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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第2章:新生活編

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18/61

17:今からホーレン草



 修練を初めて三十日くらいが過ぎた。

 何月何日何曜日どころか、時間までざっくりで構わない生活は楽ちんだ。


 それはそれとして、取り敢えずクソ寒い。

 このクソ寒い中、俺たちはルーカスに連れられ植物系素材専門の商会へ向かっている。

 俺の魔力路が必要十分に分岐と延伸しているので、素材に魔力導入をやってみろと。


 寒いんだからここにある物でいいだろと言ったら、寒さが厳しくならないと塊茎を大きくしない薬草があり、そいつの入荷を報せる使いが来たそうだ。

 今日中に処理して保存したいし、後学のためにも一緒に来い的な流れだ。


「これはこれは、お寒い中ようこそお越しくださいましたシルバラッド様」

「報せに感謝する」

「もったいないお言葉。ささ、上物は中にありますのでどうぞ」


 すぐ終わるから塊茎の色形と名称を眺めていろと言われ、ルーカスが指さした縦横にデカい木箱をのぞき込む。中は板で仕切られ、色んな塊茎が入っている。


「リアルってジミだよね」

「塊茎って球根のことなんだな」

「あちらでは球根に学術的な定義はなかったと思います」

「園芸用語だったような? 球形じゃない物も多いよね。お芋とか」


 これはこれで目に珍しいから眺めていられるものの、気になって仕方ないことがある。

 大通りに出た辺りから、俺たちの後をつけている奴がいる。

 今も店のはす向かいの壁際からこちらの様子を窺っているし、それっぽい服装じゃないが魔術師で間違いない。


 ココアたちは気づいてない様子だが、俺は数日前から魔術師の判別がつくようになり始めている。

 魔力感知用の〝拡散〟という操作技能の練習をした成果だが、まだ一定以上の魔力量がある奴じゃないと感知できないし、拡散範囲も思うようにコントロールできない。

 だが、他人の魔力に干渉できている手応えはある。


 言い換えれば、俺たちを覗き見してる奴の魔力量はそこそこ多い。

 今の俺たちの量と比べて半分未満だが、操作技能の中には〝隠蔽〟もあるようなので、感知を当てにし過ぎるのも危険な気がする。


「気にするなイオリ」


 球根に目を向けたまま魔力感知に意識を向けていたら、戻ってきたルーカスが薄く笑んでそう言った。

 バレてるんだろうが、しらばっくれとく。


「なにを」

「多少は魔力感知が出来るようになっているのだろう? 三日程前から」

「「えっ!?」」


 やっぱバレてたかあ。感知エリアに入ってるもんなあ。


「あのさ、センパイのやることにイチイチ驚くのもうよくない?」

「そ、そうだけど…」


 そうなのかよー。気分いいから驚け驚け。


「吉岡さんの言も解かるけど、習っていないことを出来るのは不思議だよ」

「センパイは興味持つと考えなしに何でもするし」


 考えなしは言いすぎじゃね? この店オブラート売ってねえかな?


「フッ、さすがにココアはよく解かっている。イオリは私の部屋にある技能集を盗み読んだだけだ」


 無断侵入もバレてた!?


「ほらね?」

「あはは…読んだだけで出来ちゃうんだ…」

「本当は獣人種ですか?」

「それも悪くねえけどな。で、気にすんなってどういうことよ」

「イオリと同じだ。あの者もお前たちの魔力を感知したのだろう。自分の倍以上の魔力量を感知すれば、イオリも追いたくなるのではないか?」

「ココア連れて追う」(サムアップ)

「連れられて追う」(サムズアップ)


 ルーカスの苦笑に満足したのでココアとハイファイブをしておく。


 商会から帰る道すがら、ルーカスに「今のままだと感知していることが確実にバレる」と言われた。

 まだ後をつけてくる奴も、切っ掛けは俺の感知に気づいたからこそ、感知をかけ返したのだろうと。

 俺が感知できていない魔術師にも、「誰かに感知をかけられてる」とバレている可能性が高いらしい。


「原因が判るか?」

「俺の拡散が下手だから」

「否だ。お前の魔力強度が特異的に高いからだ」


 なるほど、と腑に落ちた。

 感覚的に、魔力感知は自分の魔力で相手の魔力に触る。

 たぶん手で触るのと同じで、コソッと指先で触れるか触れないかくらいの強さならバレないが、今の俺は渾身の正拳を打ち込んでいるようなものかもしれない。

 そりゃあバレない方がおかしい。となると…


「減圧か?」

「均一化も並行できれば盤石だ」

「ほほぅ、帰ったらやってみよ」

「その前に魔力導入の技量評価だ」

「分かってるって」

「ユウトさん、本当に負けてられないよ」

「僕と一緒に頑張りましょうカノンさん!」

「わざわざ僕とを付ける岩崎がキモウザい」

「う、言われてみるとそうだね…」

「私は嫌じゃないからいいよ?」

「カノンさん! その言葉はとてもうれしい!」


 ココアがボソッと『三流劇団員もドン引きするし』と言ったのがウケる。

 イチイチ大袈裟なユウトは三流劇団員っぽい。


「これはホレン草という薬草で、強い生物活性成分を多く含み、治癒薬には欠かせない素材だ」

「ホウレン草」「大葉みたい」

「「アルカロイドかな(でしょうか)」」


 知識格差で俺とココアの心が泣いているのは言うまでもない。

 半眼のココアも同じことを考えているはず。


「続けていいか?」

「「どーぞー」」


 治癒薬には欠かせないものの魔草ではないため、魔力導入を施さなければ錬金合成調剤ができない。

 要は魔力を流し込んで似非魔草にしろと。


 しかし、ホレン草は魔力飽和量が少なく閾値もピンポイントなので、認定錬金術師でも調剤に不慣れなら成功率は五分五分というくらい難しいそうだ。


「極めて少ない流量、且つ、一定の流速で閾値を探りながら導入してみろ。成功すれば淡い魔力光を湛え、失敗すれば黒く染まり崩壊する」

「一発で成功させてやる」


 三回連続で失敗したんだが?


 いやくっそムズい。感覚的に二滴じゃ足りないが三滴は多すぎるってところ。

 指先で触れてる部分からドス黒ぐ染まっていき、ボロボロと崩れていく絵面がやる気を削ぎまくる。


(先程の言葉だけで気づけるなら大したものだが)

(このままだと千回やっても成功しねえな。どうすりゃいいのか…)


 一滴が最小単位じゃダメだということは分かってる。

 例えば一滴を1とするなら、0.1滴をどう操作するか。……いや違うな。

 ゲートと直結でホレン草に流し込めるなら、絞り羽根をほんの少しだけ開けば0.1滴の調節もできそう。

 だが、ホレン草に流し込む魔力は、体内を循環させている魔力だし…


(ん? 一定の流速で閾値を探れって言ったな……ってことは、出来るのか?)


 座りなおして姿勢を正し、両腕を太腿の上に置き、人差し指の先同士をひっつけて目を閉じる。

 「常に循環する」という意識を乗せて巡っている体内魔力に意識を向け、更に「右手人差し指だけゆっくり循環しろ」と意識を重ねてみる。


(はは、できるじゃん。魔力ってスゲー)


 続けて左の人差し指から、右の人差し指へ魔力を流し込む。


(勝った)


 何に勝ったのかは分からないが、そういう気分だ。

 内心ほくそ笑みながら、右の人差し指でホレン草に触れる。

 そしてゆっくりとした一定流速で閾値を探り…


(満タン!)

(早い。果たしてここまで実践に強い者が他に存在するだろうか)


 閾値を感じた瞬間に導入を止めた。

 淡い白金の魔力光がホレン草を包み込む。

 ふっふっふっ、やはり俺の勝ち。今からお前は一束100円のホーレン草だ!


「よくぞ気づいた。秀逸だ」

「よしっ! ざまーみろホーレン草!」

「センパイが変態すぎてヤバい」

「うぅ~、さっきと何を変えたのか判らない~。ユウトさん判る?」

「全く判りません。正直、気持ちが焦ります」


 ここで満足してるようじゃあ詰まらない。

 残りの指も循環速度を落とし、ホーレン草を十枚並べ、十指で触れて流し込む。


「変態がキモイんですけどー」

「「すごい…」」

「最早余裕! ワンオペ量産!」

「フッ、忙しくなるが嬉しい誤算と言っておこう」


 在庫のホーレン草を光らせた俺の出来高日当は、九万三千シリン也。

 一枚千シリンなので九十三枚か。


 いつの間にかジト目に変わっていたココアたちにドヤ顔を向け、さっきの商会へ行きホーレン草を仕入れて戻った。


「イオリよ、錬金術を学んでみる気はないか?」

「悪くない話だけど遠慮しとく」

「なぜだ?」

「気になってる操作技能をマスターしたら教えてくれ」


 呆れ苦笑しながらも、ルーカスはまんざらではない様子で頷いた。



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