中伊豆編 湯ヶ島温泉その2 ~個室お食事処でまったりしていたつもりが~
下戸の私は、ひと口飲んだワインで顔を少々赤くさせながら食事処に向かった。
この部屋と同じ階に食事処があるため、それも家人向きでよかった。食事処へ行くと個室であった。いつぞやの、どこぞの旅館で、1階の部屋から3階の食事処まで階段を上らされた挙句、食事中に5,6人の酔客の大声のため満足度がダダ下がりになったことを思い出したが、ここならば大丈夫。気分よく箸が進むだろう。
まずは、八寸が運ばれてきた。仲居さんが八寸の説明を始めた。
「こちらから時計回りに……」
と箱の中に入れられた小皿ごとに料理名、食材などを紹介していく。
八寸に つつじ一寸の 世知辛さ
八寸の中にツツジの花を挿した小瓶があり、それも八寸の説明に含まれていた。そこで私は、
「このツツジも食べられるんですか?」
とニヤニヤしながら尋ねた。仲居さんは一瞬戸惑い、苦笑しながら
「こちらは食べられません。」
と答えた。
「食べられないものを八寸の説明の中に入れるなよ。」
と言いたいところを含み笑いで飲み込んだ。ここにも物価高の波は押し寄せてきているのかとため息が出た。その後の料理も含めて美味しくいただけ、十分満足できただけに、最初の八寸には肩透かしを食らったようで残念な気分だった。
日本酒をお猪口で2杯ほど飲んだため、千鳥足で部屋に戻り、睡魔に襲われた私は、布団に横になって小一時間ほど寝た。目を覚ますと、家人は寝室にいなかった。
障子越し パキッと関節 婆さんか
家人は、障子の向こうの籐ソファに座っていたのだ。私が目を覚ましたことを察した家人は、隣の布団に横たわった。
手招きし 媚びた目つきで 揉むは肩
若夫婦ならば色気のあるシーンだろうが、わが家の日常にはもうそんなものはほとんどない。食後の肩もみもいつものことである。
その後も、その夜は部屋の湯船に2度つかり、日がかわる前には知らぬ間に夢の世界に入っていた。




