第33話(最終話):120億ディルの最終決済。――神々が遺した「負債」、私が全額、星の光に変換いたします
「……あら。随分と、眩しい決済報告ですわね」
帝都・中央銀行のバルコニー。
私は、ゼノス陛下に背中を預けながら、黄金色に染まる地平線を眺めていました。
空に浮かぶ人工魔導核は、かつての不気味な赤色ではなく、人々の希望を吸い込んだような、温かな白銀の輝きを放っています。
「ヴィクトリア。……これで、一二〇億ディルの帳簿は完全に閉じたのか?」
陛下が、私の指に嵌められた「中央銀行総裁」の印章付きの指輪――そして、その隣で輝く婚約指輪を愛おしそうになぞりました。
「ええ。……神々が遺した世界の『負債』は、本日、新大陸と旧王国の『復興利益』を以て、全額完済いたしました。……残った一二〇億ディルは、そのまま世界の『未来発展基金』として組み入れ済みですわ」
私は手元の白い帳簿をパチンと閉じました。
あの日、婚約破棄された夜会で感じた「絶望的な赤字」は、今や計り知れない「幸福の黒字」へと姿を変えていました。
「……お、お嬢様ぁぁ! 陛下ぁ! 大変です、大変なんですってば!」
背後の扉を派手に開けて飛び込んできたのは、相変わらず胃薬の瓶を握りしめたシフォンでした。
彼女の背後には、かつての貴族の面影もなく、今や私の「特区」で清掃作業員として真面目に働いているアシュレイ元王子の姿も見えます。
「シフォン。騒々しいですわ。……私の結婚式(合併披露宴)の準備、滞っているのかしら?」
「それどころじゃありません! ……あのアシュレイさんたちが、『ヴィクトリア様の慈悲深さに感動して、自分たちの給料を全額、銅像の建設費用に寄付したい』って言い出して! ……そんなの、私の計算外ですぅ!」
私は、顔を青くして縮こまっている元王子を一瞥しました。
彼は、私が作り上げた「働いた分だけ報われる」世界の合理性に、すっかり心を折られた……いえ、改心したようですわね。
「……寄付? 却下ですわ。……銅像などという減価償却の早いものに投資する暇があるなら、孤児院の魔導給湯器の更新費用に回しなさい。……無駄な支出は、一円たりとも認めませんわよ」
「……は、はい! 承知いたしました、ヴィクトリア様!」
元王子が敬礼して去っていくのを見送り、私はふっと溜息を吐きました。
「……全く。……私が買い取った世界だというのに、まだまだ教育(監査)の余地が残っていますわね」
「くはは! いいではないか。……お前の仕事が一生終わらないということは、俺が一生、お前の隣で剣を振る理由があるということだ」
ゼノス陛下が、私の腰を強く抱き寄せました。
彼の心臓の鼓動は、今や世界で最も安定した「基準通貨」として、私の胸に響いています。
「……陛下。……私の人生という名の帳簿、……これからも、あなたという『最大の資産』を計上し続けても、よろしいかしら?」
「……ああ。……お前の気が変わっても、俺は絶対に『差し押さえ』を解くつもりはないからな」
私たちは、万雷の拍手と、青い魔力の光が降り注ぐ中。
新しい世界の、最初の一歩を踏み出しました。
神も、国も、運命も。
私の算盤の前では、ただの変数に過ぎません。
私、ヴィクトリア・ド・ラ・ヴァリエール。
これからも、世界中の不公平を、この算盤で叩き潰して差し上げますわ!
――ヴィクトリア・ド・ラ・ヴァリエール。
――最終決算、承認。
――これより、無限の『未来』へと増資を開始いたします。
(完)
ヴィクトリア様とゼノス陛下の物語、ここに堂々の「完結」を迎えました!
120億の負債から始まった買収劇が、最後には世界を照らす「幸福の資産」へと変わる……。
このハッピーエンド、楽しんでいただけましたでしょうか。
あの日、婚約破棄された令嬢が世界を買い叩く姿に魅了され、ここまで共に歩んでくださった投資家の皆様。
皆様の【ブックマーク】と【評価】という名の「信用」があったからこそ、
ヴィクトリア様は最後まで気高く、冷徹に、そして熱く戦い抜くことができました。
物語としての更新はここで一度「決算」となりますが、
彼女たちの経営する世界は、きっと今も、一円の狂いもなく成長し続けているはずです。
もし「二人のその後」や「別の監査記録」が読みたくなった際は、
ぜひ感想欄などでリクエストを。
その声が多ければ、また新しい「追加予算(番外編)」が組まれるかもしれませんわ!
最後になりますが、投資家の皆様の未来に、最大級の「幸福の黒字」が訪れることを祈っております。
ご愛読、誠にありがとうございました!




