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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第2章:新生活編

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20/61

19:給料日



 今日を入れてあと四日で今年が終わる。

 異世界初の年越しがやってくる。


 いやいやいや、今月はホントーーーーーーーーに忙しかった。

 皆キレぎみで魔術薬を作り、納品が完了したのは五日前だ。


 これまでよく独りでやってたなとルーカスに尋ねたら、俺が常時循環をマスターした日に育成優先を決め、ホーレン草の魔力導入を成功させた日には「余裕でイケる」と判断したらしい。


 今年の納品物が大量だったことも、出逢ったその日に俺を勧誘した理由の一つだったそうだ。

 俺たちがソッコー辞めてたら泣いたに違いないが、事情を知った上で「辞める可能性は低い」と判断したのだろう。


 ともあれ、仕事は五日前に全て片付いて修練に没頭していたため、今日は日本でいうところの忘年会を開催する運びだ。

 こっちどころか地球でも忘年会をやるのは日本くらいなので、俺に「宴会費を全額奢れ」と言われたルーカスは、「は?」って感じ。だが、今回の大量納品でかなりの儲けが出たはずだから押しきった。


 八月末に三日間開催された精霊祭はこの国周辺だけの祝祭日だが、四十三日ある十月の最終三日間は、世界全域が休息日になるそうだ。つまり、今日が仕事納めってこと。


 忘年会の場所はルーカスん家で、ビッグイベント終了後に準備を始める。

 当たり前だがリリも参加だ。


「センパイがいくらもらうか超気になる」

「イオくん製造数量が断トツで多いもんね。工程も難しいとこだったし」

「なんていうか、ほら、俺の隠しきれない才能ってやつ?」(ドヤ顔)

「イオくんがご機嫌」(笑)

「センパイの物はあたしとリリの物だからいいけどねー」(笑)

「こらこらこら!」(笑)

「皆さん楽しそうでいいですね…」

「あ、えっと、ユウトさんは来年から、ね? 元気出して?」

「はい、ありがとうございますカノンさん」


 そう、ユウトは俺とルーカスに結構な額の借金があった。

 俺からの貸しだった十万シリンと十三万ユルグは先月頭に完済したが、五十五万シリンをルーカスに返済したのは六日前。

 ずっと日給月給でもらっていたため、ビッグイベントはユウトだけ見学だ。


 横並びで座って待っていると、ルーカスが木箱と空の革袋三つを載せたワゴンを押して奥から出てきた。

 木箱ってとこが期待感を煽ってくれる。


「皆ご苦労だった。宮廷および領主閣下の希望数量を完納できたのは初の快挙であり、これもひとえに皆が修練と仕事に邁進した成果だ。では十月分の給金を支払う。イオリ」

「ちょっと待って!」

「どうしたココア」

「少ない人からにしてほしいな?」

「私もその方が嬉しいです」

「…なぜだ?」

「俺が最初にドンと貰ったら、俺より少ないとおもっきり喜べないだろ? これで俺が少なかったら号泣するけどな?」


 困惑気味のルーカスに、そもそもジャパンでは他人の給料が分からない形で支払われると説明する。


 こっちはコインが積まれたテーブル前に従業員が並び、袋に入れることもなくジャラジャラ渡される。

 閉店間際の食堂でそれを目撃した時は皆でガン見したものだ。

 不思議そうな顔のリリから「どの職業もあんな感じだよ」と聞かなかったら、あの食堂には二度と行かなかっただろう。


「慣習の隔たりが大きいな。どうやって雇われ人の競争心を煽るのだ?」

「そういう目的があるのか。効果あるとは思えないけどな」

「競争心って人それぞれだよね」

「私みたいに競争が苦手な人も少なくないと思う」

「理由は違うと思いますけど、ジャパンも昔は現金手渡しでした。行政通達で銀行振込が始まったのは、昭和五十年前後だったはずです」

「マジか」

「ユウト、ジャパンの国史はどれ程だ?」

「約二千七百年ですね」

「それ程までに古い国を私が知らぬとは…」


 この流れはダメだ。博識ルーカスに今考えさせるのは都合が悪い。


「少ない順に渡したって問題ないだろ? 俺らの競争心煽ってどうすんだよ」

「それもそうだな、いいだろう。ではカノン」

「はい」


 ルーカスが木箱を開けると、銀貨だけではなく銀の板も入っていた。


「五十六万七千シリンだ。ご苦労だった」

「やったぁ! ありがとうございます!」


 これも大した額だ。

 帝国銀貨は一枚が三万シリンなので、ルーカスは先ず十枚をカノンに確認させるよう見せながら袋に入れ、続けて八枚を入れた。最後に大銅貨九枚を入れて手渡す。


 カノンは予想より多かったようで嬉しそうだ。ユウトの目が……まぁいいや。


「ココア」

「はーい!」

「七十七万三千シリンだ。ご苦労だった」

「ありがとーございまーす♪」


 銀貨を十枚、十枚、五枚と入れ、大銅貨を七枚、銅貨二枚を入れ手渡す。

 ココアは流速の最大値が高くコントロールも上手いので、カノンよりも生産効率が高くこの結果になっている。


 帝国コインには一枚が十五万シリンの大銀貨もあるらしく、ココアの額なら大銀貨五枚で七十五万になる、

 しかし、この辺で高額コインを出すとお釣りがわけ分からなくなるので銀貨にしてもらっている。


「イオリ」

「押忍!」

「実に見事な仕事ぶりだった。五百三十九万シリンだ」

「あざーーーす!」「「は?」」

「桁が違うとかウケる」(笑)

「イオリとの比較は何の足しにも参考にもならぬ。いっそ忘れろ」

「今はどんだけディスられても微笑みを返せる」(ニッコリ)

「リリは五百万くらいもらいそう言ってたよ」

「そうなん?」

「リリアーナは製造数量を把握していた故、予測しても不思議はない」


 宮廷からルーカスに届く魔術薬の希望数量には、国内戦地の必要数量も加算されている。

 例年は希望数量を独りで作れるはずもなく、不足分は非戦地にある魔術師ギルドが地元の錬金術師に製造依頼を出していた。

 不足数量は戦士ギルドにも通知され、魔術薬製造に必要な素材の収集依頼が貼り出されるのだと。


「イオリには五百万シリン分を帝国金板で渡すが、構わぬだろう?」

「大量のコインよる助かるけど、ルーカスどんだけ儲けたんだよ」

「大した額ではない」

「目ぇ逸らしながら言われても説得力ないんだが?」

「お前への支払い額から三割の租税分を引いても構わんのだが?」

「あっ!? すんませんでしたっ!」


 そうだった、すっかり忘れてた。


 当たり前だがこっちにも収入に応じた徴税はあり、必需品で稼いだ収入については三割、贅沢品で稼いだ収入については五割が収入発生時点で徴収される。

 ルーカスはそれを負担してくれているので、偉そうな口を叩くと手痛いしっぺ返しを食らう。


 まだ先だが、居住して一年が経過すると定住者と見做される。

 定住者には人頭税を支払う義務があり、十歳以上十五歳未満は年額五万ユルグ、十五歳以上五十歳以下は年額十万ユルグ。


 もぐりの住人も少なくないそうだが、ユルグの年十万をケチってリリに迷惑をかける選択肢なんぞない。

 人頭税の制度内容からして、平民の子供は十歳から働き始め、引退の目途が五十歳なのだと思う。


「さて、食材の買い出しに行くか。って重っ!」

「金板十枚が軽いはずなかろう。食材費は私が出すのだから給金は置いて行け」


 そりゃそうだということで、ルーカスから三十万シリンをふんだくり、三日間ある休息日分の食材費二十万シリンをポケットに入れて、昨日から市場が特設されている中央広場へ向かった。


「うわぁ、朝なのにすごい人だよ。夕方には売り切れるってリリ言ってたもんね」

「聞いといて良かったな。午後は人多すぎて歩けねえぞこれ」

「ねえイオくん、手分けする方がいいと思う」

「同意です。四人で動くのは効率が悪いでしょう」


 俺とココアが肉を担当し、ユウトとカノンには穀物と野菜を担当してもらう。

 リリは通常どおり日暮れ前まで仕事なので、忘年会料理は俺とカノンで作る。

 ココアとユウトはアシスタントだ。


 忘年会と休息日の料理はこの五日間で入念に検討していたので、必要な食材は既に書き出してある。

 かなりの量とあってデカい背嚢を三つ購入済みで万端だ。


「売ってるか怪しい食材もあるし、一通り買ったら南の大樹に集合して確認な」


 食材を見ながら歩くココアが、人とぶつかりまくって『あうっ』を連発している。

 ぶつかりそうな人は俺が避けるから腕を組んどけと言ったら、『夫婦みたい』とデレた顔でニコニコだ。


「あれ魔獣肉専門の露店だな。高いだけあって空いてるわ」

「お肉♪ お肉♪ おっにっく~♪」

「何時代の子だよ」


 うーん、聞きしに勝る高級品。


 部位別ブロックの量り売りだが、ブロック肉の前に置いてある値札の額がヤバい。

 でも生肉は何系の肉か予想がついていいね。


「おっちゃん、この塊二つとその塊も二つ、あっちの塊三つと鳥を五羽くれ」

「は、はい! 承知しました!」

「三日でどんだけ食うんだよ的な?」(笑)

「だろうな」(笑)


 合流したユウトとカノンは、代用できそうな物を含めてキッチリ揃えていた。

 自宅用の食材を背嚢二つに詰め直し、忘年会用を一つに詰めてルーカス宅へ。

 意外と充実しているキッチンを借用して下ごしらえを始める。


 塩を探して開けた棚にあった小袋を開けると、テンプレで貴重なスパイス。

 五袋が全部スパイスなので使い倒してやろう。黒コショウが最高に嬉しい。


 最後の料理が仕上がるタイミングでリリの声が聞こえ、テーブル代わりのデカい作業台に大皿を並べてカップにワインを注いだ。


 忘年会と言うよりは立食パーティーだが、異世界っぽくていいだろう。



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