083---- 輪廻を終わらせる為に
蓮と別れて、私は独り、お父さんの気配を探す。
だけど、外周の結界が消えた今でも東都には人の気配が全く無かった。
それどころか、地面の崩壊する速度が加速しているようにも見える。
東都の端まで行っても、その向こう側の地面も崩壊していた。
即ち、地界の限界が近づいている証拠。
東都どころか、東都から各地に広がってしまっているのだろう。
だから地方に生存者は居たとしても、東都に近寄って来るようなことも出来ない。
空から降り注ぐ光の矢は、時折、私にも突き刺さることがあった。
だけど、痛みなどは無い。
むしろ温かみのある、どこか懐かしいその矢は、私の中の古い記憶を呼び起こしてくれていた。
だから、数時間で点滅を繰り返す空も、途方もない孤独感も、その記憶のお陰でそこまで気にはならなかった。
「おーい」
記憶の再生中、そんな場違いな声が聴こえて来た。
しかし、その声を聞いた私は安堵する。
その声の方向に進めば、先程とは異なる廃ビルの屋上らしき場所に遠音と千尋が居た。
千尋はその身に宿した全てを使い切ってしまったのか、横たわったまま呼吸もしていない様な気がする。
一方、遠音はまだ余力があるのか、胡坐を組んで座っていた。
「あぁ、良かった、お前が来てくれて。……戻って来れたんだよな? オレ……」
「うん。お帰り」
とは答えたものの、降り注ぐ矢の所為か、遠音や千尋への線は一向に見えない。
「核はどうしたの?」
「全員分、ちゃんとある」
「それは今、どこに?」
「・・・」
遠音は黙って千尋を見つめた。
何となく嫌な予感がして答える。
「まさか、千尋を生かす為に……?」
「いや、まさか。オレにはそんな決断、できねぇよ。アイツらが、自ら千尋に託したんだ」
理解して、再度、安堵の溜め息をついた。
遠音はそんな私の様子を見て笑う。
「これでやっと輪廻が終わるんだ。……まぁ、これで良かったのか、正直良くは解らんが。結局、オレは4人を助けられなかった。最後の1人になるまでオレは手を出さない、それまでは宮本だけを守り続けること――それが咲九との約束だったから」
「輪廻はまだ終わらないよ」
私は現実を遠音に言った。
遠音は目を丸くしている。
遠音と千尋が無事だったことを知り、同時に探った気配探知には、もう1人が引っかかった。
お父さんは、里の主や遠音と一緒の天界に潜んでいたのかもしれない。
だからいくら探しても見つけられなかった。
――ただ、この緑色の太い線は、太陽に反射して良く目立つ。
「終わらないって……倒したのはラスボスじゃないってことかよ?!」
遠音は立ち上がって私の胸倉を掴んだ。
が、我に返ったのか、すぐに放してくれる。
「いや、今のお前を責めても意味はないな……すまない」
「私の方こそ、全てを話した訳じゃないから」
怒られても仕方ない、とは思った。
だけど、強敵の里の主を倒せなかったら、ただただ逃げ続けるだけのお父さんは炙り出せなかった。
多分、里の主よりも、一度は死んでいるお父さんの方が弱い。
だから属性神に里の主を倒してもらう他、手段が講じられなかった。
結果的に騙してしまったことは本当に申し訳ないと思っている。
そして、私が今から託そうとしていることも、遠音には残酷なことかもしれない。
「遠音は、千尋と一緒に美島市に向かって」
そう伝えながらも遠音のポケットに手を突っ込んだ。
様々なモノが手にぶつかる。
それらを全部、手の中に取り出した。
なされるがままの遠音は、先程の行動だけでも疲れを感じたのだろう。
呆然と私の手の中を見つめている。
「遠音は森に戻って、私の行動を、本当の終わりを見届けて欲しい」
綺麗な魔法石を掲げれば、対になる歪な魔法石が瞬時に傍にやってきた。
その綺麗な魔法石は遠音のポケットに入れ直す。
その他の、鍵の形をした神器には軽くキスし、自らの胸元にしまった。
ハッと我に返った遠音が口を開く。
「お前、その神器……」
――本当は、怖い。
お父さんを殺したら私がまた記憶を失ってしまうのではないか。
私が私ではなくなってしまうのではないか、——と。
もちろん、お父さんを殺せなくて、輪廻を起こしてしまう可能性もある。
その時の地界はそのまま崩壊して元に戻らないのではないか、という恐怖もある。
だから、私の代わりに遠音に覚えていて欲しい。
――これから始まる、歴史の真実を。
「 "時空の鍵" ――雷神が作成し、閻魔が封印し、海神が悪用し、山神が鍛え直した、本来は輪廻の中に消さなければならない代物、でしょう?」
だけど、彼女は敢えて海神や山神に託した。
輪廻をただのループにし続けない為に。
それでも、輪廻に近しいことが出来るこの神器は危険だとは思う。
「大丈夫、貴方達のことは彼女が守ってくれているから。それに蓮君も美島市で待っているはずだから。……だから、お願いね」
私は恐怖心を見せないように、込み上げてくる感情押し潰されないように、歯を食いしばって飛び上がった。
それでも、遠音は解っていたのだと思う。
その鋭くも痛い視線は、遠く離れても感じられた。




