38:価格設定
普段どおり18時にも投稿します。
「されば評論を頼む」
「はい、文句のつけ処がありません。小ささ、軽さ、形状、携行性、付加機能、使い勝手、効果、消費魔力量の全てが秀逸です。下層以深へ潜るパーティーは確実に欲しがります。だからこそ…」
四十一階層から下が下層だ。四十階層までは中層、二十階層までは上層になる。
現在の最深到達階層は、七十九階層。
八十階層の守護者を倒せず停滞しているそうだ。
「これまでの優位性が損なわれるか」
「仰るとおりです。特に、私のような闇系統魔術師は恐怖さえ覚えます。稼ぎが大幅に減るのは火を見るより明らかです」
なんのこっちゃと尋ねてみれば、パーティーで稼いだ金の分配額は等分じゃないらしい。
高等級パーティー程その傾向は強くなる。
細分化された貢献項目には点数があり、探索ごとに個人の合計得点で貢献度を明確にする。
合計得点に応じて分配率は決められる、と。
「道理であるな。されば売価を上げるしかあるまい」
「是非ともお願いしたいところですが…」
「なんなんだよミレディ、さっきから歯切れが悪くないか?」
「以前話したであろう。複製品の懸念だ」
はいはい、あったねそんな話。
「それコピーできねえから心配すんな」
「は?」
俺を信用しないミレディがルーカスへ目を向けた。
ルーカスが大きく頷く。
「事実として複製は至極困難だ。不可能とまでは言わぬが、私には無理だ」
「なんと……」
改めて魔導具をしげしげと眺めるミレディは、顔に「理由が知りたい」と書いてある。
するとそこで、
「不可能にするのはアリですね」
とユウトが言った。
「出来るのか?」
「観たことありません? 極秘任務を伝えた後で白煙を上げる再生装置」
「「「あ~」」」
インポッシブルなミッションのやつか。
ユウトが知る限り、融点が最も高い金属はタングステンで摂氏三四二二度。
一方、改良した【発火】の蒼い炎の温度は、推定値で一〇〇〇〇度超え。
それだけの高温なら、融点が高い魔導金属でも術式ごと余裕で熔かせる。
術式部分だけ熔ければ十分なのだから、時間もかからない。
実際には、術式が刻印された核部品を軽く丈夫な金属で覆う。
例えばマグネシウム合金とか。
形状とサイズは核部品に合わせるだけなので悩む必要はない。
覆った金属が破損したり分解されたら発火し、核部品ごと熔融する仕組み。
「発火させる方法は他にも色々ありますから、製品に合わせればいいと思います。魔力源は必須になりますけど、消費量が少ないのでコストは微々たる物です」
「いいじゃん。ウィンウィンだ」
ミレディの稼ぎは減らず、俺らの利益は増える。
「いくらで売るの?」
「価格設定って難しいよね」
皆の視線がミレディへ向けられた。
「私のパーティーに限った話だけど、三千万を超えると厳しいね」
「は? この前は五百万までって言ったじゃんよ」
「ここまでの代物を作れるなんて思うはずないだろう?」
そりゃそうだ。漢字が使えてラッキーって感じだったし。
でも三千万は高すぎるような気がする。
「ルーカスはどうよ。三千万は高すぎじゃね?」
「諍いの火種にならぬよう配慮するなら五千万でも構わん。買える者が限られる上に、先を見越すならば貴殿らも買うはずだ。違うか?」
「……はぁ、流石はシルバラッド様、お見通しですね」
全く意味が分からん。分かりやすく喋ると死ぬ病なのかね。
「ユウ…いやカノン、通訳してくれ」
「通訳って(苦笑) 値段が安いと深いとこへ行けるパーティーが増えるから、競争は激しくなるし、持ち帰る物の価値も今より低くなるんだと思う」
「「分かりやすい!」」
「ユウトさん、合ってるよね?」
「完璧です。競合製品が存在しないので、多少無理してでも買うしかありません」
なるほどねえ、迷宮産物の相場が崩れれば稼ぎが減ると。
逆に、高くても無理して買えば、もっと深い階層へ行けて稼ぎは増える。
「ミレディのパーティーってどんだけ稼いでんだ?」
「そんなこと言う――」
「実に興味深い問いだ。詳しく聞きたい」
あはは、ミレディが半目になった。
「言うわけないだろ」的な流れをルーカスにぶった切られた的な。
ぐっじょぶだルーカス。
「パーティーは私を含めて五名。最深到達階層は六十九階層。これが前提です」
探索者は、探索を三種に分けている。威力探索、集中探索、攻略の三種だ。
威力探索とは、新たに到達した階層の危険度を把握するのが目的。
危険度を十分把握した時点で集中探索を開始し、本気で稼ぐ。
稼いだら武装のメンテや更新をして、更なる深みを目指し攻略を開始する。
迷宮探索はこれの繰り返し。
ミレディたちが集中探索をする場合、ベースキャンプは安全地帯である六十階層奥の間。
守護者の間の先にあり、帰還用転移陣がある。
集中探索期間は短くとも十日間。最長は二ヵ月程度。つまり八十日間。
長期集中探索を行う際は、ポーターを雇って必要な物資を持ち込む。
ミレディたちが二ヵ月間の集中探索を行えば、持ち帰る産物の売却総額は、三億シリン前後だという。
しかし迷宮産物は贅沢品に該当するため、売却時点で五割を税金として徴収される。
税引き後で一億五〇〇〇万。月額にすると七五〇〇万。
仮に五等分とすれば一五〇〇万。
「月収一五〇〇万シリンかよ。やべえな迷宮」
「馬鹿を言うな。費用を差し引けば千二百万が精々だ」
「あぁ費用もかかるか。にしても年収一億二〇〇〇万じゃん」
「五体満足で生還すればな」
む、それ考えると微妙っすね。
「六十階層を突破した現役パーティーはどれ程だ?」
「私が帰郷する時点では五十足らずでした」
ルーカスが捕らぬ狸の皮算用を始めた臭い。
「多いのか少ないのか分からんね」
「現役探索者は常に二十万人前後いるんだぞ?」
「「え…」」
「すごいね」
「パーティーは五名編制がスタンダードなんですか?」
「安定するのは七名だね。私たちも二年前までは七名だった」
頭おかしいレベルの猛者パーティーは、安全地帯とか関係なく野営するそうだ。
ミレディたちはメンバーを補充したいが、高等級探索者の絶対数が少ないため難航している。
最深到達階層の六十八階層にしても、今の五人パーティーでは六十四階層が精々だと。
「死んだのか?」
「一人はな。もう一人は右脚を失い引退した」
よし、街中で生きていこう。安全第一。セイフティライフ イズ ザ ベスト。
「うむ、参考になった。礼を言うミレディ」
「恐縮です」
「で、いくらにすんだ?」
「魔力源なしを四千万、魔力源付きを五千万が妥当であろう」
ミレディがぼそっと『上手い…』と呟いた。
どう上手いのか気になるものの、話を続けるルーカスに傾聴。
王国軍と諸侯軍には魔力源付きを売る。
迷宮都市向けは魔力源なし。
初回ロットはアリが三百個とナシが五十個で総数は三百五十個。
今月中に素材を仕入れて一ヵ月で製造する。
要するに発売目標時期は三月初旬。
卸先商会の取り分は単価が高いので二割。
代金回収の目途は遅くとも四月中旬。
俺らへの支払いは四月末。
【発火】専用魔導具は、全て魔力源ありにする。
販売価格は卸先商会と協議して決める。
初回ロットは販売価格を基に決めるので未定。
手持ちの素材でセールスプロモーション用サンプルを製造する。
製造人員はルーカス、ココア、俺の三人。
ユウトとカノンは明朝出発で軽銀鉱石購入旅行。
控え目に言って、クソ忙しくなると。
「イオリ、この魔導具には名称があるのか?」
おっとぉ、商品名は考えてなかった。
ユウトたちへ目を向けるも、「どうぞどうぞ」って感じで丸投げされた。
どうするか…分かりやすい方がいいよな。
「今夜は寝かさないぜ火も点けちゃうぜマン」
「ないわー」
「ないよね」
「ふざけてます?」
「ふざけてねえわ! 文句言うなら丸投げすんな!」
領都へ行って帰ってくるまでに考えろと、ユウトとカノンに丸投げ返し。
ミレディは帰宅し、俺たちは商工業者ギルドへ素材の発注に出かけた。




