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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第2章:新生活編

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20:異変と原因と前例



 家主兼出資者に乾杯の音頭を頼んだら、趣旨が分からん宴会の音頭なんぞ取れるかと拒否られた。

 言われてみると尤もな言い分だ。


「んじゃ俺から。なんかもう数年分を凝縮したような二ヵ月間だったけど、悪くなかった。リリと出逢えたし、師匠ルーカスと知り合えたし、ココアに想いを伝えられたし、ユウトとカノンも上手くいった。これから先も悪くないと本気で思える。つーことで、色々お疲れさん! 来年もよろしく! 乾杯っ!」

『かんぱーーーいっ!!!!!』

「か、乾杯!」


 ルーカスは「そういうこと?」みたいな風情で、一拍遅れたがカップを掲げた。

 ココアも地球のカレンダーなら二十歳になっているのでアルコール解禁だ。


「センパーーーイ! 唐揚げが美味いよーーーっ!」

「んんっ!? 美味しいっ! イオリが作ったの?」

「俺は揚げ物担当でスパイシーにんにく塩唐揚げとビーフっぽいカツ、豆じゃがコロッケ、カブっぽい根菜のフライ、カリフラワーフライの五品。他はカノン」

「香辛料を使ったのはこれか。どれ…………美味っ!? ごほごほっ!」

「ばっ!? 飲み込んでから叫べや!」

「カノンさんのホワイトシチュー、カノンさんのように優しくて美味しいです」

「ユウトさんが喜んでくれて嬉しい♪」


 ふと見れば、美味そうな匂いに釣られたのか、ご近所さんたちが窓の向こうから覗き込んでいる。

 ルーカスは嫌がるかなぁと思ったが、年イチなのでいいかとご近所さんを招き入れ料理をふるまう。

 アホほど作ったから残るともったいない。


 植物油が高級品だから、獣脂臭くない揚げ物は珍しいはず。

 みんな美味そうに食べてくれるので作った甲斐があるってもんだ。


 カノンが作った濃厚ホワイトシチューや鳥のトマト煮も大好評。

 個人的には豆と豚の赤ワイン煮込みが好みだ。

 赤ワイン煮込みを食いながら白ワインを飲む俺も好きだ。


 食べきってしまいそうだなと眺めながら、リリと話しているココアへ目を向ける。

 この一ヵ月が忙しかったので大して考えずに済んだものの、中々にヤバいことが起きている。

 ユウトとカノンも気づいてないはずがない。


(酔った勢いで言っちゃうか)


 ワインが七本くらい空いた頃に料理もほぼなくなり、ご近所さんたちは幸せそうに帰っていく。

 こっちのワインボトルは大と普通があって、大は一升瓶サイズなので、七本空ければかなり飲んだことになる。

 部屋の隅っこでチビチビやってるルーカスに目を向け、こっちゃ来いと手招きした。


「まだ何か始めるのか?」

「相談会を始めようかってな。俺たちからリリとルーカスに相談」

「なになに?」


 ココアたちが気づいた。「今? マジで?」みたいな顔してる。


「俺で言うと、髪とヒゲと爪が伸びない。ヤバいかね?」

「あたしも髪と爪が伸びない」

「私もです」

「僕も黒須さん同様です。不可解だと思っています」


 唐突に立ち上がったココアがカノンに目を向けると、頷いたカノンも立ち上がる。

 二人はリリの手を引き部屋の隅へ移動してヒソヒソ話を始めた。

 ガールズトークに首を突っ込むと大火傷を負うからスルーだ。


「ユウト、どう不可解なのだ」

「代謝をご存じでしょうか」

「無論だ」

「大別して二種、一方に二つの過程があり、もう一方に三つあることは?」

「知らぬ。説明してくれ」


 ユウトが代謝について講釈を並べていく。

 熱心に聞くルーカスは、興味深げにユウトと質疑応答を繰り返す。

 もしカノンがいなければ、ユウトはルーカスと付き合ってたかもしれない。

 言ったら二人ともキレそうだから言わないが。


 さておき、ユウトの説明は小難しいが、ギリギリ理解できた。

 ユウトが不可解に思うのは、新陳代謝と言われる物質代謝の同化という過程が、部分的に機能していない点だと。


 人体は飲み食いして作られたエネルギーで、体に必要な分子を合成する。

 分子合成の一端が、髪や爪が伸びるという現象らしい。

 髪も爪も死んだ細胞だそうだが、髪は毛根にある毛母細胞、爪は爪母細胞が分裂・増殖することで伸びる。


 髪と爪が伸びないのは毛母細胞と爪母細胞が死んでるってことかと思ったが、抜け毛はないし爪の変色や劣化もないから死んではいないとユウトは言う。

 ただ、髪と爪は認識しやすいから「伸びない」と分かるだけで、他にもおかしな点があるかもしれないので怖いと。


「さながら長命種族の話だな」


 ルーカス氏が気になること言った。ユウトが俺を見たので頷いてみる。


「長命種族も髪や爪が伸びないのですか?」

「一定年齢に達し成長が止まると、毛や爪が伸びなくなると言っていた」

「知り合いに長命種族がいるんですね? もし親しいなら紹介してください」

「何を言っている。ここにもいるではないか。リリアーナだ」

「わお」

「驚きです」


 隅っこに行ったココアとカノンが、『えぇっ!?』と声を上げていた原因はそれかもしれない。

 いやそれだろう。


「なあ、長命種族かどうか識別する方法ってある?」

「ある。いや、いると言うべきだな。そう簡単に見つかりはしないが」

「あ~、そっち系か」

「どっち系です?」

「魔術師だろ」

「あ~なるほど。なぜ判ったんです?」

「ルーカスが鑑定の魔術を使えるから」


 二人でルーカスへ目を向けると、小さな頷きを返された。

 そう簡単に見つからないってことは、鑑定よりレアな魔術なんだろう。


「そういえば…」


 呟いたルーカスは、立ち上がって奥の部屋へ行った。

 数分で戻ってきたその手には一冊の本。すぐさまページを捲り始める。


「長命種族の本?」

「いや、長命になった人物の回顧録を後年に編纂したものだ。客観的視点や歴史的背景が加えられている故に面白い」

「確かに面白そうですね。どういった人物ですか?」

「リョウタロウ・ナカムラという名の異界人だ」

「「!?」」


 フリーズした。ギギギ…と音が鳴ったようにユウトと顔を見合わせる。


「ヤバくね?」

「何がです?」


 こいつ本当にいっこ下か? 今のは「ヤバいっすね」で合わせりゃいいだろ。


「本になるくらいだから有名なんだよな?」

「ルベリオン王国を帝国たらしめた人物だ。あったぞ、ここだ」


 ルーカスが文章を指でなぞりながら読み上げる。


―― 齢四十にしてこの世へ現れ出でたナカムラは、凡そ三百年の歳月を生きて尚、その外見は若々しい。森人でも山人でもない自身の長命化が、時空の境界を越えたことに起因する変化だと、齢百五十八の年に結論付けた。その根拠を知るのは孫同然であった第三代皇帝、ジャックワルド・ソル・ルベリオンのみである。

 頑なに根拠を語ろうとしないナカムラが、当時、黒の迷宮踏破を成し遂げたことに鑑みれば、迷宮最奥で根拠を手にした可能性は否定できない。――


「迷宮って色分けされてんだ?」

「今そこですか?」

「昨日でも明日でも、気になるもんは気になるだろが」

「実際に色があるのではない。出現する魔物の特性が闇系統なのだ」

「なんだ」

「なるほどぉ~」

「お前が感心してんじゃねえか!」

「なぜ怒るんですか。迷宮が六つあるのだろうと思っただけです」

「あん? なんでだよ」

「魔術に六つの系統があるからです」

「あ、そゆことか」

「当たらずとも遠からずだ」

「今そこ掘らなくていいから」

「いいえ、簡単に教えてください」

「てめぇ」


 カノンと上手くいってから生意気になってんな。いっぺんシメたろか。


 いつシメようかと考えながら、耳に入ってくるルーカスの話を聞き流す。

 魔術の起源は魔法の模倣にあるとか、系統数は同一と推定されているとか。

 迷宮の魔物も魔術ではなく魔法由来、つまり魔法生物という説が主流だと。

 白の迷宮はかなり昔から所在不明なものの、他の五つは今も賑わっている。

 迷宮の最奥に辿り着けば、失われて久しい魔法が手に入るなんて伝説もある。


 そうこうしていると女性陣が戻って来てルーカスの話を遮り、三人揃ってユウトに目を向けた。


「ユウトさんは、えっと…せ、生理用品の素材を知ってる?」

「なるほど、女性にとっては切実な問題ですね。どちらですか?」

「どちら…?」

「ナプキンかタンポンかってことだよ」

「あ、私は…ナプキン」

「あたしはタンポンも使う」

「え?」

「ん? あー、センパイ処女なのに?って思ったでしょ。それ関係ないから」

「マジか。初めて知った」

「タンポンって短いんだよ? 一個あげよか?」

「要らんわ。(ルーカスがキョトンとしてる。こっちにはないんだろうな)」

「試作と試用は必要ですが作れると思います。予想ではタンポンの方が簡単かと」

(こいつすげぇな。俺トイレットペーパーが欲しいんだけど。柔らかダブルの)


 生理用品製作検討会が白熱していく。

 こっちはフンドシみたいな帯を巻くらしく、リリも使ってみたいと鼻息が荒い。

 素材集めは年明けになるので、三日間の休息日で仕様と素材を詰めるそうだ。


 髪と爪の件は、日本人としか思えない前例がいるようなのでまぁ大丈夫だろう。

 三百年も生きるとかどうなんだと思わなくもないが、個人的にはユウトとカノンを追い出したい願望が何より切実だ。


 異世界モノのネット小説を基にしたアニメならカットされる件だろうけど、リアルになるとカット出来ないテーマだもんな。



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