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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第2章:新生活編

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39:将来のために



 明けて翌朝六時、アパート前に四頭立てのデカい馬車が停まった。

 御者ベンノは年季の入った軽装姿。

 御者台の両脇に取り付けられた木製ホルダーには、シンプルなコンポジットボウとクロスボウがある。


「では行ってきます」

「行ってきます」

「いてらー」

「ベンノ、よろしくな」

「応、任せてくんな」


 四頭立てなら、例え野盗に襲撃されても余裕だとベンノは強気に言った。

 何が余裕なのかは知らない。


 ユウトとカノンは馬の世話を手伝えないので、往復とも野営はせず宿場町に泊まる。

 厩舎があり馬丁もいる宿なら、ベンノも楽ができるという話だ。


 当初予定から二日延期での出発になったが、確保できる軽銀鉱石の量は増えるだろう。

 延期を伝えるルーカスの書状には、領都の商工業者ギルドを通じて軽銀鉱石を集めてくれと書いてあったらしい。

 卒のない男だ。


「俺らも行くか」

「はーい」


 普段より一時間半ほど早い出勤。

 プロモーション用の魔導具を造り始める前に、空間拡張術式のコピーと分析をしようという企画だ。


 ルーカスの下調べによると、術式が刻印されたミスリル板はバッグの底に仕込んであり、丁寧に解いてコピーして縫い直すにも結構な時間がかかる。

 言うたら術式をパクる行為なので、革職人に外注するわけにもいかない。


 だが、こっちにはコスを手作りしていたココアがいる。

 昨日の夕方にギルドで教えてもらった革製品専門の商会でレザークラフト道具を買い、繊維物専門商会では蝋引きの太い糸を買ってある。

 自腹では買いたくないお値段だ。


「はよーっす」

「おはよーございまーす」

「うむ、早速始めるとしよう」


 今日も淡泊なルーカスと製作室に入り、保管庫からショルダーバッグを取り出す。

 肩ベルトが長い斜め掛けタイプだ。

 入っていた物は全部出してあるので、足元には鉄塊が積まれている。


「ココア先生よろしく」

「任せたまえイオリくん」


 先生を付けるといつも男になるのはなぜだろうか。

 ココアは博士を付けた時も男になる。

 そういうイメージなんだろうけど。


 そこそこデカいバッグとあって、五センチ間隔くらいで糸を切って抜くだけで三十分くらいかかった。

 どっちかいうと飽きっぽいココアが、黙々と作業を続ける姿は新鮮だ。

 好きこそ物の上手なれってやつだろう。


「おぅ、こんな分厚い板が仕込んであったのか」

「気をつけて抜くのだ。抜いた途端に荷重がかかるやもしれぬ」

「了解」


 バッグは二重底になっていて、底面サイズの分厚いミスリル板が仕込んである。

 革グローブをつけて横倒すように板を抜くと…


「軽っ!?」


 重さを感じないまま抜けたミスリル板は、繰り抜いた部分に虹色の棒が挿してある。


「うわ、どんだけ魔晶使ってんだ。てか、なんでミスリルを繰り抜いたんだ?」

「魔晶の破損防止と、一体化せねば重量を消せないのであろう」


 魔晶は迷宮の深層、六十一階層以深でのみ稀に発見されるらしい。

 魔力用の充電式電池みたいな物なんだが、冗談みたいな値段で取り引きされている。

 天然結晶なので長さは不揃いなものの、直系二センチくらいの八角柱形状で成長する。


 長さ三〇センチくらいの魔晶が一億シリンで売られていたから、これだけの本数……えーと、十二本だから最低でも十二億シリン。

 バックパックとトランクどころか、バックパックだけでも無理だ。


「こんなモンどんだけ金があっても足りんわ」

「拡張術式が失伝した大きな理由の一つであろう」

「期待した分キツイけど、すっぱり諦めるしかねえな」

「小さいバッグでも良くない?」

「小さいの基準が判らねえじゃん。造った後で『小さすぎた!?』とかナシだろ」

「そっかぁ、四人分の荷物が入らないと使えないかぁ」

「諦める必要はなかろう」

「お? なんか案でもあるのか?」

「案ではない。事実に基づく試算だ」


 そう前置きしたルーカスが、魔導具の売上予算を語り始めた。


 魔力源付き複合魔導具の単価は五千万シリン。

 魔力源は十回の再充填が可能な魔石なので、材料コストはトータルで百万くらい。


 卸先商会の利益は二割で一千万。

 コストと商会利益を差っ引けば三千九百万。


 更に贅沢品販売税の五割を引いて、一千九百五十万が人件費を除いた粗利額。

 初回ロットの三百個分で五十八億五千万シリン。


 魔力源なし複合魔導具の単価は四千万シリン。

 材料コストは九十万くらい。


 商会利益は八百万。

 差し引いて三千百十万。


 税金を引いた粗利額は一千五百五十五万。

 初回ロットの五十個分で七億七千七百五十万シリン。


 二つを合わせて六十六億二千七百五十万。

 頭数の五で割れば、十三億二千五百五十万シリン…


「ヤバいよセンパイ人生狂う!」

「金出し合えばバックパックは余裕で作れるなぁ」

「あれ? どうしてそんな感じ? 嬉しくないの?」

「いや嬉しいけど、一発で十三億だぞ? 家買う他に使い道なくね?」

「む………ないね。欲しいモノ売ってないし」(半笑い)


 薄く笑んだルーカスが術陣の面を表にして、『【鑑定】』と呟いた。

 ルーカスも使い道がないから、あくせく仕事をしてなかったのかもしれない。


「これは………凄まじい」

「見たことある術陣とはこう、景色が違うな」

「めっちゃ複雑だね」

「複雑すぎて別物っつーか、いくつかを一つに纏めてんじゃね?」

「良い感性だ。的を射ておる」


 ミスリル板と、薄いオリハルコン板を金庫から出したルーカスが【刻印】した。

 天然オリハルコンは加工後に魔力を込めると自己修復特性が発現するため、大切な術式や術陣の永久保存に適している。


 どこぞの古代遺跡からも、魔法式を刻印したと推定されるオリハルコン板が発見されているらしい。

 解読できないもんで使えはしないが、神学者にとってはプライスレスな歴史的遺物だと。

 なぜ神学者かは知らん。


「この機に複合術陣の読み解き方を教えておく。ユウトとカノンにも伝えよ」

「無茶を言うな。いい加減に理解しろ。俺を誰だと心得る」

「あたしを誰だと心得る!」

「……」


 魔術言語の勉強を続けているユウトとカノンならまだしも、俺とココアにそんな気はさらさらない。

 三つの隠然象徴(レイテントシンボル)が三角形の頂点に描かれているのは分かるし、三つが似ているのも分かる。


 二つが空間と質量か重力なんだろうとは思うし、テンプレならもう一つは時間軸だろう。

 何しろ、バッグの中に入っていたステーキは焼きたてだった。

 ユウトとカノンは狂喜してたが、俺とココアは「何の肉かな?」って感じだった。


 ともあれ、個人的には術陣よりダガーが気になっている。


「なあルーカス、短い方のダガーって魔剣的な?」

「魔剣と呼べる域には到底ない。刻印されているのは【砥磨】のみだ」


 腕利きの猟師や、魔獣ハンターが獲物を解体する時に使う魔導具らしい。


 猟師が使うダガーは柄頭に魔力源の魔石が填めてあるそうだが、これには付いてない。

 犯罪組織の構成員は魔力操作ができたということ。

 元魔獣ハンターとかだったんだろうか。


「こういうの売ってるとこ見たことないんだが?」

「イオリは剣を使えるのだったな。欲しいのか?」

「一振りくらい持っててもいいかなと。ロマンな意味で」


 一瞬だけ「なに言ってんだコイツ」みたいな目を向けられた。


「その程度で良いなら造ってやる故、武具商会で好みの剣を買ってこい」

「あぁそういうことね。魔剣もイケたり?」

「魔剣は魔導金属製であり、魔工鍛冶師が鍛造せねば話は始まらぬ」


 ルーカスが珍しく分かりやすい話をする。


 魔工鍛冶師とは魔力操作に長けた鍛冶師で、ミスリル、アダマス、オリハルコンといった魔導金属に魔力を込めながら鍛造する。

 剣身が帯びる魔力の量と強度が、魔工鍛冶師の優劣を見極めるバロメーターだと。


 鍛えた剣に付与術師が術式を付与、もしくは、錬金術師が刻印して初めて魔剣と呼べる一振りになる。

 付与や刻印する術式でメジャーなのが、【斬鉄】や【軽量】という話も分かりやすい。

 なんせ魔導金属はアホほど重い。


「使い手を選びそうだな」

「イオリなれば、嫉妬を買うほどの魔剣士にもなれよう」


 ココアが俺の親指を握った。目を向けると不安そうな顔をしている。


「変な心配すんなって。勇者になる気なんぞねえよ」(苦笑)

「うん! あたしバッグを縫い直しちゃうね!」


 まだ先の話だけど、ココアとリリのヒーローにはなりたいとは思う。

 大金持ちになれそうな流れだから、三人でこの世界を見て回るのも悪くない。

 その時に一振りの魔剣があれば、二人を守れる確率は上がるだろう。


 俺の剣術なんぞ高が知れてる。

 けど、日々増えている魔力と、ルーカスお墨付きの魔力強度や操作技能は魔剣との相性が良さそうだ。

 まあ、当分は【造形】と【刻印】の熟練度上げが最優先ってことで。


「俺あっちで【造形】と【刻印】の練習してっから」

「はーい」

「当月内に及第を得られるよう励め。私が楽をできる」


 正直なヤツめと思いつつ、ミスリル板を手に製作室を出た。



このエピソードで第2章は終わりです。

章間とか閑話はナシで第3章:自立編へ突入します。

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