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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第3章:自立編

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42/61

41:英雄カップルの凱旋



 明けて翌早朝、玄関をノックする音で開けるとルーカスだった。

 昨日の夜に領主の使いが来たらしく、これから領都へ行くからと、俺に家の鍵を預けに来た。


「後を頼むぞイオリ」

「任された。そっちは気をつけてな」

「うむ、ではな」


 軍馬で独り駆けなら夕方には領都に着くらしいが、何日滞在することになるか読めないそうだ。

 見送る時に初めて軍馬を見たが、あんなにデカいとは。


 そして日差しにオレンジ色が混ざり始めた頃、子供らに追われるユウトとカノンが逃げるように帰ってきた。

 大騒ぎする子供たちの言葉が超ウケる。


「オツカレ黒髪の水魔!」(大笑い)

「ぷっ、オツカレ黒髪の水魔くん!」(大笑い)

「……」


 ユウトに付けられた二つ名だ。


「タイヘンだったな嵐風の乙女!」(大笑い)

「ぷっ、タイヘンだたね嵐風の乙女ちゃん!」(大笑い)

「……」


 こっちはカノンの二つ名。


「噂の広まる早さが尋常じゃないです…」

「恥ずかしくて死にそう…」


 二つ名を付けたのはアジト潰しに同行した領兵だが、英雄譚を語るように言いふらしたのは御者のベンノ。

 ギルド前で吟遊詩人も斯くやと語っていたらしく、馬車の返却手続きを終えてギルドを出たら子供に集られたそうだ。


「で、鉱石はどうした黒髪の水魔」

「もうやめてくださいよ……ベンノさんが人手を集めて運び込んでくれます」

「裏庭が鉱石と岩塩で山積みになるけど、大丈夫かな?」

「あぁ岩塩もか。ルーカスが構わん言うてたろ」

「そうなんですが、ボーキサイトが予想外に多いんですよ」


 デカい馬車の荷崩れ限界まで積み上げたため、当初見込みの倍以上あるらしい。

 それで馬車の行き足が遅くなり野盗に襲われた。

 と思ったら違った。


 野盗団の情報収集担当二人が、領都で日雇い労働者を装い暮らしていたそうだ。

 襲ってきた野盗を拷問した結果判明したのだが、軽銀もあれだけ多ければ金になると考え襲撃したらしい。


 情報収集担当の二人は、領都の警備隊が捕まえに行ったら既に逃げていた。

 連行される仲間を見たのだろう。

 人相書きで手配がかかり、少ないが賞金も懸けられたようなので、今頃は捕まっているかもしれない。


「テンプレだとアジトの財宝総取りじゃねえの?」

「財宝という程ありませんでしたし、水浸しになりまして」

「領主様が買い取って報奨金に加えてくれるみたい」

「いくらもえるの?」

「まだわからないの。晩餐会もお断りして帰ってきたから」


 偉いさんに「よくやった!」とか言われながらメシ食っても美味くないわな。


 話の流れでルーカスが領主に呼び出されたと話したら、街道で会ったそうだ。


「今は錬金術に専念するよう言われたんですけど、何かありました?」

「私たちの将来のためとも言われたの」

「ルーカス貴族になるんだよ。もう断れないんだって」

「僕らのせいですね…」

「そりゃただの切っ掛けだ。遅かれ早かれの話だから気にすんな」


 本人は来月に造る複合魔導具が切っ掛けになると思ってたんだろうけど、切っ掛けが二ヵ月か三ヵ月早くなっただけで、年内叙爵に変わりはない。

 俺が【造形】と【刻印】の練習をすると言って、「私が楽をできるから励め」なんて返したのも、現状維持がムリだと分かっていたから違いない。


 ルーカスは自分の自由な生活じゃなく、俺らの将来を優先してくれた。

 本当にありがたいことで、またデカい恩が増えてしまう。


 精霊祭の前後で子爵か男爵になって、来年の今頃は交易都市シュミッツの代官になっているだろうことや、ここをこのまま使い俺が工房主として魔術薬や魔導製品の生産を続けていくことも話した。


「悪くない話だろ?」

「悪くないどころか、僕らにとっては最良ですよ」

「ルーカスさんには足を向けて寝られないね」

「足向けて寝たらダメなの?」

「え、えっとね…」


 カノンが猿でも解かる慣用句講座を始めたとこで、ユウトに顎をしゃくって製作室へ入る。

 テーマはもちろん、空間拡張術式だ。


「これとこれが転写した原板な。この三つは術式をバラして転写した原板」


 保管庫を開けて指差しながら伝え、ルーカスからユウトへの書類を渡す。

 速読まで出来るユウトが書類を捲り目を通していく。


「なるほど、発想の源泉は魔力器官かもしれませんね」

「全力で分かりやすく説明してくれ。小難しく喋ったらデコが凹の刑だ」

「理不尽です…」


 肉体重心に位置する魔力供給口、俺言葉ならゲートの先に魔力器官は在る。

 概念としては、ゲートと連続的に繋がる位相空間の中に在る。


 この世界の人に魔力持ちが少ないのは、この概念を理解するための知識を持っていないから。

 魔力を生成する器官がある場所をイメージできないため、現実にも魔力を生成できず魔術師になれない。

 それを習うには金がかかる。


「僕は魔素を素粒子だと考えています。物質を構成する最小単位の粒です。限りなくゼロに近いけど重さを持っています」

「うんうん。いい調子だぞユウト」

「魔力器官が魔素から魔力を生成するなら、魔力器官も構造体としての重さを持っています。重さは感じませんが、重さを持つ構造体のイメージは出来ます」

「だな」

「黒須さんはどんな場所に、どんな構造体があるイメージを?」

「エネルギーっつったら原子炉だろ。場所は無限に広がる真っ白な空間」

「場所のイメージが凄いですね…」

「バカお前、ファンタジーな空間っつったら真っ白がテンプレ様式だ」

「な、なるほど。えーとですね…」


 ユウトが保管庫の術式原板三枚を指差した。


「これが位相空間、黒須さんが言うところの無限に広がる真っ白な空間を構築する術式です。真ん中の一枚は物質に重さがないと定める術式です。そしてこれは、物質の状態を維持するために、時間の次元がないと定める術式です」

「やっぱアイテムボックスか。ご苦労」

「まだ続きがあるんですけど」


 複合術式を個別にバラす方法だろ。


「それはユウトとカノンの仕事だ。じゃ、アディオス」

「えぇ…」

「役割分担だ。お前ら【造形】と【刻印】これっぽっちも出来ないだろ?」

「出来るようになったんですか!?」

「今月中には完璧にやれる、はず。つーか、ココアの造形はヤバいぞ」

「ああ、それは解かる気がします」


 ユウトに同意だ。

 ココアはコス衣装とか小物のデザインが得意だから、立体的な完成形を明確にイメージできるんだろう。

 あと三日もやれば達人レベルになりそうな勢いだ。


 だがしかし! ココアしか完璧な【造形】が出来ない状況はマズすぎる。

 俺らが出来ないからと、無駄にカワイイばかりを造るに違いない。

 だから俺は頑張らねばならない。

 世界をカワイイで埋め尽くしちゃうゾ♪的なココアの野望を阻止するためにぃ!


「ユウトとカノンじゃなきゃ出来ないことの方が多い。だから役割分担は必要条件だと思ってる。オーケー?」

「オーケーです。術式関係はカノンさんと僕に任せてください」

「頼むわ。で、アルミはどんくらいで作れる?」

「アルミナです。作るだけならすぐです」


 野盗団のアジト潰しに出発するまで半日ほど待ち時間があり、商会で岩塩を買って試作してみたそうだ。

 なんのイレギュラーも起きず、思惑通りにアルミナが作れたと。


「これが実物です。ですが懸念はあります」


 ユウトはポケットから小袋を出し、作業台の上で逆さにした。


「アルミナって粉なのか。懸念って?」

「脱脂と焼結をしなくても造形物が硬化するのか、です」

「全く分からんけど、普通はどうやるんだ?」

「物にもよりますが、僕は3Dプリンタ造形をイメージしています。その前段で、アルミナゾルという水を分散媒としたアルミナ水和物のコロイ――」

「ストーーーップ! デコを凹にされたいか? ん?」

「全力で嫌です! 質問したのは黒須さんです!」

「まぁそうね。実験しよか」


 ということで、ココア師範に【造形】してもらった。

 なぜ某魔法少女のフィギュアなのかは神のみぞ知るところだが、指でつついて倒したら崩れてしまった。


「一つはユウトさんが脱水して、もう一つは私が焼成するのはどうかな?」

「完璧です、やってみましょう。では吉岡さん、二つ造ってください」

「任せろー♪」

「フィギアの次はストックを造形しなさい」

「ヤダ! 成功したら飾るんだもん! リリも絶対喜ぶし!」

「ならヨシ」

((いいんだ…))


 結果、脱水も焼成も成功して硬くなった。

 庭に出ておもっきり石壁に投げつけたら、脱水の方は腕が折れたものの、焼成の方は細い魔法ステッキが折れただけ。

 焼成の方が頑丈ということで合意し、ココアがもう一個造って一件落着。


「ねえカノン、ピルはどうなの?」

「行きの馬車で作ったよ。副作用もないし大丈夫そう」

「自分で試してんの!?」

「うん、自信あったから。今日が九錠目で順調だよ」


 希望する娼婦の臨床試験は、カノンのワンシートが終わったら始めると。

 カノンは昔から無鉄砲なところがある。



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