赤倉・軽井沢編 1日目その2 ~うきうきの憩いのひとときから一転、気絶しそうな驚愕の大事件が勃発した~
高原リゾートホテルのチェックイン儀式を終えた私たちは、客室に通された。早速、運ばれて来た荷物を解いて露天風呂に入り、寛ごうかと思ったのも束の間……。
私は、たくさんのスーツケースやバックの荷物を運んでくれた客室係を労い、家人用の衣服スーツケースをソファに置いて広げた。家人は、スーツケースに畳んで入れたワンピースやブラウス、スカートなどを、皺を取るためにハンガーに掛け、持参したスチームアイロンで畳み皺を消した。私も私用のバックからシャツやズボンを取り出し、ハンガーに掛けた。
ひと通りの荷解きを終え、このホテルに宿泊する最大の目的である「露天風呂とテラスでの憩いのひととき」を満喫しようと準備を始めた。自宅から持参した飲み物を入れておいた保冷バックのチャックを開けた。
その瞬間、私の身体は凍り付いた。動けなかった。
「保冷バックにあるシャンパンとエポワス持って来て。」
と家人はルンルン声で言った。気が遠くなり、目の前が真っ黒になった。
「どうしたの?」
「……。シャンパンが……な・い……。」
「えっ?!どういうこと?」
「シャンパンを、わ・す・れ・た……。」
「えー!!!どうして?保冷バックに入れてって言ったわよね?」
先ほどロビーで飲んだグラス3分の1ほどのスパークリングワインが一気に回り、冷や汗、脂汗が噴き出てきた。気絶しそうだった。
「一番楽しみにしてたのにーーー!」
私は、パンツ一丁で絨毯に正座して土下座した。土下座しても何も解決しないことは分かっているが、そうするほかに術がなかった。
「どこか他のバックに入っているんじゃないの?」
「……。」
そんなわけはない、とは言えなかった。必死で他のバックの中身を漁った。しかし、当然ながらどこにもシャンパンの瓶など、影も形もなかった。
「ロビーで飲んだスパークリングワインよりずっと美味しいシャンパンを、せっかく20%オフで買っておいたのにー!一番忘れちゃダメな物なのにー!」
家人はワインにもうるさいのだ。しかし、下戸の私には酒飲みの愉しみを今一つ理解できない。そこにこの大事件が起きた要因の一つがあるのだ。
「あなたに頼まず、わたしが支度すればよかった。」
ともっともなことを家人は発した。
「そうだよ。お前が保冷バックに入れれば、よかったんじゃないか。」
と言いたかったが、それを言ったらこの旅行は終わってしまうので、飲み込んだ。
「これが、新婚旅行だったら、『成田離婚』ものだからね。」
と家人は、捨て台詞を吐いて露天風呂に入っていった。私は、パンツ一丁の土下座姿のまま頭を垂れ、これからどうしたらよいものか考えあぐねていた。
女房の 怒りはぐらかす 土下座かな
今夜のディナーは、このホテル自慢の格式あるダイニングでいただくフレンチである。せっかくの美味しい料理なのに砂を噛むような思いをしなければよいが、と私は願わずにはいられなかった。




