10:模擬戦?
戦士ギルドに入ると、やはりリリの窓口は行列が一番長い。
言うて十人もいないが、誰も並んでいない窓口が二つあるんだから大人気なのは確定だ。
行列を四人増やしてやろう。
「(本当に白猫とは…)あの方がリリさんですね?」
「本名はリリアーナ」
「リリさんと吉岡さんって雰囲気が似てると思う」
「あたしも思う。性格も似てるよ。あたしより背が高くて大きいけど」
「自虐か?」
「違うし! センパイはカワイイ系が好きなおっぱい星人って意味だし!」
「声でけえよ」
「岩崎は見比べるな死ね!」
「し、失礼、ついね…」
ココアが悪い。今の流れで見比べない男はいない。
リリが気づいて苦笑いしてるわ。
「次のイオリどうぞ」(笑)
「お疲れさん」(笑)
「ありがと。イオリは時間に正確なんだね。模擬戦見れなくて残念って思ってたけど、朝見れたから満足した。でも模擬戦の相手は強いよ」
「だろうねえ。相手は武器持ってんだよな?」
「うん、双剣かな? もちろん木剣だけど。これ持って裏の練武場に行ってね」
「はいよ。んじゃ行ってくる」
「イオリ頑張って」
「おう」
後ろ手をヒラヒラと振りながらホールを出て、路地というには広すぎる脇道を通って裏へ。
「黒須さんへの愛情がよく判る言葉と表情でしたね」
「そうか?」
「リリはセンパイのこと大好きだからね。あたしも大好きだよ?」
「さんきゅ。俺もココアとリリが大好きだ」
「知ってる」(笑)
(イオくん変わった……私は好きって言ってもらえなかった……)
練武場と言うから道場か武道館を想像していたが、柱と屋根だけの簡素な造り。
足元も普通の地面で、見た感じわざわざ起伏をつけてあるんだろう。
ケンカなんかじゃなく、戦闘前提だとよくわかる。
それはいいとして、誰もいないんだが…
「解体場がありますね。動物を解体するんでしょうか」
「らしいぞ。たまに魔獣もバラすってよ」
「魔獣ですか。どういう生物なんです?」
「高級肉ってことしか知らん。つーか、誰も来ねえぞ」
「沖縄時間?」
「なにそれ」
「沖縄の人は待ち合わせの時間に家を出たりするんだって」
「うそん。誰情報だよ」
「高校の時に沖縄から転校してきた子」
「比嘉さんだね?」
「そそ、岩崎けっこう絡んでなかった?」
「沖縄語を教えてもらってたのさ。比嘉さんは南部のウチナーグチだったよ」
南国って大らかだな。
ココアは「はあ?」みたいな顔をユウトに向けてるが、俺も同じ気持ちだ。
天才が考えることは分からん。
「イ、イオくん、すごい人が来る…」
振り向くと、カノンの頭越しに上半身裸のガチムチが歩いて来る。
身長二メートル超えてる。
デカいもんだから、片手で握ってる木製双剣がオモチャみたいだ。
「待たせたな! どうにも糞の切れが悪くてよ! ガハハハ!」
ココアとカノンがドン引きだ。いやユウトもドン引きだ。
「見たところお前が新規登録のイオーリだな。俺はガンドウだ」
「勝手に伸ばすなイオリだ。ところでガンドウ、手洗ってきたか?」
「もちろん家に帰ったら洗うぞ。なんでだ?」
俺もドン引きだ。いやこっちのトイレには手洗い場がねえけどさ。
「木剣以外で俺に触んなよ?」
「一応持ってきたがイオ―リは無手なんだろ? 俺も無手でいいぞ」
「お願いだから木剣使ってくれガンドーウ」
「イオ―リは耳が悪いのか? 俺はガンドウだ」
「こいつマジで…」
「ちょっと面白いかもと思ってるあたしがいる」
「凄まじいカルチャーギャップだね」
「でもこっちは手を洗うのも労力が必要だから」
「「「確かに」」」
カノンの至言が出たところで練武場に入り、三メートル程の間合いで対峙した。
「差し向かいになると余計に雰囲気あるなイオ―リは」
「ガンドーウはなんで上半身裸なんだよ」
「魅せるためだ」
「意味わかんねぇしツッコミも入れねぇのかよ」
「男に突っ込む趣味はない!」
真顔で言ったガンドウが目の奥で笑んだ。こいつ愉快犯的猛獣タイプだわ。
言うたら獅子搏兎の周到型。要するにウチの爺さんタイプ。
油断させるだけさせて、獅子が兎を全力で狩るように襲ってくる。
(時間に遅れたところから全部仕込みだな。めんどくせえ野郎だ)
まぁ勝てるとは全く思えないけど、いいようにされて終わるのは癪だ。
どうすっか…………踊っちゃうか。
ロンTごとパーカーをずぼっと脱いだ。
ガンドウの腰が僅かに沈んでる。
思ったとおり、模擬戦はもう始まってると。
「ココア、これ持っててくれ。投げるぞ? 落とすなよ?」
「う、うん!(腹筋ヤバ♥)」
「黒須さんはすごい体なんですね…」
「す、すごいね…(昔よりずっと)」
「ガハハ! イオ―リも魅せる体躯だが俺には劣る!」
「言ってろ肉団子。太くすりゃいいってもんじゃねえわ」
歩法とステップを混ぜ、ガンドウ中心で円を描くように旋回する。
脳裏でお気にの曲を鳴らし、体とステップで音を拾う。
「むっ、魅せるなイオ―リ…」
「センパイかっけー! ひゅ~~~♪」
視界の端に映るココアが体でリズムを刻み始めた。そういうとこ好き。
するとリズムを把握したユウトがクラップを始め、カノンもユウトのクラップに合わせて控え目だが手を叩く。
「どうしたよガンドーウ! お前の魅せるっつーのは突っ立ってることかあ!?」
(こいつは想定外だぜ。変則的で速い)
フェイントで後方へトンっと地を蹴り、片手倒立ブレイクでヒュンヒュン回り、ガンドウに背を向けたところで半宙ジャンプからのぉ!
ドシュ!
「な!?」
回転後ろ回し蹴りをクロスガードで防いだガンドウの脚を脚で絡めとり、
「しゃっ!」
「うお!?」
片足で踏ん張ったままのガンドウに一瞬だけアキレス腱固めを極めて外し、腰回転でブレイクしながらガンドウの背後へ離脱…と見せかけてからのぉ!
「ライダーキーック!」
「だっ!」
背中にジャンプキックを受けたガンドウがつんのめる。おもしれぇ(笑)
追従するように二歩目で震脚を踏み肝臓に中肘撃!
ドズンッ!
「ぐっ」
更に小さな三歩目でも震脚を踏み、体軸が泳ぐガンドウの脇腹に掌底フック!
「くおっ!? いつまでも調子に…」
「はっはー!」
バク転、バク宙と繋いで離脱しロボットダンス。
「うぃ~んガシャ、うぃ~んうぃ~ん、ガシャッ、ガシャッ。ハロ~~~♪」
目がマジになったガンドウから逃げるべく、回転ムーンウォークで退場。
「ふぉおおおーーーっ!」
「センパイいえーい! ふぉ~~~♪」
「あははっ、これ模擬戦ですか?」(笑)
「ふふっ、イオくんらしい」(笑)
「なんなんだお前ら……」
ココアたちとハイタッチしてガンドウへ体を向ける。
「俺らは異国人だからギルド員証が欲しいだけでね。でもよ、チンピラの二人や三人なら悶絶してるだろ?」
「ったく、最後の二連打が悶絶ですむはずないだろうが。申し込み用紙に書いてあった武術は聞いたこともねぇが、そいつは最後の二連打だけだな?」
「あーいや、柔術っぽいのは足首を固めたやつだけだ」
「なんなんだよお前は…」
爺さんの教えだから仕方ない。
若い内は柔術、つまり投げ、打ち、蹴り、突き、締め、固め、組み伏せ、呼吸法をやり続けろ。
俺がアラサーになる頃には合気も自然と身についてる。
そこからが真の修行だ。
「ってな。ま、未熟でよけりゃ披露するけど?」
「そいつは面白そうだ」
結果、ガンドウは鴨だった。
筋力が高いもんだからすっ転ぶわすっ転ぶわで笑えた。
と同時に、あくびこきながら俺を転ばせまくる爺さんのヤバさを再認識させられた。




