赤倉・軽井沢編 2日目その3 〜赤倉と軽井沢のディナー対決。軍配は果たしてどちらに?〜
ディナーなので、私は、紺の半袖ボタンダウンシャツに、タータンチェックの麻ジャケットを羽織り、茶色のズボンに茶色の革靴を履いた。家人は、花柄のベージュのワンピースに黒のカーディガンを羽織り、ラメの入ったベージュのサンダルを履いて、メインダイニングに向かった。
受付でルームナンバーと氏名を伝えると、窓際のテーブルに通された。家人が是非この席で食事をしたい、と言っていたので、ホテルを予約する際に、ダイニングの席も予約しておいたのだ。
横並びで席に座った。相手とシチュエーションはまったく違うが、男女横並びの席は学生時代に利用した同伴喫茶みたいだな、とひとりで後頭部をポリポリと搔いた。
正面に黄昏た浅間山やゴルフ場、池が望め、テーブルには皿やフォーク、ナイフなどの食器類が整然と並び、白いカーネーションが2輪刺してあった。
家人と私は同じシャンパンを注文した。下戸の私もシャンパンを注文した理由は2つあり、1つは折角このダイニングで食事をするのだから、という理由であった。もう1つは、ちょっとでも節約しようという少々せこい魂胆からである。
そして、今夜もチーズの盛り合わせ (別料金)を、先に出してほしいと頼んで出してもらった。若い給仕係が持ってきたので、
「チーズ名を教えて。」
とリクエストした。ハードやウォッシュなど、なんとなくは分かるが、「ミモレット」以外の固有名詞までは分からなかったからであった。昨夜もチーズの盛り合わせを注文した際に、チーズ名を聞かなかったことに少々後悔していたからでもあった。給仕係は、聞いてきます、と告げて厨房に消えていった。
しばらくしてから、メモ用紙をもって現れ、メモをチラチラ見ながら説明してくれた。
「こちらから、ミモレット、ゴルゴンゾーラ、ウォッシュチーズです。」
というので、
「何というウォッシュチーズですか?」
とツッコむと、慌ててメモを見直して、
「マンステールです。」
と答え、一礼してから去って行った。そんなつもりはなかったのだが、面倒くさい客になってしまった。お手数をかけさせてしまいごめんね、と後ろ姿に呟いた。
チーズ盛り合わせの皿を見直し、ロックフォールではなくゴルゴンゾーラなんだね、と家人とに言った。そういえば、パンにバターではなく、オリーブオイルをつけて食べるように給仕係が言っていたことを思い出した。ここは、フレンチのはずだが、イタリアン風な料理も出すのかな、とこれから運ばれてくるであろう料理に思いを馳せた。
まずは、アミューズが運ばれて来た。コンソメのジュレをクリームで覆い、キャビアが添えられていた。あまりに美味しかったのと少量だったので、あっという間に食べてしまい、思わず、「おかわり」と言いたくなったほどだった。となりの家人は、こちらを見ながら左人さし指を頬に当て、ぐりぐりしていた。
その後、前菜とスープが1品ずつサーブされた。どれも美味しく、あっという間に食べてしまいそうだった。だが、家人の食べるペースに合わせるため、結構な自制心が必要だった。
匙加減 左に首を 振ってする
普段のレストランならば、家人は正面や斜め左横に座るのだが、この席は横並びのため、家人が食べているペースを把握しづらかった。そこで、何回か首を左に振って確認する必要があったのだ。
気づくと、夜の帳が降りていて、下からライトアップされていた池の周りに植えられた木々の夜景が、今夜の特別なディナーを演出しているかのようだった。
家人のシャンパングラスが空になりそうだったので、
「もう飲めないから、俺のシャンパンの残りを飲んで。」
と、3分の1ほど飲んだシャンパングラスを家人のグラスの横に置いた。家人は、2杯目をおかわりせず、嬉しそうにそれを飲んだ。しめしめと企みは成功し、私は密かにほくそ笑んだ。
色気より 食い気の計算 老夫婦
スズキのソテーの後に、メインディッシュの牛ロースのポワレが運ばれて来た。すでにお腹が一杯になっていた家人は、案の定、脂の多い肉片を三分の一ほど私に渡してきた。食事が始まる頃には、
「腹の状態がまだ心配なので、自分の分しか食べないからね。」
と言っておいたのだが、昼間に重たかった胃袋が拒否反応を示さず、ウェルカムな状態まで回復していたので、
「仕方がないな~」
とニコニコしながら、ソースをたっぷりつけていただいた。
デザートのアーモンドブラマンジェが運ばれてきた。ご婦人というものは、本当に「別腹」というものが存在するのだろう。家人は、デザートをペロリと平らげた。
コーヒーと焼き菓子のマカロンとカヌレを頂き、ライトアップされた夜景を眺めながら、今夜の食事の余韻に浸った。総じてバターが自己主張しない、軽やかな、現代的な味わいの料理は、年寄りの胃袋には有難い味付けで、大変満足できた。
しかめ面 示した胃袋 ほころびる
部屋に戻った私たちは、ひと休みした後、ラウンジに行き、家人が気に入ったトマトジュースと軽食をつまみながら、今夜のディナーと昨夜の赤倉のディナーとを比べてみた。ダイニングのロケーションや眺め、景色は、軽井沢の圧勝であった。さすが、「美しい滞在」だけのことはあると感嘆した。しかし、料理のおいしさ、皿内の創造性や演出は、僅差で赤倉に軍配が上がった。赤倉の料理の方が、装飾性に富み、味も初めて食べた感があった。そして、コンソメスープを大皿で頂けたのが決定打であった。次に軽井沢に宿泊するときには、ぜひともコンソメスープを大皿で味わいたいものである。




