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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第1章:出逢い編

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12/61

12:声にするのは大事なことで



「遅きに失する感は否めませんが、この場を借りて僕から一ついいでしょうか」

「キリッとした顔してどうした」


 椅子を引いて立ち上がったユウトが俺に体を向けた。


「しっかりとお礼を述べたいのです。黒須さん、この度は命を救ってくださり本当にありがとうございました。この御恩を忘れることなく、いつとは言えませんが、何倍もの恩返しをさせて頂く所存でおります」

「「固い」」


 ハモったココアと親指を向け合う。


「分かったからもう座れ。俺が困ったら助けてくれ」

「無論です」


 ユウトが座ると、小さく手を上げたカノンが立ち上がる。


「私も。イオくんが来てくれた時、本当に嬉しかったし安心したの。私に出来ることなら何でもするから、私もイオくんの傍にいさせてください…」


 こういう時にカノンが選ぶ言葉は昔と変わらない。

 自分を下に置くような言葉を選ぶのは、それが本心だからだろう。そして俺は困るわけだ。


(あーざーとーいー。自分から別れる言ったくせになんなの?)

(なぜ黒須さんをイオくんと呼ぶのか…二人はあの夜が初対面じゃない…)


 困るけど、ここで曖昧に答えたらまた繰り返しだ。ちゃんと答えよう。


「先々でどうなるかは分からんけど、少なくとも全員が生きていける、暮らしていけるって自信を持てるまで、俺たちは一緒にいなきゃいけないと思う。それと、全員が揃った今、はっきり伝えておきたいことがある」


 ココアとリリが俺のカノジョであること。

 今はリリのアパートで寝起きするしかないこと。

 リリが俺を救ってくれたこと。

 出逢ったその日からそういう関係になったこと。

 雇ってくれるルーカスもリリが紹介してくれたこと。


 そんなアレコレを全部ひっくるめて一つ言えるのは、ここが日本じゃないということ。

 リリの受け売りなんだが、文化も違えば考え方も違う。

 俺たちの常識は通用しない。

 それを頭で受け入れても心が受け入れないことはあるだろうし、その逆もあるだろう。


 何もやってないのに、何かに答えを出すってのも無理だ。

 今は出来ることだけに集中して頑張って、心と体の余裕を少しずつ増やしていきたい。


「あの、リリさんと吉岡さんは納得してるんですか?」

「私とココア? 何にかな?」

「あたしたちがセンパイと付き合ってることだよ。あたしたちの国の夫婦は……なんて言うんだっけ?」

「一夫一婦制のことかい?」

「それ。それだから、結婚前も恋人は一人が当たり前なんだよ」

「制度なんだね。この辺は養えるかどうかで人数を決める感じかな」

「あたしはリリがセンパイを本気で大好きなのよく分かるからヘーキだよ」

「ココアも心の全部でイオリが大好きでしょ」

「うん、大好き。だからあの日、リリが言ってくれたことに納得できた」


 ココアは広場で俺と再会した時に、リリから言われたことを訥々と語る。




――ココア視点――


 素敵な人をたくさんの異性が素敵だと想うのは当たり前。

 どこを素敵と想うかは違っても、素敵だと想える人が目の前にいるのに諦めたら、きっと死ぬまで後悔する。


 一番刺さった言葉は、『ここはジャパンじゃないよ?』だった。


 ここは日本じゃない。分かってたけど分かってなかった。

 自分の当たり前をどれだけ叫んでも、ここの人たちには届かない。

 だったら損をしないように生きなきゃ、自分がみじめで可哀想になる。


 ちゃんと真っ直ぐ話してくれたリリは嫌いじゃない。

 性格が似てると思うし優しくしてくれるから、もう嫌いになれない。

 リリとなら、センパイをシェアしても幸せになれると思える。


 そんな色々を考えてると、自分がどれだけセンパイを好きなのか良く分かる。

 大して好きじゃない人なら、こんなことは考えないだろうから。


 ひとつだけ後悔してるのは、センパイに告白しなかったこと。

 先に好きになったのはあたしだけど、センパイが好きでいてくれてるのは感じてた。


 クリスマスを待たずに告白すれば良かった。

 そうしたら、あたしはリリより先にセンパイのカノジョになれてた。




――イオリ視点――


「私はココアのことがイオリの次に大好きだよ」

「あたしもセンパイの次にリリのこと大好きだよ」


 死ぬほど恥ずいんだが……んなこと言ったら引っ叩かれるな。

 あぁそうだ、忘れてた。


「なあカノン、ユウトだけ知らないのはフェアじゃないと思うんだけど、話していいか?」

「……うん、それは私もこっちに来て考えてたの」


 カノンに目を向けていたユウトは口を開きかけたが、居住まいを正して俺に視線を向けた。

 察しがいいヤツだからほぼほぼ気づいてるだろう。


「俺とカノンは同じ高校の同級生で、高三から大学入学まで付き合ってた」

「っ……以前からの知り合いは予想できましたけど、そうでしたか…」

「ねえセンパイ、もうひとつ言うことなくない?」


 分かってるからプレッシャーかけんな。あーあ、カノンが気づいた。


「イオくん…吉岡さんに話したの?」

「話した」

「どうして…」

「あたしが写真を見つけたからだよ」

「写真? スマホの?」

「違う違う、アレだアレ、親父のポラロイドカメラで撮ったやつ」

「ポラロイド……あっ」

「すみません、話が見えないのですが」

「えーとな、二週間くらい前にカノンからやり直したいって言われたんだよ」

「そ、それはさすがに、きついですね…さすがに…」


 あの日、居酒屋にカノンを連れて来たユウトは、それはもう爽やかな笑顔で『僕が想いを寄せている川瀬花音さんです』と俺たちに紹介した。

 俺とココアは度肝を抜かれるしかなかったというね。


「……吉岡さんはいつ写真を見つけたの?」

「川瀬さんと会った日」

「前の日だったろ」

「何時間か前だっただけだし」

「いや二十時間くらい前…なんでもない(睨むなよ)」

「雰囲気からすると、リリさんもご存じなんですね?」

「うん、知ってる」

「え? マジで?」

「あたしが話した」

「うそん。いつ」

「お家で一緒にお風呂入ったとき」

「あーーー、それでぬるま湯だったわけか」

「寒くなったから出たの」

「それに入った俺の立場!」


 無視されましたね。まぁいいけどさ。

 それよりこの空気をどうにかしたい。

 窓開ければ変わるかな? 変わるわけねえな。


「黒須さんは川瀬さんに返事をしたんですか?」

「してない」

「なぜです? 不誠実では?」


 やっぱこういう話になるわな。


「本人の前で言うのもアレだけど、メールじゃなくせめて電話してこいよって思ったもんでな。文字じゃ伝わらないこと多いんだろし」

「ああ、それは共感できます。川瀬さんはなぜメールで済ませたんですか?」

「……イオくんの家まで行ったんだけど、勇気が出なくて、それで…」

「おま、家まで来たのか。(マジで?)」

「うん、メールを送ったのは近くの公園からだけど…」

「あれ夜中だったろ。公園からどうしたんだよ」

「始発まで駅前のネットカフェに…」

「ねえセンパイ、あたしたちアオハルしてる♪」

「なに吞気なこと嬉しそうに言ってんだよ」

「だって青春って感じられなくない? アオハルどこ落ちてんのーって」


 言いたいことは分からんでもない。

 何につけても「青かった」ってのは、過去を振り返った時に感じる的な。たぶん。


「それで、黒須さんはどうお考えなんですか?」

「曖昧にしたくないからハッキリ言う。カノンとやり直す気はない」

「理由を聞かせてください」

「なんでお前がそこ掘るんだよ」

「何か不都合でも?」

「ねえわ! 別れる時、好きになってもらえる気がしないって言われたからだ」

「だって! イオくん私に好きって言ってくれたことなかった!」

「そうだな。言う必要ねえと思ってな。(やっぱりか、ほんと悪かった)」

「ねえセンパイ、今の言い方はあたしが大好きなセンパイじゃない」


 俺だって言葉にするべきだったと後悔したさ。

 カノンは初めての彼女で、舞い上がった俺はリングを贈った。

 でもリングのことは言わない。今更言う意味がない。


「今の黒須さんからは想像できませんね。元来ロマンティストでしょうし」

「お前どこのプロファイラーだよ」

「その例え方は……川瀬さん、何かプレゼントされたことはありませんか?」

(ムダに勘がよろしいなあオイ!)


 カノンは何の躊躇いもなくバッグに手を入れ、あのリングを取り出した。


(うそん!?)

「まさか持っているとは……見せてもらっても?」

「いつか偶然に会ったら返そうと思って。どうぞ」

(どうぞ!?)

「……ああ、これは小さすぎて判り難い。字数を欲張りすぎですよ黒須さん。

 川瀬さん、to my beloved first time girlfriend と彫られています」

「えっ…」

「あ‟あ‟あ‟ーーーっ! お前死ね! ユウト死ね! 今死ね! 早よ死ね!」

「ファーストタイムって初カノってことかよセンパイ死ね!」

「ココア? 悪党の顔になってるよ?」


 気づくと、カノンが涙をぼろぼろ零していた。



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