37:仕様と試用
やはり高級ホテルはのんびりと過ごして満喫すべきだ。
昨夜の晩メシは「メニューのここからここまで」を実践できたし、リリたちは部屋でガールズトークを、俺とユウトはバーラウンジのカウンター席でボーイズトークを繰り広げ泥酔した。
さっきの朝メシもレストランへ行き、料理人たちがセミオープンキッチンで調理した出来立てをもりもり食べた。
次回は水着を用意して、皆で展望風呂に入って飲もう計画もある。
ホテル満喫計画とは別に、空間拡張バッグが中々の優れモノだと判明した。
最大容量は判らないものの、バッグに手を入れると内容物が脳裏に浮かぶ。
鉄塊とか構成員の私物や食料、水樽なんかも入っていたのだが、出したい物が今見ている場所に出せるか出せないかを判断できてしまう。
例えばソファを見ながら鉄塊を出そうとすると、「重量で座面が破れる」と判断できる。
そーっと置いたら破れないじゃ?と思っても、「破れる」と確信的に判ってしまうのだ。
物を入れる時は普通に手で持って入れられるのは当然として、サイズや重量的に持てない物は、対象物の一部にバッグの口を被せて「入れる」と思考すれば入ってしまう。
ルーカスが欲しがるはずだ。
「誠にありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「こっちこそ快適な宿泊をありがとな。また使わせてもらうよ」
エントランスを出ると、皆で一斉に振り向いて宿を見上げてしまった。
「「「「また来ような((ね))(ましょう)」」」」
セリフまで被ってしまい笑った。
「じゃあ用事を済ませてから行くわ。ルーカスに報告しといてくれ」
「はい、では後ほど」
ユウトとカノンは、バッグを持って先にルーカス宅へ。
俺とココアは、すぐそこにある双子の実家レストン商会へ。
「いらっしゃいませ! レストン商会へようこそ♪」
「元気だな。ルーカス・シルバラッドの使いで来たんだけど、会頭いる?」
「は、はい! ご案内いたしますのでどうぞ!」
「どこ行ってもルーカス言うだけで余裕だね」(笑)
ココアの言葉に頷いて案内された応接室で待っていると、目元がジャンにそっくりのダンディさんがやって来た。
ジャンとの服装の差が胸にくる。
「ようこそお越しくださいました。会頭のオルディオ・レストンでございます」
「初めまして。俺はイオリ、彼女はココアです」
「承りました。どうぞお掛けください」
ジャンの罪科は取り調べが終わってから決定されるし、事が事だけに公表されることはないだろうとルーカスに言われている。
要するに、ジャンは無断欠勤だと思われている状態だ。
誰がどう動いてといった余計なことは言わず、ジャンが捕縛されたこと、長男のこと、リオとミアのことだけを伝えた。
「大馬鹿者が何ということをっ!」
「一つだけ言っとく。ジャンが道を踏み外した原因は両親とあんたにある」
ジャンが俺に言った言葉をありのまま話す。
会頭は愕然とし、次いで頭を抱え項垂れた。
「事実を伝えに来ただけだからこれで」
「待ってください!」
何を言うつもりか分かる。ルーカスに釘を刺されたから。
「面会は許可されない。会えるのは数年後、痩せ細った遺体のジャンだ」
「あぁ…すまないジャン…愚かな私たちを許してくれ…うぅ…」
俺たちの目を憚らず泣く会頭から視線を切り、ココアの手を握り商会を出た。
「辛いね」
「ああ。俺らに起こっても不思議じゃないことだし」
「どゆこと?」
「俺らの子供に日本と地球の知識はない。それをもどかしく感じるかもしれない」
ココアが耳先を赤くしてもじもじし始めた。
ぜってー違う方向で受け取ってる。
「センパイはどっちがいい? やっぱり男の子?」
「(ほら)ココアに似てればどっちでもいい」
「えへへ~♥」
「ほら行くぞ」
「はーい♪」
次に向かったのはミレディの家。
もしいなければ魔術師ギルドで講義だろう。
「なんだイオリか。リオとミアはまだ来てないぞ」
「知ってるよ。入るからどけ、邪魔だ」
「この前の紅茶が飲みたーい」
「お前らなあ!」
ミレディには会頭に言わなかったことを少し加えて話す。
タイミングを計る必要もないため、ジャンの言葉も含め一連を一気に語り聞かせた。
「どうにもやれ切れない話だ……」
「ジャンに会わなかったことを早くも後悔してるか?」
「なんで私が後悔するんだ」
「領主に雇われた闇系統魔術師の探索者がミレディだからだよ」
「ま!? 熱っ!」
驚いた拍子に紅茶が親指にかかったらしい。可愛いヤツめ。
「どうして分かった。お前は占術師か」
北部辺境伯領で闇の上級まで使えそうなのはミレディくらい。
これはルーカスが言っていたこと。
講義の時に感知した熟練の魔力操作や豊富な知識。
リオとミアの境遇とほぼ同じ過去。
アデーレに帰郷したタイミングと、長期で滞在する必要はあるが暇な時間を持て余す状況。
雇われたのが魔術師の探索者という事実。
「これだけ揃ってミレディが頭に浮かばなけりゃアホだろ」
「ちょっ!」
「もしココアが死ぬほどアホだとしても、死ぬほど愛せるからいいの」
「えへへ~♪」
「お前ら何しに来たんだ…」
「調子に乗ってる探索者を凹ましに来たんだよ。あんたの耳には遅かれ早かれ全部届きそうだと思ったもんでな」
「イオリお前……」
「それ、そういうとこだ。豪快ぶってんのは何の皮かぶってんだって話な」
探索者としてのミレディがどんなもんかは知らない。
でも、ミレディは情に厚いし脆い。
そう感じさせる言動が多い。
悪だと断じたジャンの本質が善人で、道を踏み外した経緯を知れば、ミレディは自分を責めそうだ。
とっととジャンに会って【告白】でも使っていれば、ジャンを救えたかも…みたいな。
今更考えても意味はないと頭で解かっていても。
まあ、俺の予想でしかないものの、ミレディが本域で後悔するようなら、家族が愛する故郷アデーレに、帰りたくても帰り辛い想いが生まれそうだ。
物理的に帰れない俺らからすると、それは寂しいこと。
だから事実をつきつけて、先に凹ましてやろうって企画だ。
「……どうにもお節介な男だね? でもまあ、礼を言っとくよイオリ」
「そんな言葉は要らん。この家を半額にしてくれマジでマジで」
「嫌だね」
「即答かよ! 金持ってんだろうが!」
「知らないのか? 金はどれだけあっても困らないんだぞ?」
「くっ、高所得者優遇税制死ね!」
(なんか優しすぎる思ったら、下心ありありじゃん)(笑)
親切からのあわよくば作戦は失敗。
あっちもこっちも、世の中は甘くないねホント。
「次だ次、金持ちミレディから小銭を巻き上げる。一緒に来い」
「どこにだ?」
「ルーカスん家。ほれ行くぞ」
「シルバラッド様の……まさか、もう完成したのか?」
「まあな。買わねえとか言ったら、広場で一晩中ウソつきミレディって叫ぶ」
ココアがもらった迷宮都市限定のお菓子を食べながらルーカス宅へ。
ミレディが借りてきた猫のように、おとなしくも丁寧な挨拶をした。
「そう畏まらずともよい。探索者としての評価を頼む。本音で構わん」
「承知しました」
ユウトが奥から魔導具を持ってくると、ミレディは想像していた外観との乖離が大きかったのか『小さい…』と呟いた。続けて受け取ると『軽い!?』と瞠目し、俺たちに視線を巡らせた。
はいはいそうねと思いながらユウトに向け顎をしゃくると、ユウトは機能と使い方の説明をルーカスに頼んだ。
のだが、ルーカスは『術式創作者が説明して然るべき』などと供述。
めんどいのでユウトに押し付けてあげよう。
ミレディにとっては、仕様の全てがセンセーショナルだった様子。
プロ仕様なので魔力源は内蔵していないが、自分を実験台にしたところ、【覚醒】の数倍は明瞭化された意識を実感し、精神負荷は微塵も感じないと。
何より、消費魔力量が十分の一に満たないという事実に、大きなショックを受け茫然としている。
「一体どんな術式を組めばこんな……」
「ミレディさん、発火も試してみてください。このレバーを赤●の印まで倒したらこう持って、引き金を引いている間だけここから炎が噴き出ます」
カチッ ボォオオオッ! カチッ
「なっ!?」
カチッ ボォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!! カチッ
「っ!?」
「火遊びする子供かよ」
「うるさいね! 魔力の消費が殆どないんだよっ!」
「うるさいのはお前だ。んなこと知ってるっつーの」
コンパスの精度やノコギリナイフとコルク抜きの使い勝手まで試したミレディは、魔導具を両手で持ちしげしげと眺めるのだった。




