、たったの五日間で造り終えた。

 高級品専門商会のダンカン会頭と打ち合わせをした結果、貴族家用にキラキラ装飾した物を卸価格二百万で五百個、装飾なしの平民用を卸価格二十万で五百個と決まった。

 残りの二個は自家用だ。


 俺たちが平民用の市場価格を五万以下に抑えたいと言ったところ、ダンカン会頭は『儲かっている平民に五十万で売らせてください。代わりに工房の租税分はダンカン商会が負担します』と返してきた。


 市場価格を五万にする簡素な造りのガチ平民用は、十年後に発売しても決して遅くないとの説得を受け入れた形だ。

 悪ぃが十年も先延ばしにする気はない。


 今はユウトが魔力源あり複合魔導具の内部配線を担当し、ココアとカノンが組み立てと動作チェックを担当している。

 魔力源ありの複合魔導具は、ふた手間多い上に三百個なので、先に終わらせてしまおうという生産計画。


 三百個が終わったら魔力源なしの複合魔導具プロ仕様五十個を造り、最後に【発火】専用の千二個を造る。

 【発火】専用は、外装が違っても核部品(コアパーツ)はミスリル系魔銀で必要十分。

 だが、ミスリル系魔銀は在庫が僅かなので最後に回した。


 にしても、ルーカスがいないだけでこんなに違うとは思ってなかった。


「ココア、今何個だ?」

「分かんない! センパイ速すぎ!」

「どんどん速くなってくね。でも不良は一個もないよ」

「僕も配線が追いつきませんけど、これで八十八個目です」

「今日中に九十五はイケそうだな。五日で九十五なら、日に十八個か」

「「「え?」」」

「え、違う? ()()は四十五だから十九個か。ははっ」(愛想笑い)


 九九を間違えることって、たまにあると思う。


 ともあれ、残り二百五個を十九個ペースなら……分からん。

 十一か十二日間だろ。とりま十二日間として、二十二日終わり。

 プロ仕様の五十個は二日間でイケるとして、二十四日終わり。

 これ余裕じゃね?


 魔銀を一日で造って二十五日。

 残り十五日間で発火専用を千二個だから…………六十……六か七個?

 はっはっはっ、余裕じゃねえぞオイ!


「複合魔導具トータル三百五十個が終わるまで毎日早出と残業で」

「だよねぇ」

「そうなるよね」

「ずっとミスリルを見てるので目がチカチカします」

「【ヒール】」

「おお! くっきりはっきりです! ありがとうございますカノンさん!」


 ヒールって眼精疲労にも効くのか。

 俺はストレッチをしたい。いや、運動したい。


 一日当たり二十個以上に目標を設定し、日に四時間残業を続けることにした。







 そして、


「動作チェックOKだよ!」

「やったあ!」

「あ~、最初の三日間が最後まで利いたなぁ」

「日産五台くらいでしたからね」


 三日遅れな二月十七日の晩メシ時に、複合魔導具三百五十個の製造が完了した。


 残り二十三日間で、魔銀作りと発火専用を千二個。

 余裕でも楽勝でもないし休日も取れないが、何としてでもやるしかない。




     ◆ー◆ー◆




―― ローメンス辺境伯府カルステン・デルリング邸 ――


「戻らずとも良いのか」

「イオリは『任された』と返答しました故」


 暮れゆく街の景色から目を移したデルリングは、ワイングラスを傾けるルーカスの表情に、不安や焦燥が見て取れないことを不可解に感じた。


 いくら才能に恵まれていようとも、四人がルーカスの弟子となってから三月程しか経っていないと聞く。

 報告を受けたユウト・イワサキ、カノン・カワセの腕前に疑う余地がなくとも、それは系統魔術であって系統外の錬金術ではない。


 ルーカスをして逸材と言わしめるイオリなる青年が突出しているとしても、国王陛下をも驚嘆せしめた複合魔導具を、僅か一月で三百五十も造れるのか。


「イオリとやらが其方(そち)よりも優れておるとは思えぬ」

「私のような万能型ではありませぬ。されど、特化型としての潜在能力においてなれば、私など比べ物にもなりませぬ」


 デルリングが生来の強欲を疼かせる。


「欲しいな」

(四人ともに不老長命。どこまで伸びるか量れるものではない)


 グラスを置いたルーカスが窓辺へ歩み寄り、片膝をつき俯いた。


「畏れながら、閣下が御せる器に非ず。陛下であろうとも御せませぬ」

「言いおる」

「幾度なりとも。イオリにヴォーリッツは狭すぎまする」

「信頼しておるのだな」

「信認しております」

「ふん、錬金術の腕前は関係ないと申すか」

「御意」


 一度たりとも直接的な苦言を呈したことのないルーカスが、ここまで言うのは警告の類だとデルリングは受け取った。

 件の野盗討伐を成した二人の上を征くなら、確かに安易な手出しは悪手と考えて然るべき。


(ローメンスが潤うだけで好しとしてやろう)


 デルリングはルーカスに着座を促すと、とっておきの蒸留酒を手に取り、新たなグラスを二つ置いて封を切るのであった。





◆ー◆ー◆ー◆ー◆





 二月三十六日の昼過ぎ、俺たちは昼メシのことなど頭から消えていた。


「川瀬花音、僭越ながら千二個目、行きます…」


カチッ ボォオオオオオオオオオオオッッ!!! カチッ

カチッ ボォオオオオオオオオオオオオオッッ!!! カチッ

カチッ ボォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!! カチッ


「よし」「ん」「ふぅ」「はぁ」


 もはや歓喜する気力すらない。

 そもそも大して嬉しいと思わない。

 全数が良品であって当然。

 とにかく今、俺は猛烈にダラダラしたい。

 三人とも目の下に濃いクマがあるってことは、俺も同じなんだろう。


 そうだ、ホテルへ行こう。


「提案。銀の車輪でダラダラ三泊。一回勝負」

「「「異議なし」」」


 自然と円陣が組まれた。


「「「「最初はグー、ジャンケンっ」」」」

「うそん…」

「センパイよろ」

「先に行ってるね」

「階段が面倒なので最上階にします」


 リリへの声掛けと支払いが俺に決まった。

 まさか一発で負けるとは…

 なぜ俺はチョキを出したのか……俺は不幸だ……


 ルーカスの家から銀の車輪へ直行するのと、戦士ギルドを経由する距離は四〇〇メートルくらいしか変わらない。

 が、その四〇〇メートルを果てしなく遠いと感じてしまう。

 そして、こういう時に限って十人以上並んでるっていうね…


 最後尾に並ぶと、前に並んでいる数人が『後ろのヤツ顔がヤバい』とか、『アンデッド?』とかヒソヒソ喋る。

 今はメンチを切るのもめんどい。


 五人ほど減って後ろが五人ほど増えたところで、リリが俺に気づいた。

 そういえば、このところリリと話していない。

 アパートへ帰った頃には、リリが夢の中だったから。

 朝もギリギリまで寝て、屋台メシで済ませていたし。


「次のイオリ……大丈夫?」

「どうだろね。でもやっと終わったよ。銀の車輪に来て。じゃ」

「待ってイオリ!」


 リリが二メートルはある窓口の仕切り板を軽いジャンプで跳び越えて俺の顔を両手ではさみ、愛情がたっぷり伝わってくるキスをくれた。


「「「「「「「なっ!?」」」」」」」


 ああ、俺は幸せ者だ。

 あと百個くらいなら今からでも造れそう。



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