082-253 矢の雨
――どのくらい時間が経ったのか解らない。
気付けば空から矢が降り注いできていた。
矢は東都の結界や分厚い雲をも打ち破り、短時間で昇り降りする太陽を目の当たりにさせてくれた。
だけど、私達の心が晴れる訳じゃない。
属性神が居なければ、例え輪廻が終わっても地界の寿命は短いだろう。
「……?」
私は蓮に伸びる複数の線に気付いた。
その線はかなり遠い。
だけど、さっきまで見えなかった線が、今ははっきりと見えている。
「(そう、か。東都からは人が消えても、東都以外にはまだ生存者が居る。その者達は、今も私達を信じて輪廻が終わることを待っている。……きっと、彼女も)」
結果は変わらない。
でも、このままでは、まだ輪廻は終われない。
こと、不完全な輪廻を終わらせることが私の、しいては彼女の目標。
それが例え短い未来だったとしても、今すぐに終わってしまうよりはマシのはず。
「……私、行くね」
私の一言に蓮は顔を上げた。
お互い、酷い顔をしているとは思う。
「あの人の輪廻が失敗して世界が終焉するよりは、あの人を止めて自分の輪廻にしたいから」
「……そう、ですか」
この優しい嘘は、どこまで蓮に通用するのか。
「蓮は美島市に戻ると良いよ。もう東都の結界は無いみたいだから」
私は唇を舐めた。
それを見た蓮は目を細める。
「……死神の役目は管理。核に纏わること」
「・・・?」
「姉さんが言ったんですよ。だから僕は柄でもない役目を頑張って来た。貴方だけじゃない。雷神のことだって使い魔で管理し続けた」
蓮が言いたいことが読めなかった。
なので黙って待つ。
「でも、貴方は前に進むと言う。それも、責任を父親ではなく自らにしたいと言う。そんな……責任を背負いたい人なんてどこにも居ませんよ。どうして貴方も独りで進もうとするんですか。どうして責任を抱え込もうとするんですか。……僕では、役立たずですか……?」
違う、と言いたかった。
蓮を守りたいから、と言えればよかった。
だけど、それは彼女の本音。
私の本音は違う。
でも、ここで下手に嘘をつき続ければ不信感を買うだけ。
涙を拭って、私は真っ直ぐ、しっかりと蓮を見た。
「属性神を探して欲しいの」
その一言に蓮の涙が止まる。
表情には複雑な感情が入り混じっていた。
「肉体がこちらに戻ってきているかは私でも解らない。だけど、属性神の核は確実にこちらに戻ってきているから」
「まさか、間に合わないと気付いて核だけを?!」
「最悪だとその可能性もある、っていうだけ。そして遠音のことだから、送るにしても、帰るにしても、その先は美島市だろうな、と」
もっとも、私も遠音を信じているだけ。
正直、確信がある訳じゃない。
でも、遠音だからこそ千尋や他の3人を放っておくようなことはしないと思った。




