081-253 途切れた絆
「すまんな、紫」
まず、女神の核が私の中から消失した。
契約が切れ、力尽きた花菜子が座り込む。
魔力暴走をしかけたらしく、真っ白の両腕は黒く爛れていた。
そこから液体化が始まっている。
「——せやけど、助かったわ」
「うがあああぁぁぁぁぁ!!」
急に叫んだのは黄。
恐らくは魔力暴走が始まってしまったのだろう。
私は小次郎を構える。
だけど、それをやんわりと止めたのも花菜子だった。
「アンタが手を汚す必要はあらへん」
体を引きずるように、徐々に溶け出す肉体で地面に跡を残しながら、花菜子はゆっくりと黄に近付いた。
発狂する黄も、もはや人の形を保てていない。
そんな黄の傍まで行って、花菜子は立ち上がり、黄を抱いた。
そして、宥めるように背を叩く。
「一緒に、逝こ?」
『これが、残されたもう1人の姉に出来ること。
これが、お父さんの代わりに出来ること』
花菜子から、そんな思考が流れ込んできた。
きっと花菜子は黄や章二との関係に薄々気づいていたのだろう。
だから家族で過ごせて幸せだった。
花菜子は黄に止めを刺す。
それを黄は笑顔で受け入れた。
黄の肉体は後方に倒れる。
だけど、花菜子自身の肉体も崩れていく。
失った2人の穴を埋めようと、私は魔力を残る2人に流そうとした。
だけど、それを蓮に断られる。
よく見れば、穴には黒くて太い線が突き刺さっていた。
蓮も天津も、徐々に術式に流していた魔力の量を少なくしている。
「誰かが、あの穴を維持してくれています」
悔しそうな表情の天津の説明に、表情を全く変えていない蓮が答える。
「花菜子さんか、龍子か……」
――違う。
私は瞬時に思った。
あの黒くて太い線は、今まで核を奪われ続けた亡霊たちによる、里の主へ伸びる怨念の鎖。
その鎖が必然的に術を、属性神の出口を維持してくれている。
「里の主が死んだら穴も一緒に消えるかも」
私の一言に天津が目を細めた。
「今は蓮君と交代で温存して、でも、いつ訪れても良いように集中して。特に天津は術の主要人物なんでしょう?」
「……解りました」
何か言いたそうにした蓮は、しかし、敢えてその一言で終わらせてくれた。
天界で何が起こっているのか、それをこちら側から見ることは出来ない。
だけど、私から伸びていた5本の線の内、3本が消えたことには気付いていた。
天津は解っているのか、ただただ、悔しそうに歯を食いしばっている。
そして、唐突に、その時は来る。
黒い線がプツンと消失し、出口は急激に小さくなった。
天津は慌てて魔力を注ぎ込むも、維持には間に合いそうにない。
「如月 遠音!
宮本 千尋!
今すぐ戻って来て!!」
だから、蓮よりも先に準備していた私は2人の名を叫びながら線を引っ張った。
急速に近付いて来る気配はある。
だが、その間にも出口は小さく、小さくなっていってしまう。
そして――
「……途切れ、ました」
天津の一言に蓮が座り込んだ。
我慢していただけで本当は辛かったのかもしれない。
「至らなくて、すいません……」
「……天津?」
思わず。
天津はつぅっと涙を流していた。
その下半身は既に半透明になり始めている。
「私にも、もう時間は、残されていない……ようですね」
「天津!!」
思わず飛びつこうとした。
だけど、辿り着く前に天津の全身に白い結界が現れてしまう。
白い繭の前兆だと悟った。
それでも、結界越しに手を合わせる。
――また、逢いましょう。
天津は白い繭に包まれた。
そして、その姿勢のまま目を閉じる。
蓮と私は、ただ泣き崩れ、ただただ、そこに留まることしか出来なかった。




