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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第2章:新生活編

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29/61

28:そう思い通りにはいかない



「チッ、まだ重いな」

「重いー」

「大きさと形もちょっとあれだよね」

「筐体も限界まで薄くされているので、これ以上は難しいと思います」

「術式文字を更に小さく書けぬか?」

「あれ以上小さく書いたら潰れて読めなくなる。潰れたらダメなんだろ?」

「駄目だ。線が多い文字ゆえの難点か」


 五日間で【覚醒】魔導具を三つ試作したものの、理想形には程遠い出来栄えがモチベを下げてくれる。


 体感重量は三キログラム程、見た目は今も爺さんが使っている昭和なデカい懐中電灯といった感じ。

 あのデカさでよくも懐中なんて名をつけたもんだ。

 巨人の懐にでも入れる気かと問い詰めたい。


 理想形は重量が二キログラム未満で、アメリカの警察官が警棒としても使うライトのような形状だ。


 漢字をもっと小さく書ければコンパクト化は可能なのだが、まさかシャーペンの芯が0.5ミリの2Bだったがために挫折するとは夢にも思わなかった。

 あの時の俺は、なぜ0.3ミリのHBを買わなかったのか……濃いのが好きなのよー。


「よし、メシ食いに行こう」

「お腹空いてるとイライラするもんね」

「春らしい料理がいいな」

「ジャパンなら新蕎麦と山菜の天ぷらですかね。僕はタラの芽が好きです」

「私もタラの芽の天ぷらが一番好き。お抹茶塩で」

「いいですね、魅力的です」


 ない物を語ってどうすんだ。食いたくなるからやめてくれ。


「ルーカスも行こうぜ」

「私はこれで良い」

「また大豆バーかよ。栄養偏りまくりだろうが」

「薬草や干し果実も練り込んである」

「ワンパンで両膝つきそうな体して何言ってんだ。しかもどんだけ美白だよ」

「センパイ酷い」(笑)


 結局は部屋の隅っこで大豆バーを齧りながら本を読み始めた。

 天才って生き物は、興味があることしかしないからイカンね。


「あと十日も経てば防寒着がいらなくなりそうだな」

「そういえばレンタル品だたね」

「服を買いに行きたいな」

「僕はお金がないのでお預けです」

「私が貸すから一緒に買いに行こう?」

「いいんですか?」

「もちろんだよ」


 週イチで教会の光系統魔術師に【清浄】をかけてもらってるから清潔は保てているが、防寒着を脱げばまた視線を集めるだろう。

 俺とココアは髪色やアクセでも人目を引くため、服装くらいはこっちに溶け込みたいもんだ。


「なあココア」

「ん?」

「学食で服のデザイン画とか設計図みたいなの描いてたよな?」

「あれコスのデザインパターン」

「コスってコスプレ?」

「うん、妹とコスって画像上げてたの。フォロワー三十万人くらいいた」

「ココアちゃんインフルエンサーだったの!?」

「そういえば高校でも噂になっていたね」


 腰を落ち着けて話したいので、バルっぽい食堂に入った。


「俺とココアとリリの服デザしてくれ」

「センパイが買ってくれるっていう話?」

「おう、豪勢にオーダーメイドしようぜ」(サムアップ)

「描く! めっちゃ描く!」

「所得格差がすごいですね」

「イオくん頑張ったから。私たちも今年は頑張ろうね」

「こらこら、ユウトもカノンも悠長なこと言ってる場合じゃないだろ。【覚醒】魔導具を改良できれば、遅くとも発売月の翌々月には金持ちだぞ」


 ミレディが自分らの稼ぎを基に付けた値段は五百万シリン。

 シルバラッド錬金工房として販売するなら、仲卸業者を通さず小売業者、つまり魔導製品専門か高級品専門で、それなりの規模の商会に卸売りをする。


 商会の粗利率は売価の二割が相場で、三割取れるなら死に物狂いで売るとルーカスが言っていた。

 売価は基本的にメーカーが決める。

 五百万から商会の粗利三割を引いた三百五十万が、魔導具一個あたりの売上額になる。


 贅沢品の税率は五割なので、シルバラッド錬金術工房の粗利は百七十五万だ。

 部材と素材の購入原価は、ざっくりだが百万をみておけば十分。

 つまり、一個あたりの粗利額は七十五万シリン。


 これまたルーカスの予測ではあるが、【覚醒】魔導具は発売と同時に三百個くらい出荷することになる。

 この数量は、ルーカスの知名度を利用したヴォーリッツ王国内だけの予測だ。


「七十五万シリンが三百個ならおいくらだユウト」

「二億二千五百万です」


 暗算速っ! インド式?


「二億二千五百万を頭数の五で割ると、一人あたりの取り分はおいくらだカノン」

「四千五百万シリン…!?」

「すごっ!」

「どうだ? これでやる気が出なきゃウソってもんだろ」


 と煽ってはみたものの、今はまだ取らぬ狸の皮算用でしかない。

 小型軽量でスタイリッシュな魔導具に改良する方策が必要だ。


「プリンタがあれば話は早いんだがなあ」

「今だけほしいねー」

「思うとおりにはいかないね」

「ノートPCとポータブルプリンタ持ってますよ?」

「「「は!?」」」

「えっ、そんなに驚かれます?」


 こいつマジで。


「お前はクソバカか! 今日までの流れがあって何で言わねえんだよ!」

「で、電源を取れないから無用の長物だなと。予測の三百個分だけでも、予備バッテリーを全部使ったってもたないですよ? たぶんロール紙も足りません」

「お前それ、本気で言ってんの?」

「あたしよりバカだ」

「ユウトさん、さすがにフォローできないよ」

「そんな!? 説明してください! お願いします!」


 大いなる勘違い。猿も木から落ちる。弘法も筆の誤り。

 何でもいいが、ユウトは術式と術陣スクロールを同じような物だと思ってる。


 完成品スクロールの術陣を他の何かに【刻印】すると、半透明膜に術陣が載って浮かんだ途端にスクロールは黒く染まって崩壊する。

 これはスクロール自体に発動体化処理がしてあるからだ。


 一方で、ノートに描いた術陣を【刻印】しても、ノートが炭化したように崩壊することはない。

 俺がノートに書いた漢字術式も同じで、何万回と【刻印】しようが、ノートや書いた漢字術式が変化することはない。

 ただのノートなんだから当たり前の話だ。


 これからも色んな魔導製品を開発していくから、中・長期的には手持ちの予備電だけで足りるはずがない。

 だが、それはまた別の話だ。


「分かったか天才馬鹿ユウト」

「も、申し訳ありませんでした。誤解していました…」

「いやまあ、ユウトが俺らの救世主ってことに変わりはないんだけどな」

「黒須さんが優しい!?」

「オーケー分かったケンカだな? 表に出ろや」

「え…あの…」

「やっぱバカだね」

「イオくん! 予備バッテリーの話しよ? 大事なことだよね? ね?」

「ったく、ここはユウトの奢りだからな」

「はい喜んで! カノンさんお金を貸してください!」

「もぉ…」


 気を取り直してモバイルバッテリー残量確認を始めようとしたら、ユウトが小さく手を挙げた。


「なに」

「四人で現代日本を再現するよりも、地球の産業技術史を少しずつ再現していく方が現実的ではないでしょうか」

「一理ありそうな気がする。具体的な話はできるか?」

「小さな文字を書くという課題の解決には、活版印刷が良いと思います」

「それ! ユウトさんすごい! 私はユウトさんの案に賛同する!」


 思わずココアに目を向けてしまった。お互いに半笑いだ。

 ココアもだろうけど言葉は知っているし、世界最古の量産印刷技術という話も知っている。

 でも仕組みは知らない。


「最初はタイプライターを思い浮かべましたが、漢字は数が多いので不可能です。活版印刷にも熟練の彫金職人が必要だと思いましたが、ルーカスさんの【造形】でクリア出来そうな気がします」

「やだユウトさん本当に素敵」

「ありがとうございますカノンさん」(キメ顔)

「待て待て、俺たちを置いて行くな。ルーカスが何をクリアできるって?」

「簡単に言うとハンコの製作です。中学校の美術工作で作りませんでしたか?」

「あ、作ったな。緑色の柔らかい石を彫刻刀で彫ったアレだろ?」

「それです。おそらく苗字を縁取りで下書きして、黒須の文字を彫りこんだと思いますが、作りたいのは浮き彫りの文字版です。凸版とも言います」


 はいはい、理解した。そんな名前の企業もあるよな。


 ユウトの話によると、発明当時は鉛を彫金して一文字ずつ作って並べ、凸面にインクを塗って紙をおいて版画のように擦っていた。

 その後は熔かした鉛を金型に流し込む鋳造になったそうだ。


「鉛は普通に売ってるし安いからグッドだ」

「僕は多少高くても、頑丈な材料が良いと思います」


 鉛は柔らかいから加工性は良いが、柔らかいからこそ回数を重ねれば文字の角が潰れる。

 潰れたら新しく作り直さなければいけない。

 それは面倒なので、超硬合金のように頑丈な金属で作れるならそれに越したことはない、と。


「名前からして硬そうだけど超硬合金って?」

「ポピュラーなのは炭化タングステンとコバルトの合金ですね。売ってない場合はレアメタルの鉱脈を探す必要はありますが、それは僕が担当します」

「できんの?」

「土壌からケイ素を選択的に抽出できたので、鉱脈さえ見つかれば大丈夫かと」


 やっぱりユウトが使う言葉は分からんから任せよう。


 ん? 抽出って言ったよな? それって錬金術じゃなかったか?



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