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新宿編 その1 ~予期せぬの驚愕の情報と、年を重ねた人間の理想的な軽さを見た~

 これは、本当のことか?狐につままれているんじゃないのか?

 私は、新宿にいる。夜ではない。午前10時である。ネオンもなく、酔客もいない。今日は、例の双子アイドルの関係者との縁で、あるイベントに参加するために新宿に来たのだ。

 その関係者は、双子のプロデューサーとともに、彼女らの活動のバックアップをしており、3月の下北沢ライブの企画運営を手掛けた人物である。その人物が、今回のイベントも企画運営しているというのだ。

 そのイベントとは、なんと「水谷豊サイン本&捺印・お渡し会」である。「水谷豊」といえば、現在『相棒』で知られる有名俳優、ビックネームである。私は、そんな大人物のイベントに参加するのか?ということよりも、

そのイベント(水谷氏にとって初めての会らしい)を企画運営している人物が、双子アイドルを支援している、という事実に驚愕し、混乱した。

 ?マークが無数に渦巻く頭を引きずりながら、会場である伊勢丹新宿店真向かいの映画館に足を踏み入れた。受付を済ませ、入場すると既に300人近いファンが着席していた。見渡すと、「右京」と大きく書かれた団扇をもった女性の集団が、最前列中央を占拠していた。さらに、会場を見渡し、双子アイドルとその母親、祖母を発見し、彼女らの席の後ろに座った。ステージを見ると、壇上には椅子が2脚並んでいた。水谷氏本人と司会者が座るのだろう。

 しばらくすると、水谷豊トークショー開始の合図で、司会者を先頭に、本人が登壇してきた。会場は盛大な歓迎の拍手に包まれた。 

 だが、私は拍手を忘れた。びっくりして開いた口が塞がらなかった。

 それは、水谷氏を誘導しながら登壇し、氏と2人だけで、ステージに座っている人物に気づいたからだ。その人物は、双子のライブに来ていた人物である。実は私が、

「70歳くらいなのに……地下アイドルの熱心なファンか?」

などと少々怪訝に思っていた人物であった。その人物が有名俳優トークショーの司会者?先ほどの運営者情報と相まって、あまりにも予想外の情報の津波で 頭が溺れそうになった。狐につままれているのではないかと頬を

つねりたくなった。

 

 ここで一句

 これは夢 これは(うつつ)か 幻か


混乱して川柳にもならない。

 司会者の進行で、水谷氏の近況、主に監督をされた映画についてのトークが行われた。氏は、赤い革ジャンを着て、くるぶし丈の脚線ぴったりの細い黒ズボンを履き、薄いサングラスをかけていた。赤い革ジャンという派手な服を着ているが、まったく嫌味がない雰囲気で、洗練された男の品格が漂っていた。話す様子も軽快で、飄々としていた。さすがに、一流と言われる人は佇まいが違うなと感心して座談を聞いていた。

 トークショーが終わると、劇場の入り口でサイン本のお渡し会が始まった。本人がひとり一人と会話したり、握手したりして本を手渡ししているので、なかなか番が回ってこない。待機場所が階段なので、300人の行列が会場の6階から1階、話によるとビル外の路上まで続いたそうである。幸運にも我々は100番台だったが、それでも小一時間ほど立ったまま階段で待たされた。同伴していた足の弱い家人は、辛そうにしていた。

 私たちの前には、双子アイドルと母親、祖母がいた。彼女らの番になった。すると、先ほどのトークショーの司会者が現れ、なんと双子を水谷氏に紹介したのだ!水谷氏は優しそうな眼差しで、

「そうなの、いつかまたどこかで会えるといいね。」

ととても奥ゆかしくさりげない言葉がけをしていた。

 ついに、私たちの番である。ご本人には申し訳ないが、我々2人とも特にファンではない。私に至っては「相棒」も観たことがない。チャンネルを回したときにたまたま氏が紅茶を入れているシーンを観たことがあ

るだけである。そんな自分が、どんな声掛けをすればよいか階段で並びながら考えていた。

「『傷だらけの天使』からのファンです。『熱中時代』も観てました。」

と言っても、馬脚が現れそうなので、

「出版おめでとうございます。これからも頑張ってください。」

と当たり障りのないことをいうと、本人から私の手を握り、

「どちらからいらっしゃいました?」

と聞くので、

「静岡です。」

と答えると、横から双子の祖母が、

「先生です。」

と私のことを紹介した。氏は、それはそれは、と椅子から腰を浮かしたので、私はびっくりし、その一瞬でファンになってしまった。

 ここで一句

 ジグザグを 気取らぬ男 赤革ジャン

 これからは「相棒」を観ようと思った。

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