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076-219 カウントダウン

 目を覚ませば、天津と蓮が私を覗き込んでいた。

 もしかしたら、みのるが教えてくれたのかもしれない。


 また、少し前に守護神と思われる者から矢文が届いて、雷神の肉体が消えかかっている旨の内容だったらしい。


「水神は、まだ時間がかかる。でも、雷神の肉体を戻すなら今しかない……」


 言い終えて、どっと疲れが押し寄せて来た。


 瞼が重い。

 体もだるければ、視界も回っている。


 無理をしたつもりではなかったが、私が限度を知らなかっただけかもしれない。


 それでも、私は体をベッドから起こした。

 近くに居た蓮が背中を支えてくれる。


「まだ休んでいた方が良いですよ!」


 蓮の言葉は有り難かった。だけど。


「今の遠音を戻せるのは、私しかいないから」

「……輪廻の抑制なら任せて下さい」


 天津は一言だけ呟いた。

 私は頷き返す。


 遠音を呼ぶには、蓮だけでは多分、失敗する。

 失敗したら二度と遠音には会えない。

 それは絶対に避けなくてはならないこと。


 しかも、今の私はまだ遠音との線が繋がっていた。

 今なら確実に精神を肉体に戻してから地界へ引っ張れると思う。


 私の意志に負けたのか、蓮は頷いて術式を展開してくれた。

 既に準備はしてあったらしい。


 私はベッドから這うように降りて遠音の為に場所を空ける。

 そして蓮の左手に右手を繋いだ。




 結果的に遠音の肉体は無事に召喚できた。

 心拍もあることから、精神も無事に肉体に戻ってくれたのだろう。


 確認だけした私には、しかし、一気に睡魔がやってきた。

 そして遠音に被さるようにして目を閉じる。


 ――ほんのりと、彼女の匂いを感じながら。




 ある時、幻想的な流星群を純と2人、建物の屋上から眺めていた。

 そんな折、下方に彼女と、千尋と、香穂里が居ることに気付いた。


 3人の会話が気になった私達は近付く。

 だけど、それは彼女の過去の話しだった。


 人間の探求心が魔力を生み出し、魔力を持った多くの子供が殺されて魔界を彷徨い、神と称されて魔物として生まれ変わる。

 今や、その魔物は戦争の生物兵器として消費されている。

 その探求心を刺激させてしまったのだと。


 いや、それは強いて言えば私であり、原点でもあるのだろう。



 彼女がその話しをした理由をずっと考えていた。



 そして今。



 私の目の前には流星群を凝縮したかのような黒い球体が浮かんでいた。


 あの時の千尋が、あの時の悲しみを背負ったまま、あの時のパジャマ姿のまま、その球体の中で涙を流している。


 その球体に触れてみる。

 それだけで、千尋の悲しみが1つ1つ、動画のように再生されていく。


 本当の千尋は全てを知っていたのだろう。

 魔物だから長生き出来ないことも、水神として崇められている訳ではなく土地の守護神として気持ち悪がられているだけということも、そもそも輪廻という現象を打ち消す為に水神の核を消費しなければならないことも。

 つまり、千尋にとっては輪廻であろうがなかろうが生き地獄だった。


 だから本当の自分ではなく、最初からもう1人の自分、即ち欲望に従って行動を起こしていた。


 しかし、それでも迷いが無かった訳では無かった。

 そもそも、大元の優しい性格は直せない。


 それが純と一緒に居ることで顕著になっていった。


 球体に触れた手の上に、いつの間にか1枚の桜の花びらが付いていた。

 私に吸収されないということは、まだ理由があって残されていたのだろう。


 私はその花びらを掴み、球体に少しだけ押し付ける。


 すると、黒いだけの球体にヒビが入った。


 驚いて、思わず手を離す。

 だけど花びらはそこに留まったままだった。


『最初から絶望しか与えられていない魔物には表も裏も無い。あるのは生き続けたいという強い欲望だけ。そこから這い上がる勇気は絆からしか得られない。でも、千尋は最初から属性神という強い絆を持っていた。千尋が持つ核は、水神の他にもう1つ。それは、風神と炎神と地神の奇跡から生まれたモノ。そして、その3人を繋げたのは雷神と貴方の奇跡——ありがとう』


 花びらは、それだけ伝えると消滅した。


 絆は奇跡を起こす。

 だけど、同時に強過ぎる絆は呪いにもなる。


 本当の千尋は無事に目覚めてくれるだろう。

 だが、それが本当の千尋の為になるかは解らない。




 どのくらい眠ったのか解らない。

 目覚めると、そこは毛布の上だった。


 どうやら誰かが私を横に寝かせてくれたらしい。


 起き上がれば、天津が見回りから戻って来たところだった。

 しかし、げっそりとしていて、どこか浮かない表情をしている。


「どうしたの……?」

「……外を見れば解りますよ」


 天津はそう言って部屋のドアを大きく開けた。

 思わず二度見した私は、ゆっくりと立ち上がってドアに近付く。


 人蝕の繭による魔力暴走の影響だろうか。

 空は雲の上に気持ちの悪い色の結界を生み出していた。

 雲の影響で緩和されているとはいえ、その黒か紫か赤か青か緑かが混ざって入り乱れている色合いに吐き気を催した。


 それだけではない。


 ここは都内かと疑問視するくらい、見事に高層ビルが破壊されていた。

 お陰で地平線の形は良く解るが、空の所為で景色も心象も台無しだった。


「強めの魔法石を渡したシェルターは無事でしたが、結界師が多かった場所には余りの魔法石しか回せませんでしたので、残念ですが……」


 何も言えなかった。

 それは即ち、九重神社に居た凪は……。


「・・・」

「……泣いても、良いんですよ?」


 ――泣かない。


 そもそも、これ以上の犠牲者を増やさない為に世界を歩ませようとしているのだから。


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