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077-227 遠音の覚悟

 天津から色々な話を聞かされた。

 だけど、どれも呆然としていて頭には入ってきていない。


 ただ、天津は雷神と知り合い程度で良くは知らない間柄であることと、この秘密部屋が天津の所有物であることを伝えて欲しくないことだけは理解した。



 しばらく経って、私は自分の足で景色を見るため、部屋の外に出てみた。


 景色はあれからあまり変わらない。

 ただただ、そこには気持ち悪い空が広がっている。


 天津曰く、結界に包まれたのは東都地域だけ。

 美島市を含めた千波県などの、近隣の3つの県の結界は未だに健在。

 その他、山の奥地に住む集落などの小さな結界も健在らしい。


 もちろん、シェルターではなくそっちに逃げ込んだ東都の住人もそこそこ多かったらしい。



 部屋に戻ると、遠音が背中を起こしていた。


「目覚めたか」


 凪のことばかり考えていたからか、凪のような口調になってしまっていた。


 しかし、そもそも自分はどんな口調だったのか。

 思い出せそうにもなかったので話しを続けることにした。


「警戒することはない。ここはまだ誰にも発見されてはいない、私の秘密の部屋の1つだから」


 もっとも、私の所有物ということにしておいた方が面倒臭くなくて済む。


 説明しながらも私は遠音に近付いた。

 遠音が目を丸くする。


「羽生……?」

「驚くことはないだろ」

「いや、だってお前、口調とか……そのピンクの髪とか、長さとか!!」


 あぁ、そうか。


 私は逆に、容姿まで変わっていたことに驚いていた。

 今まで誰にも指摘されなかったし、鏡に自分を写して見ていなかったのだから仕方ない。


 もっとも、元々はピンク色の髪をしていたものの、学校に通っていた頃は髪染めを使っていたので、そこは変わっていない。

 ただ、お団子にしていただけで髪は長めではあったが、今は更に伸びてしまっているとは思う。


「そう――君が何も驚くことはない。本来の私に戻っただけなのだから」

「本来のって……?」

「今の君には関係のない話しだよ」


 答えた私は部屋の外に蓮が来たことを知る。

 きっと遠音が目覚めたことを虫の知らせで知ったのだろう。精霊は意外と情報が早い。


「それよりも、外で死神が待っている。早く行ってやれ」

「……オレに魔力を送ったり、こちら側に助けてくれたりしたのは羽生なのか?」

「何を今更」


 答えてから納得もする。


「そうか、これがまだ雷神の記憶も完全ではない、ということなのか」


 それでも私と同じで徐々に記憶が戻ってきていることには変わりないのだろう。

 だから逆に会話がかみ合ってしまう。


「私の固有能力で遠音の魔力は完全に戻しておいた。全力で戦っても、少なくても3日は保てるはず。それ以降は反動で計3年ほど使えなくなるが」


 もっとも、相手によっては2日で消えてしまうかもしれないが。

 内心で呟いたが遠音の反応は違った。


「つまり、あと3日の内にどうにかしろ、と」

「それが終わったら残りの記憶も次第に思い出すと思う」


 本当は、違う。

 属性神が里の主を倒しても輪廻は終われない。

 それを伝えるべきか悩んだ。


 だが、今の遠音に伝えてもやる気を失わせるだけ。

 ならばまだ言わない方が良い。


「今は、それしか伝えることは出来ない」

「……そうか」


 遠音は呟き、早くもベッドから降りようとしていた。


 しかし、どう見てもまだ立つべき体調ではない。

 まるで先日の自分を見ているようだった。


 だから蓮と同じように、遠音を支えながらもベッドに押し付ける。


「そう焦っても、他の属性神はまだ学園の中。本当はもう1日くらい目覚めるのが遅くなってくれた方が良かったのだけど」

「いや……蓮が、死神が待っているってことは、現状を伝えに来てくれたんだろ。でも、きっと自分の目で見ないとオレは理解出来ない。そういう点では、1日早くて正解だったと思うよ」

「そうか。残り2日間で対処出来る、そう思っているのか……」


 私の不安を他所に遠音は首を傾げる。


「……全力で3日なら、今日は力を抑えれば良いだけの話し。何も、今日から全力を出す必要は無いだろ」


 その通りだが、と言いかけたら遠音が私の手を丁寧に外してから立ち上がった。


 蓮の送ってくれた魔力を流し込んだとはいえ、既に精神はボロボロのはず。

 それなのに、遠音はしっかりと立っていた。


 私とは違う覚悟がそこにはあった気がした。




 2人が去ってから、雷神が目覚めた報告を矢文で飛ばしたものの、天津も私も、それ以上のことは何も出来なかった。


 天津は私の代わりに輪廻を抑制していたこともあるが、それよりも部屋を隠遁して維持する疲労感が半端ないのだろう。

 だとすれば、ここに居られるのも1日とないだろう。


 そんな推測をしつつも、私達は魔法石の結界を利用して2人でベッドに飛び込んだ。


 ——今は怠惰に身を委ねたい気分だったから。


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