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120億の不渡りを出した王家に、世界買収の督促状を ~魔法も愛も不採算。監査官令嬢は狂犬皇帝と世界を買い叩く~  作者: 花束ミレイ


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第32話:債務者ゼノスの「内部監査」。――陛下、あなたの魂の奥底まで、私が残らず査定して差し上げます

 神々の墓場のさらに底。

 物理的な形を失い、黄金の数式が川のように流れる「世界の心臓部コア」に、私たちは辿り着きました。


 そこには、一人の老人が座っていました。

 無数の光る帳簿に囲まれ、ひたすら羽ペンを走らせる、世界の「真の受取人」――運命の記録官アーカイブ


「……来たか。一二〇億ディルの負債を背負いし、人の子よ」


 老人が顔を上げると、その瞳には銀河のような深淵が映っていました。

 彼が指を差すと、ゼノス陛下の足元に、どす黒い影が広がります。それは彼がこれまでの人生で奪ってきた命、破壊した街、流した涙の総量――「殺戮の負債」の可視化でした。


「この男の魂は、あまりにも重い。彼を生かし続けるコストは、世界の均衡バランスを崩す。……ヴィクトリア。お前が積み上げた富をすべて投げ打っても、この赤字は埋められぬぞ」


「……あら。……随分と古臭い『減点方式』の査定ですわね」


 私は、震えるゼノス陛下の前に立ち、扇を突きつけました。

 

「記録官さん。……あなたの帳簿には、彼の『過去』しか載っていないようですが。……私の算盤には、彼の『将来価値』が既に計上されていますのよ」


「将来価値だと? ……罪を犯した者に、価値などあるものか」


「いいえ。……ありますわ。……陛下。……今、私の瞳を見ていなさい」


 私はゼノス陛下の胸に手を当て、彼の魂の奥底へ、私の魔導監査オービットを直接流し込みました。

 彼の記憶。……孤独な幼少期、狂気の中で振るった剣、眠れぬ夜の苦痛。……そのすべてを、私は「一秒たりとも無駄ではない」と定義するために、高速で計算デバッグしていきます。


「……内部監査、開始。……第一項、彼の武力による『旧秩序の破壊』。……これは新世界を構築するための『解体工事費用』として一括計上。……第二項、彼の不眠による『執務効率』。……これは私の右腕としての『過剰労働』として相殺。……第三項……」


「……ヴィクトリア……。……もういい、……俺の汚れきった中身を、これ以上……見るな……」


 ゼノス陛下が、悲しげに目を逸らそうとしました。

 私はその頬を両手で挟み、無理やりこちらを向かせました。


「逃げるなと言ったはずですわ、この大莫迦者(不良資産)! ……あなたの残酷さも、その凶暴なまでの力も、……私が愛し、私が買い取った資産です。……あなたが自分の価値を信じられなくても、……オーナーである私が、あなたを『最高傑作』だと格付けしているのですわ!」


 私の叫びと共に、青い魔力の光がゼノスの影を飲み込んでいきました。

 

「記録官さん。……世界にとって、彼は確かに『赤字』かもしれません。……ですが、私という『世界中央銀行』が、彼を『唯一無二の担保』として認めている以上。……彼の存在は、私の全資産に匹敵する『営業権のれん』として成立しますの!」


 私は、記録官が持つ「運命の帳簿」の、ゼノスの項を指差しました。


「……彼の罪を、消そうとは思いません。……それは彼という歴史の一部ですから。……ですが、その罪によって発生した利息(呪い)は、本日をもって私の『特別利益』で全額相殺オフセットさせていただきますわ。……不服があるなら、今すぐ世界を破産シャットダウンさせてみなさい!」


 記録官が、驚愕に目を見開きました。

 

 神の作ったルールに従うのではなく。

 「愛」という名の非合理を、究極の「信用」へと変換し、システムの根幹に無理やり割り込ませる暴挙。


「……。クク、クハハハハ!!」


 記録官が、突如として大笑いしました。

 彼がペンを置くと、ゼノスの首のアザが、まるで雪が解けるように綺麗に消え去りました。


「……面白い。……『愛』を資本金として組み入れ、運命を強引に買収(M&A)するとは。……一二〇億ディルの債務者よ。……お前こそが、この世界を救う『真の管理者』に相応しい」


 記録官は、一冊の、真っ白な帳簿を私に手渡しました。


「……一二〇億。……それは、神々がこの世界を見捨てた際に残した『残務整理費用』だった。……それを誰かが肩代わりし、世界を再建する。……その覚悟がある者にのみ、この『白紙の帳簿あした』は託される」


 ゼノス陛下が、力強く私の手を握りました。

 彼の身体から呪いは消え、そこにはただ、私を愛おしそうに見つめる、一人の男の熱量だけがありました。


「……ヴィクトリア。……精算は、終わったのか?」


「いいえ、陛下。……最終的な『記名』が残っておりますわ」


 私は、白い帳簿を広げました。

 

 そこには、一通の手紙が挟まっていました。

 十年前、姿を消したラプラスが、いつか私がここに辿り着くことを予見して残した、最後の「課題」。


『ヴィクトリアへ。……一二〇億ディル。その真の受取人は、お前自身だ。……お前が世界を買い、お前が世界を愛したとき、……その金は、お前の未来の「祝儀」となるだろう』


 私は、思わず小さく吹き出しました。


「……全く。……最後まで、食えない先生ですわ」


 私は、ゼノス陛下の手を借りて、その白い頁に、最初の一行を書き込みました。

 

 ――世界再編計画。

 ――第一項:世界中央銀行・総裁ヴィクトリアと、皇帝ゼノスの「永久的な共同経営(結婚)」の締結。


「……陛下。……この後の『手数料』、一生をかけて、たっぷりとお支払いいただきますわよ?」


「……ああ。……お前の帳簿が、愛という名の黒字で溢れるまで……何度でも、支払ってやる」


 世界の深淵で、青い光と黄金の数式が混ざり合い、新しい夜明けの鐘が鳴り響きました。

ゼノス陛下の魂を監査し、その「負債」を愛という名の「投資」で相殺した第32話。

ヴィクトリア様が神々のルールを書き換え、運命を完全に手懐けるシーン。

最高にスカッとしていただけましたでしょうか。


一二〇億ディルの真の受取人は、自分自身だった。

この世界の「管理者」として、そして「一人の女性」として。

ヴィクトリア様が下した最終決断の行方は……。


次回、第33話(最終回)『120億ディルの最終決済。――神々が遺した「負債」、私が全額、星の光に変換いたします』。


ついに物語は完結へ!

ヴィクトリア様とゼノス陛下の、誰も見たことのない最高の「最終決算報告」を、

ぜひ、その目で見届けてください。

皆様の【ブックマーク】と【評価】が、

この物語を永久保存版の「伝説的資産」へと変えてくれるのですわ!

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