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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第2章:新生活編

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30/61

29:プロトタイプ



 今回は貧乏なユウトのためにプリンタを使うことにして、アパートへ取りに行く道すがら抽出について聞いてみる。


 土壌元素限定のようだが、土系統魔術で【抽出】が出来たそうだ。


 ユウトとカノンがアパートやルーカスの家で魔術を使いまくっているのは、六大系統の相性を検証するため。


 ユウトが言うに、確かに相性の良し悪しはあるものの、相性が悪い系統でも、物理学知識をたっぷり盛り込めば使えないことはない。

 逆に、ユウトのメイン系統は水だとルーカスが言ったとおり、水系統なら物理学知識を盛り込まなくても、比較的簡単に事象を発現できる。


「僕が【発火】に苦労したのは、火系統が水系統の対極だからだと思います」

「物理学知識なんて込めなくても発火できたじゃん」

「そうなんですが、ちょっと見ててください」


 周囲に人がいない場所へ小走りで行ったユウトが、右手を空に向けた。


ボッ…ゴォオオオーーードシュッ!


 両手の平を天へ向けたユウトの頭上一メートル程の高さに出現したバレーボール大の赤い火球が、色を青に変えた瞬間に大空へ射撃され、あっという間もなく空の彼方へ消え去った。


「アニメだ…ユウトのくせに」

「ヤバいね…ユウトのくせに」

「たまには褒めてあげて?」


 俺たち的には誉め言葉のつもりなんだが、カノンには届かないらしい。

 片やのユウトは、いたって普通の表情で戻って来た。


「どうです?」

「本域ですげえよ。知識をぶっこんだバージョンなんだろ?」

「はい。色温度が高くなったのは燃焼原理で、射撃角度、初速、加速度を設定して射撃しました。ですが、僕の火系統は今のが限界です」


 水球ならリアルタイムで軌道を変化させながら、一度に複数を射撃できるというから驚きだ。

 超高速でぎゅいんぎゅいん曲がりながら飛んでいくらしい。


「合気柔術系統とかあればいいのに」

「お絵描き系統とかあればいいのに」

「なるほど、面白い発想ですね」

「これまでにイオくんがやってきたことを考えると、出来ちゃいそうな気がする」


 ジョークをジョークとして受け取らない病の患者かよ。


 とはいえ、古武術を人間科学の面で研究している人は実際にいる。

 たまに爺さんが学者と話していたんだが、死生観や合気柔術を選んだ動機、身体への負荷や効率、技術が成立するまでの社会的もしくは歴史的背景なんかを、真面目な顔で何時間も話していた。


 斯く言う俺も大学でスポーツ科学を専攻していて、将来はプロアスリートにトレーニングやリハビリを指導する仕事に就きたいと思っていた。

 就活をしなかった理由は、日本だと引退した選手がトレーナー職に就くケースが多いため、そもそものパイが小さすぎて話にならない。


 その点、親父と母さんが永住するだろうアメリカは、プロのトレーナーやリハビリインストラクターが専門職業として確立されている。

 プロトレーナーをプロスポーツチームに派遣する企業もあれば、プロスポーツチームのフロントが求人をかけるのも当たり前の話だ。


 億単位の報酬で、私設トレーナーやリハビリインストラクターを雇うプロアスリートも少なくない。


「センパイは出来そうだからいいよね。あたしはどうしようもない」

「そうか? 術式とか術陣の刻印みたいに、描いた絵を転写する魔術とか出来そうじゃね?」

「それいい! 楽しそう! 広場の壁とかにカワイイ絵を転写したい!」

「ストリートアートで一流の売れっ子アーティストになった人物も多いからね」

「デザインパターンを自動で裁断できる魔術とかも良きだよね!」

「いいと思う。ココアちゃん服飾魔術師って呼ばれそう」


 人生には楽しみが必要だ。楽しいことを仕事にできればもう最高だ。


 バッグごと持ってルーカスの家へ戻り、ユウトがノートを見ながら漢字術式をタイピングしてプリントアウトした。

 チョイスしたフォントは游ゴシックで、フォントサイズは九。

 游ゴシックはサイズが小さくても潰れ難いのだと。


 ルーカスは目を丸くしたまま絶句しているが、放置でいいだろう。


「いいな。潰れてないし読みやすい」

「三分の一くらい小さくなりましたね」


 これなら筐体をそこそこ頑丈にしても、総重量二キロ切りは余裕な気がする。

 こうなると、出し入れ簡単で持ち運びしやすいデザインにしたい。


「細長いミスリル板にすれば、帯剣ベルトに提げる形にできそうじゃね?」

「………」

「おーい、ルーカスに聞いてんだけど」

「う、うむ、良いのではないか?」

「うむ、こりゃダメではないか? ユウト、凸版印刷の件を説明しといてくれ」

「了解しました」

「ココアとカノンはこっちにカモン」

「はーい」

「何するの?」

「アイデア出しとデザイン検討」


 警棒にもなるライトを想定してたものの、ちょっと面白くない。

 【覚醒】魔導具はそう頻繁に使うものじゃないだろうけど、腰に提げるならもっと使いたくなる何かを付け加えたい。


「戦士、魔術師、軍人が、あったら便利って思うモンは何だろな?」

「分かりません!」

「コンパスとか?」

「「天才かよ」」


 コンパスを持ち手のケツに付けてやろう。

 あ、コンパスといえば…


「十徳ナイフがあれば便利じゃね? いや十も要らんけど」

「天才かよ。ってカノンも乗ってこーい」

「天才かよ…」


 爺さんに何度か強制連行されて山籠もりに行ったことがあり、その時にコンパスが付いた十五徳ナイフを爺さんが使ってた。


「こっちなら硬いパンとか干し肉を切るノコギリナイフと、コルク抜きと…」

「火打ち石はどうかな?」

「どうせなら【着火】できるようにすればよくない?」

「あ、その方が断然いいね」

「ココア優勝で」

「イエーイ♪」

「いや待て。優勝は優勝なんだけど…」

「構造をちゃんと考えないと使いにくくなりそうだね」

「それもそうなんだけど……ちょっとタイム」


 真剣な眼差しでユウトの話に聞き入っているルーカスの視線を遮るように立つ。

 ものっそい不機嫌な顔になった。天才同士は話が合うらしい。


「一枚のミスリル板の表と裏に、別モンの術式を刻印してもイケる?」

「無理だ。刻印した術式同士が干渉して双方ともに機能せぬ」


 やっぱりか。


「術式その物が干渉するんじゃなく、術式を通った魔力が干渉するんだろ?」

「厳密にはそのとおりだ。よく理解している」

「どうも。魔力を遮断する素材ってある?」

「薄いミスリルを貼り合わせる際に、魔力遮断材を挟む発想か?」

「せめて三秒くらい悩めよ。で?」


 顎先を摘まんだルーカスが考えこみ始めた。

 あるにはあるけど、何かしらの問題もあるって雰囲気。


「どんな術式を加えるつもりだ?」

「着火っつーか火炎放射…いやまぁ発火でいいか」


 怪訝な顔されたので、コンパスとかも加えて云々と趣旨を説明した。

 すると、商品として面白いが、発火を加えない覚醒専用魔導具もラインナップすべきだと。


「とある蛇の皮を錬金処理すれば魔力遮断材は作れる」


 珍しい蛇でもなく無毒なので仕入れ値もたかが知れているし、用途は違うが魔力遮断材自体はポピュラーな部材らしい。

 が、一定以上に強度が高い魔力の遮断は出来ないため、生まれつき魔力強度が高く、魔力操作技能の減圧を使えない人用に、着火を加えないバージョンもラインナップしろと。


「魔力強度がどれくらい高いとダメなんだ?」

「ユウトの強度が閾値に近い。カノンの魔力は遮断できぬ」


 ユウトの魔力強度は並みの魔術師の倍近いから、客観的にみれば魔力遮断材は高機能材と言ってよさそうだ。あとは…


「発火の方は魔銀でいいよな?」

「その辺の商会で売られている物で十分だ。尤も、お前たちがいると作る方が安上がりという妙な話になるのだがな」


 ミスリル系魔銀は銀の純度と、ミスリル粉末を【合成】する際の熟練度、そして導入する魔力の強度で品質が決まる。


 ユウトが魔力導入をした魔銀でも、その辺で売っている物の倍は品質が高い。

 まあ、ひと山いくらのクズ銀から純銀を抽出し、キッチリ合成するルーカスあってこそなんだが。


 目途が立ったので、ココアたちとデザイン検討に移った。


 帯剣ベルトから抜いた時の先端側を【覚醒】にして、ケツを【着火】にすべきだろう。

 コンパスは筐体の側面に埋め込む形にして、持ち手にノコギリナイフとコルク抜きを仕込む。


「こんなんどお? 魔法少女ステッキ風」

「可愛いけど…」

「ガンドウみたいな奴が腰に提げてる絵面を想像しろって」

「ドン引きする」(笑)


 製造コストを下げつつスタイリッシュにするため、スイッチ代わりのトリガーが両サイドにある短いマスケット銃のようなデザインにした。

 持ち手側の鋼材筐体を細い筒状にして木製ストックを挿せば、ストックにノコギリナイフとコルク抜きを仕込めて簡単になるし、コンパスも鋼材筐体に埋め込むより楽だし見やすい。


 そして三日後、プロトタイプと呼ぶに相応しい複合機能魔導具が仕上がった。



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