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中伊豆編 湯ヶ島温泉その3 〜せっかくゆったりまったり温泉を満喫したのに〜

 ツツジの件以外は、この宿に十分満足して床に就き、次の朝、清々しく目覚めた私だったが……。

 晩春の朝、目が覚めた。よく眠れたようだ。小鳥の囀りを聞きながらそういえば昨晩は雨が降っていたなと思い出した。朝食まではまだ時間があったので、家人を起こさぬよう、早速、露天風呂につかった。湯音が高かったので、夜中から水を少し流していたため、長湯には最適な湯音だった。ぼんやりと新緑を眺めていると、下を流れる小川から鳴き声がした。寝室で「小鳥」の鳴き声と思っていたのが、「河鹿蛙」の鳴き声であることに気づいた。改めて湯船に入りながらも河鹿蛙の声を聞く贅沢さに浸り、幽玄の世界に(いざな)われようとしたその時、


 鈴の声 ひたる湯船に 婆闖入


家人の入浴の音で、せっかくの河鹿蛙の鈴の声が止んでしまった。

 入浴後、宿の作務衣に着替えて食事処に移動し、朝食をとった。料理は、朝食とは思えないほどの皿が並び、夕食同様に美味しくいただいた。食卓にツツジはなかったが。

 部屋に戻った。チェックアウトまで、あと1時間30分。少しでも宿代の元をとろうと、湯船にちょっとつかった。私は早々に自分の帰り支度は済ませたが、女性の家人はいつも通り、化粧という身支度に手間がかかっていた。そこで、私は、布団を整え、浴衣や作務衣をたたみ、種々のタオルを干し、ワインやチーズなどの冷蔵庫内の持参物を、保冷バックにつめた。その時、

「キャー」

と大きな悲鳴が寝室から聞こえた。


 婆さんが 乙女に戻る 壁にG


なんと、夏の風物詩、Gが早々に畳に向かって壁を這っていたのだ。しかも親指大の大物が。温泉効果で促成なのか?などと考えている暇はない。昨年の冬に他界した私の母親のように、素手で叩き潰す蛮勇もない私は、どう捕まえようか思案した。部屋に殺虫剤はおかれてはいない。こんなことで仲居を呼ぶ騒ぎにするのも憚れた。

 そこで、私は、汚いものを撃退するのに効果があるかもしれないと、家人が持参してきたアルコールスプレーをGに噴射してみた。すると、Gはポトリと畳に落ち、こちらに向かって明らかに鈍い動きで畳を這ってきた。そのG目掛け、2度3度噴射し、大量に重ねたティッシュで掴み、力いっぱい握りしめてから、ティッシュごとゴミ箱に捨てた。せっかくの、温泉のゆったりまったりした気分やこの宿のホスピタリティへの満足感が、噴射したアルコールのごとく霧散してしまった。

フロントに行き、クレーム客に思われたくなかった私は、チェックアウトを済ませてから、 Gが一匹発生したことをフロント係に告げた。さすがにフロント係は丁重に謝罪した。

 帰宅後、ネットで調べてみると、アルコールには昆虫の呼吸を妨げる作用があるらしい。 結果的には、宿にとって私は、殺虫剤よりも後始末を楽にしてくれた上客だったのかもしれない。

 前日のチェックイン前にロビーで食べた菓子(その1で前述)を購入しようと、チェックアウト時にフロント係にその旨を話したが、販売していないと言われ、家人はがっかりして宿を出た。その反動で、その足で向かった御殿場アウトレットで購買欲のブーストが爆上がりしたのは言うまでもない。

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