11:八等級
「世の中は広ぇな。面白かったぜイオリ」
「そりゃ何よりだけど、イオーリはやめんのかよ」
「俺の目論見に途中で、いや、最初から気づいてたんだろ?」
「まあね。爺さんがそんな感じだから。ガンドウほど念入りじゃねえけど」
井戸端でガンドウと体を拭きながら色々と話をした。
俺には棒術か槍術が合いそうだと言われたり、合気柔術には剣術の技巧が盛り込まれてると返したり。
そもそも俺が合気未満の柔術を始めたのは、合気柔術一筋で厳しかった爺さんから親父が逃げたせいだ。
俺に物心がついた頃の爺さんは好々爺って感じだったものの、小学五年になった頃から鬼畜の片鱗を見せ始めた。
俺は小学校四年の頃に、近所の兄ちゃんや姉ちゃんたちが練習してたダンスに魅せられ仲間に入れてもらった。
中二の時にはパルクールのチームリーダー木戸さんと出会って、仲間に入れてもらった。
どっちも筋力と持久力が必須だし、親父と違って合気柔術を敬遠する理由もなかったから、一石三鳥って感じで三つを続けてきただけだ。
「惜しい気もするが、生き方は人それぞれだな」
「生き方っつーか、今は金稼がないとヤバい状況なんだわ」
「異国人が仕事にありつくのは難しいだろ」
「ルーカス知ってる? 有名っぽいけど」
「領主様お抱え錬金術師のシルバラッド様か?」
「お抱えって?」
新情報の気配を感じ聞いてみると、ルーカスはこの辺の領地を治める辺境伯のお抱えらしい。
いやお抱えって何だよって話なんだが、辺境伯を総理大臣に例えれば、お抱え錬金術師は厚生労働大臣みたいな官職っぽい。
おまけに、アデーレの代官はルーカスの伯父で男爵らしく、ルーカスは爵位がないから身分は低いが、辺境伯のお抱えだから領政権限は代官より大きいと。
警備隊がソッコーで動くわけだ。
リリの紹介でルーカスが四人まとめて雇ってくれると話したら、「お前たち魔術師か!?」って驚かれた。
太陽は真っ赤でいい時間とあって、適当に否定して話を本題に戻す。
「俺はギルド員証もらえるんだよな?」
「心配するな。ほれ、八等級の承認だ」
リリから渡されガンドウに渡した紙には一等級から十等級の文字が書いてあったんだが、ガンドウは右手の人差し指を舐めると八等級の文字部分に刺して穴をあけた。雑な方法だが合理的。
「八等級くれんだ?」
「十等級がいいのか?」
「いや八等級の良さを知りたいっつーか」
「ほんと何も知らんのだな」
戦士と魔術師の戦闘系ギルドには、ハンター資格の認定権限がある。
ハンターは何を専門に狩るかで冠がつき、魔獣ハンターだとか賞金首ハンターだとか呼ばれる。
但し、認定を受けるには認定試験に合格しなければならず、受験資格をもらえるのが七等級以上という規定がある。
「あーはん、ギルドにとっては十が八でも大差ないってことか」
「そういうことだ。でもな、等級を上げるにゃギルドやアデーレへの貢献度を稼がにゃならん。低等級は昇級しやすいが、それでも一年はかかる」
「へぇ、二年分お得じゃん」
「もっと喜べ」
「右利きのガンドウが糞してケツ拭いた指を舐めた方が気になってる」
「してねぇの分かってるだろ!」
「してねえ保証がねえわ」(笑)
服を着てガンドウと握手をしてホールへ戻る。
ガンドウは裏口へ向かいながら、『剣術を身につけたけりゃ指南してやるから声かけろ。金は取るけどな!』と言い去った。
「職長が八等級くれたんだ? イオリ気に入られたね」
「職長ってことはそこそこ偉い?」
「職長は二人いるけど同列で、上から三番目。ガンドウ職長は現場実務」
「へぇ~」
「楽しかったんだよ。リリも来れば良かったのに」
「そうなの? 長いなぁとは思ってたけど、何したの?」
「ダンス」(笑)
「へ? 模擬戦で踊ったの?」
「まともに戦っても秒殺されっから掻き回しただけ」
「えー、私も見たかったー」
喋りながらも手を動かすリリが、ドッグタグにしか見えないギルド員証を手渡してくれた。
戦士ギルド員証:イオリ・クロス 八等級戦士 格闘術
発行元:ローメンス辺境伯領アデーレ支部
「今後のご活躍を期待しております!」(笑)
「微力を尽くします!」(キメ顔サムアップ)
リリは窓口嬢なのでレンタル防寒着は職務範囲外らしく、担当の男性職員を呼んでもらってホール脇の倉庫に入った。
「外套って意外と種類があんだな」
「大半は獣の皮色その物で、一番安いのはフードと裏地がない薄革マントです」
「それで防寒になんの?」
「装備を固めていれば雨風よけには十分ですし、野営時の敷布代わりですね」
納得の用途。
今月末には数枚を残すだけになると言われ、早速とばかりに物色を始める。
畳んで積み上げてあるから面倒だ。
ハンガーラック造ったら売れるんじゃなかろうか。
防寒と動きやすさと見た目から、どうしてもフード付ロングコートで裏地があり、染色してある革に目がいく。
値段を尋ねると、やはり一番お高い五万ユルグ。
「サイズが大きいのばっかだし重いんだけど!」
「凍えるよりいいだろ? 外歩きの時だけだから袖捲って我慢」
「魔術師ギルドのローブなら軽い物が多いんですけどね」
「ローブがいい!」
「私もローブがいいな」
「ギルド員証がないからムリ。全部俺の名義でレンタルするんだし」
「「あぁ」」
男性職員は俺たちの服装が気になっているようだ。
ちょいちょい「生地の素材は?」とか、「凝った仕立てですね?」とか聞いてくる。
街を歩く時も珍獣を見るような視線を集めるので、外套を着れば一石二鳥だ。
「ユウトは無駄に似合ってんな」
「黒須さんは似合いすぎてて怖いですよ」
「怖いってなんだよ」
「コートの下にマシンガンを隠し持ってるような怖さが」(笑)
「それわかる。センパイってロシアンマフィアっぽいもんね。ヘアカラー的に」
「ロシア人にこんなカラーいないだろ。いないよな?」
「インディゴシルバーの毛髪は地球人類にいませんね」(笑)
「吉岡さんは全体的に魔法少女っぽいと思う」
「それ意識してるからツインテだし。センパイのロリ好きに寄せてんの」
「おーい」
「大好物でしょ? カワイイ系でロリ顔の巨乳。早く食べて?」(うっふん笑)
「「「「……」」」」
職員まで絶句してんだが。
そんなこんなで四人ともフードと裏地があるロングコートを選んでお支払い。
俺は髪色に合う系の濃藍、ココアは白、カノンはワインレッド、ユウトも白にしたかったがココアに色被りを却下され、アイボリーを選んだが再び却下され、泣く泣く濃い灰色を選んだ。
モノトーン好きらしい。
「シリンで払ってユルグで釣りをもらうと、なんか得した気分になる」
「気のせいじゃありませんよ。ギルドは質の高いユルグ硬貨を選んで保有していますし、換金になる際は前年相場の平均値で換算します」
俺とココアがユウトとカノンの間で視線を彷徨わせると、苦笑する二人はお互いに譲り合ってからユウトが説明を始めた。
一〇〇シリンをユルグに換金する際の前年相場は、二五〇~三〇〇ユルグ。
前年といっても、ここ十年程の相場に変動はない。
ギルドは一〇〇シリン当たり二五〇ユルグになる良質なコイン、実質的には新しいコインを選んで保有しているが、換金は相場平均値の一〇〇シリン当たり二七五ユルグで換算する。
ここでユウトの話を遮った。
「どうかねココアくん」
「得するってことでもういいんじゃないかなイオリくん」
「給料をシリンでもらえばいいだけだよねココアくん」
「賢いねイオリくん」
「説明しろと言われたわけじゃありませんからいいんですけどね」(苦笑)
「一〇〇シリンを渡したら、二五〇ユルグのところを二七五ユルグもらえるの」
「「わかりやすいよカノンくん!」」
「いいんですけどね…」(半眼)
「あ、横から口出ししてごめんね岩崎さん」(苦笑)
付き合ってた頃もカノンの話は分かりやすかったと思いながら、ココアが少しずつだがカノンと打ち解けているようで安心した。
「みんな似合ってるよ」
「ねえリリ、誰が一番似合ってる?」
「イオリ♥」
「言うと思ったし」
「あと一時間くらいで仕事終わりだよな?」
「うん」
「待ってるから皆で風呂入りに行って、どこかでメシ食いながら話をしよう」
「わかった。美味しくて安い食堂に案内するね」
リリの先導で公衆浴場に着いて笑った。
ずっと「何屋だろう?」と思っていた看板は、四角い箱の中にバンザイした人型。
浴槽と人だった。
時間帯のせいか客はちらほらで、ちゃんと掛け湯槽が別にあるのは高評価。
でも洗い場はない。
風呂上りのユウトとカノンは、蕩けた表情で風呂のありがたさを滾々と語り合っていた。
リリが風呂に入ったら必ず寄る食堂は、風呂屋の三軒隣にある。
リリが作ってくれたシチューもだったが、テーブルに並んだ料理はロシア料理をイメージさせる。
気候や風土が似ていれば、食文化まで似るのかもしれない。
皆がそれなりに腹を満たした頃合いで、ユウトが話し合いの口火を切った。




