30:完成品
実用試験を瞬間寝落ち白猫リリでやってみたところ、大問題が発覚した。
「うぅ…眠れない…イオリ酷いよぉ…」
【覚醒】の解除機能を忘れていたため、眠れなくなったリリが半泣きだ。
「マジでごめん!」
「リリごめんね?」
「これは盲点でしたね」
「どうする? ルーカスさん起こしに行く?」
「俺が行って造り直してくるわ。少し時間かかるかも」
「僕も行きます」
「いやお前走るの遅いだろ」
「簡易にスイッチングする機構案がありますし、発火の改良案もあります」
足は遅いが最終的に早く終わりそうなので、俺がバッグを担いで一緒にルーカス宅へ走った。
灯りがついているため窓から覗くと、ルーカスは部屋の隅っこでワインを飲みながら本を読んでいる。
自由な自営業の余裕ってやつか。
パンッ!
指先で窓を弾くと、ビクッとしたルーカスがこっちを見た。
「ルーカスくーん、あーそーぼ?」
たぶん半眼になってため息をついたルーカスが玄関を開けてくれた。
ガラスが透明じゃないし魚眼レンズみたいなのでたぶんだが。
「どこまで阿呆なのだ。しかもユウトまでとは」
斯く斯く然々と経緯を話したら、ルーカスも『失念していた…』と呟いた。
聞いてもいないのに「未知の文字だったから」などと供述しているが、どうでもいいから早く入れろや。
お宝たくさん製作室へ移動すると、ユウトが機構案を紙に書き始めた。
【覚醒】用トリガーを一つにして、銃のセーフティレバーに似た部品を加える。
解除用の術式は「事象解除」にして裏面、つまり【発火】の隣にスペースを空けて貼り付け、覚醒と解除をレバーでスイッチできるよう、ミスリルワイヤーを追加して繋ぐ。
「事象解除は魔銀で大丈夫でしょうか?」
「支障ない」
【覚醒】と比べて【発火】は術式が短いので、魔銀に【刻印】した【事象解除】を裏面の端っこに張り付ければ干渉しない。
フォントサイズ八で書いた「事象解除」の刻印に必要な魔銀は、横二〇ミリ、縦一〇ミリもあれば、ミスリルワイヤーを繋げるにも必要十分なサイズだ。
「これが構造イメージ図です。どうでしょう?」
「うむ、問題ない。むしろ画期的でさえある」
「ではこれで。次に【発火】の改良案ですが、黒須さんの消費魔力量低減と供給魔力強圧縮を拝借して、燃焼原理を盛り込みたいと考えています」
【発火】には「発火」しか刻印していないので、魔銀のサイズを大きくして「発火」「酸素供給」「収束噴射」「消費魔力量低減」「供給魔力強圧縮」の五つに構成を変えたい、と。
「そうするとどうなるんだ?」
「省エネタイプのガスバーナーになるはずです」
「ばーなーとは何だ?」
問われれば必ず答えるユウトを横目に、内心『なるほど』と感心してしまう。
【発火】と銘打っているものの、実際に出るのは太い蝋燭の炎くらい。
紙や乾燥した麦藁なら問題ないが、そこそこ太い焚き木や薪に火をつけようとすれば時間がかかる。
もし俺が「薪に火をつけろ」と言われたらユウトにやらせる。
「百聞は一見に如かずと言いますし、改良して試しましょう」
「いいだろう」
ユウトと二人で魔導具をバラしている間に、魔銀の塊を出したルーカスが【造形】で板を造っていく。
「発火」だけだったので板ではなく銀箔といった感じだったが、今回は五ミリくらいの厚さだ。
「事象解除」の方は少し薄い三ミリくらい。
こういう細かいところが量産コストに響くので重要だ。
ルーカスが【刻印】を済ませたところで、ふと思った。
「これどうやって剥がすんだ? …………シカトですか、そうですか」
呟くような詠唱を始めたルーカスが、【剥離】のトリガーワードを唱えた。
そういうことね。便利なもんだ。
魔力遮断材は錬金処理で真っ白になった蛇皮なので不気味だが、片端に【事象解除】を【固着】で貼り付け、逆端に【発火】を貼り付ける。
ルーカスはこれまで筐体を炭素鋼製にしていたようだが、ユウト案で比較的に軽く頑丈で錆びにくいステンレス鋼製に変更してある。
スイッチングレバーもステンレス製にして、ルーカスが【造形】でレバーを造り、続けて木製ストックにも【造形】をかけて取り付け機構を追加した。
ちゃちゃっと造ったミスリルワイヤーで【事象解除】とレバーを繋ぎ、組み直して完成だ。
「重くなった感覚は殆どないな」
「重量計が欲しいですよね」
「一キロと三〇〇グラムってとこだ」
「なぜ判るんですか?」
「一キロのリストバンドに冷凍ハンバーグを二個乗っけたくらい」
「斬新な量り方ですね…」
「何の話か分からんが早く【発火】を見せよ」
「だとよ」
「僕が最初でいいんですか?」
「お前が改良したんだから当たり前だろ?」
あからさまに嬉しそうなユウトがストックの底を天井に向け、【発火】用のトリガーを引き絞った。
カチッ ボォオオオオオオオオオオオッッ!!! カチッ
「成功しました」(満面笑顔)
「あれば便利ってレベルじゃなくなったな」(サムアップ)
「秀逸だ。単体でも確実に売れる故、発火専用魔導具を造り贈呈品に加える」
「どなたに贈呈するんです?」
「領主閣下と軍務卿閣下、迷宮都市で上位クランを統べる十名のマスターだ」
「セールスプロモーションですか、いいですね」
「その話は明日しろ。早く帰らねえとリリがマジ泣きになる」
バッグを抱えたユウトを置き去りにしてダッシュで帰ると、涙目のリリはベッドの上で膝を抱えていた。
横に座っているココアが舟をこいでいるという鬼畜っぷりだ。
「イオリぃ…」
レバーを白塗りの〇側へ倒し、先端をリリの腕に当ててトリガーを絞る。
すると、途端にリリがとろんとした目に変わった。
「待たせて悪かった。眠くなったか?」
「うん、眠るまで抱きしめてくれたら許してあげる」
「お安い御用だ。おやすみリリ」
「おやすみイオ……」
「早ぇな」(苦笑)
抱きしめていた時間は三秒くらいだったというね。
「おいココア、お前もちゃんと寝ろ」
「ぁ……センパイ…お帰り…」
起きそうにないので後頭部を支え、腰を引いて寝かせる。
今夜はココアが真ん中だ。
こっちの人は睡眠時間が長いよなと思いつつ、ベッドに潜り込み眠った。
明けて翌朝、最近は腹が減って目が覚める日々を送っている。
体感的に原因の見当はついているが、それを確かめたからといって腹が減らないわけじゃない。
「おはよぉイオリ…早いね…」
「おはよう。まだ眠そうだな」
「ん…明日は休息日だから頑張る」
「朝メシ作ったから食べてけよ」
「ん、ありがと」
スパイシーチキンステーキ、焦がしバターの半熟スクランブルエッグ、緑豆の塩茹で、キャロットラペ、ライ麦パン。
結構な頻度で食卓に並ぶウチの朝メシだ。
こっちの朝の定番は厚切りベーコンステーキで美味いんだが、脂を摂りすぎな気がしてチキンにしている。
チキンと言っても鶏に似てる鳥だし、ベーコンよりも高価なのだけど。
卵も高級品だが、完全栄養食だし好きなのでまとめ買いしている。
日本の卵は黄身の色が濃いものの、こっちの卵は欧米の卵と同じで黄色が薄い。
黄身の色が濃いと栄養価が高いと思ってる日本人は多いが、一概にそうとは言えない。
最近は黄身の色を濃くする配合飼料があるからだ。
「美味しかった。チューして」
「喜んで」
バター風味のキスだ。
毎朝思うがリリは果てしなく可愛い。
出勤するリリを見送り三枚目のパンに手を伸ばしていると、ほとんど目を閉じてるココアがふらつきながら起きてきた。
「おはようセンパイお腹空いた…」
「ふらついてっと危ないから座ってろ」
大盛りのワンプレートを置くと、
「いただきまーす♪」
目をパッチリ開けてすぐさま食べ始める。
「センパイのゴハン美味しい♪ いいお婿さんになるね」
「ココアも作れるようになれ」
「カノンに教えてもらってるよ。頑張るから待ってて?」
「楽しみに待っとく」
空腹で目を覚ますのは俺とココアだけ。
おまけに食量がどんどん増えている。
ユウトとカノンも増えているが、俺たち程じゃない。
魔力器官の発達度合いか、魔力量の増加率か、操作技能の熟練度か。
その辺が原因だと予想している。




