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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第2章:新生活編

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27/61

26:十回払い



「このメゾネットいいな。広場前だし天井高そうだし、広いバルコニーもある」

「壁の色もカワイイ」


 家賃も聞いてみようと思いながら玄関のノッカーを叩くと、ミレディの母親だろう中年女性が扉を開けた。

 名前を名乗って尋ねたいことがあって来たと伝え、待つこと数分。


 再び開けられた玄関口には、ワインボトルを片手にチーズを咥えたミレディが、厚手のキャミソール姿かつ半目で登場した。


(乳首はそことそこ)

(バストトップがクッキリだよ?)


 視線からして同じポイントを見てるココアを横目に、どっちか言うと不機嫌でしかないミレディに訪問理由を説明した。


「なんだその件か。妙な自慢でもしに来たのかと思った」

「んな暇じゃねえわ」

「私にとっては大問題なんだぞ!」

「分かったから叫ぶなって」

「いい匂いするぅ。甘ぁい匂いー」

「ああ、母さんがケーキを焼いたからな。食うか?」

「食べるぅー!」


 こいつ迷宮でかなり稼いでるな。

 砂糖は予想の五倍くらい高かったし、一人三万ユルグの受講料を小遣い稼ぎと言った。


 この家も思ったより奥行きが広そうだし、家具にも金をかけてる。

 家賃まで負担してるなら大したもんだ。


「美味しそう! いただきまーす♪」

「くそ広いな……もしかしてフロアぶち抜きのメゾネットか?」

「六階建てに三世帯だけだ。なかなか良いだろう? もうすぐ売りに出すけどな」

「売りに出すって、ここ賃貸じゃねえの?」

「違う。まあイオリも座れ」


 ココアが厚切りパウンドケーキを食べている間に尋ねてみると、ミレディは父親の訃報を受けて帰郷したそうだ。


 ミレディが迷宮探索者を志した理由は双子と同じ。

 名うての剣士で探索者になった兄に憧れ、一緒に潜って兄の手助けをするべく魔術師の道を選んだという。


 魔術師として探索者認定試験に合格したミレディは、念願を叶って兄のパーティーメンバーに加えてもらい迷宮に挑んだ。

 そして三年が経った頃、一流を目指す者にとって最初の難関といわれる四十階層で、ミレディの兄は命を落とした。


「母さんも今はいいが、十年もすれば年寄りの仲間入りだ。私も引退するには早すぎるし、ここを売り払って迷宮都市で一緒に暮らすことにしたのさ」

「亡くなった親父さんは年だったのか?」

「いや、酒の飲み過ぎで逝った。兄さんを誇りに思ってたからな。どうにも遣りきれず、深酒するようになったんだよ」

「なんつーか、逝った方も残された方も遣りきれねえな」

「イオリはたまにまともなことを言うな?」


 爺さんと同じことを言いやがる。実に失礼だ。


 双子の件に話を戻すと、次回の受講は決まってないという。

 が、双子には月に二回しか受講できない事情があるらしく、次回の日時を誘導するのは可能だと。


 考えてみれば、工場管理責任者といっても雇われでしかない叔父は、二人で一回六万ユルグの受講料をポンポン出せるほど月給が高くないのだろう。


「今月の半ばに誘導できるか? 出来れば午前がいい」

「あの子らはいつも月初と月中の午前だ。二人が来たら三日後の午前に決めて、リリアーナにでも報せてやろうか?」

「それがいいな。助かるよ、頼むわ」

「そいつは私の台詞だが、どんな証拠を押さえる気だ? 罪科を問うには、見た聞いた程度の証言じゃ足りないぞ?」


 おっとぉ、ぶっ飛ばしてクビにする程度じゃないのかよ。


「そこは問題ないが、両親からしてみれば実弟か義弟だろ? そこまでやるつもりなのか?」

「長男を殺されてるんだぞ? まあ、長男の死については見当違いの思い込みって線も残るが、黒だと判れば容赦はしないだろうね」


 昔の日本と同じか。

 家門を守るためなら、例え親兄弟でも断罪すると。


 ポケットに手をつっこみ、念のため持って来たスマホを取り出し電源オン。

 俺も含めて生活費を稼げるようになったし、日本の思い出画像や動画が詰まったこいつを売ることはないだろう。


「な、なんだそれ……怖ろしく美しい……」

「俺らの故郷なら子供でも持ってる…えーと、魔導具だな」


 言いながら動画撮影を始め、二切れ目を食べてるココアを撮る。


「はいセンパイ、あーんして」

「あーーむ。(もぐもぐ)うま。久しぶりだと止まらなくなるな」

「うん、もう止まれない」


 ルーカスん家の茶とは雲泥の差がある紅茶で流し込み、再生して見せる。


「はあっ!? な、な、な、何なんだこれ!?」

『はいセンパイ、あーんして』

「声までか!?」


 音声も残ることを分からせて電源を落とした。


「大したもんだろ。俺らの国じゃ誰も魔術を使えないが、こういうモンを造る技術は普通にあるんだよ」

「す、すごいな信じられん……いや、証拠としては抜群だ。おまけにシルバラッド様が執り成してくれるなら憂いも残らん」


 段取りが済んだところで俺もケーキを一切れもらい、練り込まれたローストナッツがまたイイと噛みしめながらこの家について尋ねた。


 立ち退き返金保証付き長期所有権という特殊な買い方をしたらしく、所有権の有効期間は三十年。

 買ったのが八年半前というので、残りは二十一年と半年ある。


 立ち退き返金保証はアデーレ側、つまり領主か代官の都合で立ち退きを要求された際に、購入金額を所有権利年数の三十年で割り、残り年数分の金額に慰謝料一千万シリンを上乗せして返金される保証らしい。


 土地の所有権はないが、居住権を最大限に尊重した契約なのだろう。


「どうすればそんな買い方できんの?」

「私はヴォーリッツ王国認定の三系統魔術師で、探索者等級は三級だからな。領主様に対してもそれなりの話は出来る。どうだ、尊敬していいんだぞ?」

「無駄に器用なヤツだと思えばそういうことか」

「お前なあ、尊敬って言葉の意味を知ってるか?」

「無詠唱をマスターしたら尊敬してやる」

「ぐっ、痛いところを…」


 ケーキをモキュモキュと食べ、最後の一口をココアの口に放り込んで紅茶をぐいっと飲んだ。

 この紅茶美味いからおかわりもらお。


「お家って買うの大変なんだね」

「仕方ねえよ。先立つモノもまだないからな」

「家を買いたいのか?」

「賃貸でもいいんだけど、買えるなら買う方がってな」


 庭付き一戸建ての月額家賃が、敷地と間取りの割に高いのは誤算だった。

 すぐ必要ってわけじゃないものの、リリのアパートに長々と居候を決めこむのも恰好がつかない。

 そもそもギルドの独身寮って話がある。


 今は錬金術で食っていけそうだと思えるくらいになったし、そう考えるとルーカス宅並みとは言わないまでも、それなりの工房スペースは欲しい。

 上を見だせばキリがないと分かっているが、高額だからこそ後悔しない物件を選びたい。


「この先も四人でやっていくのか?」

「この二ヵ月ちょいで四人じゃないと出来ないこと、造れないモノが多いって確信したからな。家は別々でも、一緒にやっていきたいと俺は思ってる」

「あたしも思ってるよ?」

「そっか、そうだよな。最近はカノンとも仲良くやってるし」

「ユウトとくっついたからね」(笑)


 ミレディがワインボトルごと腕を組み、虚空を眺め何やら思案している。

 このタイミングでの思案には期待してしまう。


「四月の半ばまでに【覚醒】の魔導具を完成させる自信はあるか?」

「魔導具かよ!」

「このお家買えるかも思ったんだけど!」


 ココアも根拠なく期待してたらしい。いや誰でもするだろ。


「慌てるな。完成させる自信があるなら、ここの売却手続きを四月半ばまで止める。見事に完成させたら、私の口利きで権利もそのままイオリに売るよう交渉する」

「「マジで!?」」

「九年足らずだが家族の思い出が詰まった家だ。お前たちが住むなら墓参りの時に寄れるだろう? 母さんも死ぬ時はアデーレで、父さんの隣で眠りたいって今から言ってるもんでな」


 こっちには「生まれ故郷で死にたい」と言う人が多い。

 世界が広いからだろう。

 交通手段が自分の足か馬しかない世界は、とてつもなく広い。


「おーけー分かった造ってやる。首を洗って待ってろ」

「私を斬首にでもする気か? それを言うなら長くして、だろう?」

「…そうとも言う」

「あたしまで恥ずいよ?」


 なにを言ってるのか意味がわからんな。あぁそうだ。


「いくらで売ってくれんの?」

「ちょうど一億四千万シリンだ」

「「え……」」


 ミレディが新築の話を聞きつけ予約購入した価格が二億シリン。

 三十年で割れば、一年あたり百万単位の六並び。

 所有権の残り年数を二十一年とすれば、ちょうど一億四千万シリン。


「心配するな、払いは十年の割賦でいい。金には困ってないからな」(ドヤ顔)

「一千四百万の十回払いか……ギリイケそうじゃね?」

「イケるイケる! センパイ頑張れー!」

「いやココアも出せよ!」

「えー、じゃあリリにも払わせるの? マジで? ねえマジで?」


 さすがにそれはないな。

 上等だ、超がんばる! 主にユウトが!



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