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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第2章:新生活編

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19/61

18:レシピは命懸け



 今日から十月らしい。

 戦士ギルドから防寒着の返却督促状が届いたのだ。


 年末だと言われてもピンとこないが、師走の意味は分かった気がする。

 師匠ルーカスが大忙しだ。走ってはいないけど。


 来年分の魔術薬を領主に納品するのが毎年十月らしく、効能が高い薬ほど保存可能期間は短い。

 ルーカス製は低級が三年、中級が二年、上級が一年なのだが、並の錬金術師だと低級でも半年くらいが精々らしい。


 ランクが上がると素材が増えるため手間も増える。

 毎年十月に納品するのは上級だけだが、今年は低級と中級の保存期間も切れる年らしく特に忙しいそうだ。


「最上級は作らないのか?」

「素材の一つが希少にすぎて手に入らぬ。最上級は厄介事の種以外の何物でもない故、素材を入手しても作りはせぬがな」


 治癒系にしろ治療系にしろ、最上級は幻の秘薬と云われるレベルの薬効があるため、作った噂が広まれば国の内外に関係なく購入の申し入れが殺到すると。

 そういう噂ほど緘口令を敷こうが何をしようが広く早く伝わるため、ルーカスはボスの領主からも「作るな」と言われているらしい。


「センパーイ! 小指だけゆっくりならないよぉ~!」

「私も!」

「僕は薬指もです…」

「いや知らんし。四人で作るんだからいいだろ。なあルーカス」

「構わん。普段から使い慣れていない指は時間がかかるものだ」


 へぇー、そういうこともあんのか。


「小指を何に使ってたの? ナニ?」

「アホか。一番使ってたのは稽古だな。木刀振る時は薬指と小指に力を入れんの」

「無手ではないのか?」

「振り上げ振り下ろしの動作を基にした技があんだよ。素振りと型は日課だった」

「ほぉ、興味深いな」


 爺さんに「薬指と小指の握力を鍛えろ」と言われてただけだが。


「僕はなぜ薬指も出来ないんでしょう?」

「知るか」

「冷たい……カノンさんと吉岡さんは薬指を何に使っていたんです?」

「「メイク」」

「なるほど」

「指を一本ずつ曲げ伸ばす練習してみろよ。こんなん」


 親指、人差し指、中指、薬指、小指の順で第二関節だけを直角に曲げて伸ばす。

 折り返しは小指、薬指と逆順で曲げ伸ばす。


 他の指が少しでも動けばNG。

 これをながらで繰り返してた。

 テレビを見ながら、音楽を聞きながら、授業を受けながら。

 今でも歩きながら無意識にやってることがある。


「あはは小指ムリ。つりそう」(笑)

「私もつりそう」(笑)

「中指を曲げると薬指までお辞儀するんですが…」

「あそ」

「僕にだけ冷たくないですか?」


 爆ぜろイケメンに優しくする理由なんぞ、どんな世界でもドロップしない。


「ふむ、見習いの育成に良さそうだ。取り入れても構わぬか?」

「構うわけないだろ。変なとこで律儀だな?」

「鍛錬法も門外不出だろうに」


 そういや、爺さんが「昔は」の枕詞(まくらことば)を付けてよく言ってたな。


「俺らの他にも見習いいるんだ?」

「領兵に志願してくる見習い魔術師だ」

「あん? 兵士は小指が不器用でもよくね? まさかの錬金兵?」(笑)

「何を馬鹿な。志の話だ」


 言ったルーカスが右手五指の先に魔術を浮かべた。

 小さな火と水、石、光、そして風だろう渦巻。

 雁首揃えて唖然としてしまった。


「錬金以外もできんのかよ」

「これくらい出来ねば大国の認定魔術師にはなれん。機会ゆえ概要を話そう」


 魔術は六つの系統と、三つの系統外に分類される。

 六つの系統は光・水・土・闇・火・風。

 三つの系統外は錬金・付与・結界。


 六大系統でレアなのは光と闇、系統外なら付与。

 系統外の付与術師は特に希少で、現在知られているのは世界に二人だけ。

 高位術師に限定するなら、闇・錬金・付与・結界はめっちゃ少ない。


「光の高位魔術師さんは多いということですか?」

「多いとまでは言えんが、光系統は聖教会が囲い込んで育成する。光系統の資質が高くなければ、職位も上がらず助祭どまりだ」


 光は神聖の象徴ってやつか。これもテンプレだな。


「余談はここまでだ。錬金術師を名乗る者の基本にして奥義を作る。秘匿を約すなら見せてやるが、どうする」

「見る」

「あたしもー!」


 即答した俺とココアを他所に、ユウトとカノンは顔を見合わせた。

 インテリジェンスなデメリットがあるってことだろうか。


「口約束で済むはずがないと思うのですが?」

「当然だ。制約を設けた術式で縛る故、命を懸けることになる」

「おぅふ」

「ヤバすぎー」

「カノンさん、詳細を聞かせてもらう方向でも?」

「聞かないと判断できないよね」


 ルーカスの話はテンプレだった。

 ネット小説やアニメなら奴隷紋として登場しがちなヤツ。

 喋ったり書いたりしたら死ぬ。盗み聞きされても死ぬ。

 どうやって判別するんだとツッコミを入れたくなるが、説明されても理解できる気がしないからスルーで。


「リリにも喋れないのはキツイな。つーか、超リスキー」

「ポロッと喋ってコロッと死ぬ的な」(笑)


 笑えるのか余裕だな? あぁそうか、別に見なくてもって考えか。

 俺は超見たい。ルーカスのノウハウを手に入れれば、将来的に食いっぱぐれることはないと確信できる。


 ココアとリリに不自由はさせたくない。

 親父が母さんと俺のため頑張ってくれたように。


 作る気満々の子供にも不自由をさせたくない。

 根性決めないと、この世界で人並みに生きていくのは大変だと分かったから。


「魔術でも何でも受けて立つ!」

「僕もです!」

「じゃああたし――」

「ココアはダメだ」

「カノンさんも同様です」

「「え…」」


 ユウトと顔を見合わせ二ッと笑う。


 性別でどうこう言うつもりは毛頭ないが、女には女の、男には男の心意気ってやつがあるだけの話だ。

 いやまあ、俺の場合はココアがポロッと喋ってコロッと逝きそうで怖いのもある。


「センパイが死んだら後追っかけるからお願いね」(サムアップ)

「おう、任せとけ」(サムアップ)

「ユウトさん…」

「これは僕が持つべき覚悟と、負いたい責任です。カノンさんが心配や後ろめたさを抱く必要がないことです」

「分かりました。もしもの時は私も後を追います」

「であれば、死んでも一緒にいられますね」(笑)

「そうですね」(笑)

「岩崎のセリフがキマってるんだけどそこんとこどうなのセンパイ的に」

「言うな。負けた気になるから言うな」

「臭いセリフ以外はセンパイの全勝ちだからヨシ!」(笑)


 ユウトのハートを直撃貫通したのか、ガックリと項垂れている。


 ルーカスが工房と呼ぶ部屋の奥の間に入り、【誓約の楔】なる魔術をかけられた。

 痛くも痒くもないが、鎖っぽい物が心臓に巻きついた感覚を覚えた直後に違和感は消えた。

 それでも生死を握られたと実感させられる。


「作る物は錬金溶液だ。この言葉はありふれているため制約の対象外だ。対象は素材や製法だと認識しておけば良い」

「了解。で、錬金溶液ってナニ」

「おそらく魔術的な溶媒と溶質が溶解した錬金――」

「やかましいわ! お前には聞いてねえだろが!」

「そ、そんなに怒らなくても」

「ユウトは聡いが意外と間抜けなのだな」

「う…」


 仕切り直して説明された内容を聞くに、錬金溶液はありとあらゆる錬金生成物に使われる特殊な液体。


 混ぜる、浸す、塗る、洗うなど様々な用途があり、錬金溶液の質と性能や効果は、錬金術師の技量評価に直結するそうだ。


 界隈の錬金術師が錬金溶液の製造に使う素材数は二十種前後だが、ルーカスが製造するそれは三十八種の素材を使う。

 おまけに各素材の分量をアホほど厳密に決めているため、とても覚えられる気がしない。

 命懸けなくても良かったんじゃなかろうか。


 ルーカスがデカい作業台に素材を並べ始めた。


「毒ヘビ臭いのが出てきたんだが」

「タランチュラも出てきましたね。鳥肌が立ちます」

「蛇は抗毒素血清を作って使う。蜘蛛は眼球内の体液を搾り使う」

「マジっすか…」

「調達だけでも相当な手間がかかるのでは? 独自調達ですよね?」

「買い揃えるのは大した手間じゃないだろ」

「門外不出ですから、採取や捕獲を自分でやると思うのですが」

「ユウトの言うとおりだ。購入すれば少なからず使用素材を知られる」

「探すとこからとかウソだろ? 何ヵ月かかんだよ」

「抜きん出ようとするなら必然だ。が、素材の選定も技量の内だ」

「なるほど、アデーレ近郊で入手可能ということですね」

「然り」

「アデーレでしか作れないってことじゃん」

「そこまで限定的ではないが、定住しない錬金術師の技量などたかが知れている」


 特別な一点物を作る時には遠出もするが、量産品は定住して作る。

 そんな彼是を説明しながらも、ルーカスは目を見張る手際で錬金溶液を大量に作っていた。



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