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073-(195) およそ17日後

 店長の動揺と地面の振動で目を覚ます。

 それは、森の結界が繭によって襲撃されたことに由縁していた。


 もっとも、眠る前に見た市の結界の状態ではギリギリだろうと感じていたし、今ので完全に穴が空いたことは寝惚けながらも理解した。


 気付けば、今まで傍に居たアコの気配が無かった。

 呪いの言葉が一気に襲い掛かって来る。


 しかし、私は自らの意思で輪廻の力を徐々に弱らせる。

 そして最終的には抑制に成功させた。


 しかし、どこからか止められたような気がしなくもない。

 気付けば、白雲運河が私の肩に手を乗せていた。


「17日くらいかな」


 章二が安堵の表情で私に言った。

 天津が傍で頷きながら私の背に手を当てて魔力を調整してくれている。


 その間にも、白雲運河は私から手を離していた。


「完全に時間は停止していた。まぁ、数時間ほど遡ったが大きな差にはならないよ」

「……多分、俺の所為、です」


 座り込んでしまった店長が言った。

 しかし、私は頭を横に振る。それは結界の主も一緒だった。


「いや、俺の所為でもある。ここを守るだけの魔力が足りなくなっちまったんだから」

「誰の所為でもない……」


 私は呟いた。が、それが精一杯だったらしい。

 意外にも口が乾燥していたせいで咽た。


 それを代弁するように白雲運河が答える。


『彼女の言う通り、誰の所為でもない。きっと、これ以上は皆の能力の限界を超えてしまうと世界が判断したのだろう。もっとも、水神は未だに目覚めていないし、地神もまた神器には手が届いていないが』

「それなら、夢魔の方から潜らせてもらえば、水神を助けられない?」

『多くの夢魔もこちらに助太刀していた。少しは休ませてやってほしい』

「将来有望な彼女ならすぐに回復するだろう?」


 そんな章二の発言に白雲運河の声色が少し変化する。

 2人の討論は、しかし、私の気持ちにも影を落とした。


『精霊に身を売った彼女の容態はあまり宜しくない。今の彼女を通して夢の中に入れば戻れなくなる』

「しかし、誰かが水神を助けなくてはならない」


 私達は、しばらく2人のやりとりを黙認するだけだった。


 章二がそう言う理由は十分解っていた。

 焦る気持ちも解る。


 だが、嫌な(この)気持ちに嘘はつけない。


「章二さんだって、娘の命を差し出せと言われたら、嫌でしょう?」


 私の発言に章二が振り返り、黙る。


 結界の主と白雲運河に繋がっている水色の線は、どちらもみのるに繋がっている様だった。


 青色の線は薄い血縁者。

 緑色の線は親子のような関係。

 色的にはその間。


 そして、以前に黄が入院した病院の前で出会った人物は、近くに居る相手の能力を一時的に止める固有能力がある、と話していたではないか。

 だから今、私は輪廻の力を抑制することが出来ているのだろう。


「市原先生、ですよね?」


 私は白雲運河に訊ねた。

 章二が振り返ると白雲運河は黙る。


「結界の主とみのるという少女の、親のような役目を担っている。だからこそ、章二さんや天津がお伺いを立てていた」

「はぁ」


 白雲運河から女性の溜め息が漏れたかと思えば、その変身を解いてくれた。


「これだから鋭い子は嫌なのよ」


 想像通りに市原先生が現れたかと思えば、そんな酷い一言を呟かれていた。

 もっとも、優しそうな教師面をしている時と違い、今は無表情で私を見つめている。


「それで? 私の正体を明らかにしたところで水神が治る訳じゃないわよ?」


 確かにその通り。

 しかし、案はある。


 ただ、今はそんなことを言っている場合ではなかった。


「あの繭がここを襲撃したということは、向こうも魔力の回収を急いでいるということ。ここへの襲撃は2度目。いや、もしかしたら3度目かも。つまり、能力者が集まっている場所を狙っているのだと思います。だとすれば、ここから然程遠くはない、みのるさんの居る病院は多少なりと狙われやすくなっていると思います」


 これには市原先生も動揺していた。


 そして視線は結界の主に移される。

 結界の主もまた、動揺を隠せていなかった。結界まで一緒に揺れ動いている。


「それから、私は繭ごと地界を停止しているつもりでした。ですが、もしかしたら繭は自由に動けていたのかもしれません。そう考えた時に、シェルターの結界は発動していたのか疑問が残ります。何せ、結界師の時間も止まっていたはずですから」

「た、確かに……」

「となると、東都に残った花菜子と黄のことが不安です。なので、市原先生はみのるさんの病院へ、章二さんは一旦お2人の元に戻った方が良いと思います。ということで、各々の安全を確認してから会議を開くことをご提案します」

「じゃぁ、そのついでに俺からも提案」


 不意に結界の主が手を小さく上げた。

 皆の注意がそちらに向く。


「繭が結界を突き破ったのは、恐らくここに凄腕の超能力者が集結しちまった所為だ。だからここで会議を開くってのは止めてくれ。じゃなきゃ、今回は妖怪も許可してもらえたが、この一件の後じゃぁ難しい。下手すりゃ暴れ出す」


 全く以ってその通りだと、恐らく私達の回答は一致していたと思う。



 市原先生は先に娘の居る病院に向かい、結界の主と店主は片付けがあるということで数日程滞在するようなことを言っていた。


 そんな2人にしっかりとお礼を言いつつ、森の妖怪たちには伝言を頼んだ。

 もっとも、本来ならば直接伝えたいところだったのだが仕方ない。


 市の結界の上部では、蓮が何者かと交戦しているようだった。

 しかし、気配はあったものの姿までは捉えられない。


 すると、天津に背を押された。


「恐らくは、里の主の幻影でしょう。蓮君が私達の代わりに囮になっているのだと思われます」

「助太刀に行かないと……」


 章二の発言を天津が頭を横に振って引き止める。


「今の私達はかなり魔力も体力も消耗しています。行ったところで足手纏いになるだけですよ」


 違いなかった。

 だから章二も黙る。




 結界道を駆使して章二を花菜子と黄の元に送り届けてから、私と天津も無事に秘密部屋に戻った。


 部屋に入ると天津は早くも紅茶を準備し始める。

 その最中、天津は口を開いた。


「あとは水神がどうなるか、ですね」


 私はベッドの上にダイブしてから答える。


「やれることが無いというのも辛いね」


 もっとも、最終手段はない訳ではなかった。

 ただ、脳裏に過った崩壊までのカウントダウンが始まってしまえば、その手段は使えなくなってしまう。

 それに、どちらにしても四大神の力が必要になるような気がする。


 だから、女神の花菜子、死神の蓮、鬼神の黄は絶対に守らなくてはならなかった。

 その中でも今、最も危険なのは黄。


 しかし、まだ邪神の正体が解っていない。


「……もし、邪神が里の主だったら困るなぁ」

「それは無いですよ」


 私の呟きに天津は即答した。


「それよりも、万が一、雷神が水神を直せなかったらどうするおつもりですか?」

「……前にさ。今の魔物は魔界から盗難された存在だと、魔法石はその魔物の核だと、その魔界は夢の世界だと、言っていたよね?」

「言いましたが、あくまでも私の憶測です」

「それがもし正しいなら、壊れた魔物の核は魔界に入り込んでいるかもしれない」

「……なるほど」

「だから水神と強く繋がれた魔法石があれば、それを媒介して同じ夢に入り込むことは出来ると思う。ただ、直し方を本人が知らなかったらお手上げ」


 私は両手を上げた。

 天津は失笑を返す。


「まぁ、多少は知っていると思いますけどね。現状だとヒントも何も無いですし。でしたら、私は明日以降、その魔法石を探ってみるとします」

「ありがとう」


 そうして私は久々の深い眠りについた。




 線を通って、蓮の元へ。

 蓮は幻影の背中を見送っていた。


 追い返せはしたものの、森の被害は絶大。

 守護神である雷神に森を任された以上、森の仲間が精神的に安定するまでは合流出来ないかもしれない。



 線を通って、市原先生の元へ。

 魘されているみのるが居た。


 容態が安定しない。

 しばらくは傍に居てやりたいが、聖地の守護神の方が気になる。


 いや、しかし、これは個人的思考だ。

 白雲運河として考えるならば、章二の元に急ぎ向かうべきだ。……しかし……。



 線を通って、章二の元へ。

 花菜子は完治していた。


 しかし、紫さんと交換した最後の欠片が近い内に必要になるかもしれないと言っている。

 このままでは、花菜子は死んでしまうかもしれない。


 ……私は事実を伝えるべきなのだろうか。




 プツン



 不意に1本の線が途切れた。

 それは猪塚と繋がっていた奴だと思う。


 猪塚は殺されたのだろう。

 思ったよりも早かった。



 今なら全員の元に行けそうだったが、止めておいた。

 線を通って憑依することは、本来の正しい使い方ではない。


 それに、多用すれば自分が自分ではなくなってしまう気がしたから。




 輪廻の力は日に日に強くなってきていた。

 しかし、まだ開放する訳にはいかない。


 だからか、たった少しの巡回でも疲れが溜まりやすかった。


 天津も理解していたからか、私が部屋に閉じこもっていても何も言わなかった。




 不意に、地響きがした。


 その直後、真下からズドンという大きな振動で私の体が飛び跳ねる。

 慌てた様子の天津が部屋に入ってきて、扉を閉じたかと思えば部屋の結界を強化させていた。


 それは間一髪だったのだろう。

 扉の隙間から黒いモノが入り込んできていたが次第に弱まり、巨大な揺れだけが私と天津の体を()()っている。


 その黒いモノが何だったのか――天津に言われなくても、あの巨大な繭が魔力暴走したのだろうと、黒いモノは瘴気だったのだろうと冷静に察した。


「やはり、早い。早過ぎます。このままでは水神が間に合わない……」


 とはいえ、私も輪廻の所為でそこまで余裕がある訳でもなかった。


 雷神ならば、彼女から何か情報を得ているかもしれない。

 いや、得ているからこそ属性神と行動を共にしているに違いない。


 しかし、その雷神と直接会話をしたくても、聖地の守護神は私の侵入を拒むだろう。

 かといって、美島市の森に向かっても、あの一件の影響から追い返される可能性が高い。


「どうしたら、良いんだろう?」


 その振動に身を委ねるように、ゆっくりと目を閉じる。


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