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071-000 輪廻の準備 ☖

 それからは皆で手分けをして許可を貰いに行ったり、準備の道具を買いに行ったりと、あっちこっちと奔走した。

 もっとも、私はメインの術者ということから事あるごとに暇を出され、私もまた少しでも英気を養う為にと、何となく舟山の中を散歩していただけだが。


 詳細は夜にまとめて天津から聞いた。


 まず、店主の負担を軽減する為に結界師が最低で2名は必要ということ。これに関しては、結界の主とコンノが対応してくれるらしい。

 ただ、念の為に報告を兼ねて章二に矢文を送ったらしい。天津の希望としては、章二がここに来てくれて、更にそのまま美島市内に残ってもらいたい、とのこと。


 次に、術師である私が魔力暴走した際に引き留める契約者・天津の他に、術師から店主を引き離す術者が必要ということ。

 これが最も厄介で、蓮があちらこちらに掛け合ってくれている、とのこと。


 その次に、結界の主の準備として特殊な魔法石が必要とのこと。それは今、天津の隠れ家の中、鍵のかかった金庫にしまってあるという。

 ちなみに、市としては関与しない(準備もしない)と市長に言われたらしい。



 だから最も暇だった私は、天津から金庫の鍵を奪って早速走っていた。

 なお、ついでに章二の様子を見に行くつもりでいる。



 ついこの間まで、何も出来なかった、何も知らなかった、知ろうともしなかった。

 今は、その頃の私とは、違う。


 知識を得て、少し考えることで、体が自然と動いていた。

 やるべきことが、未来に必要な事柄が、手に取るように理解できた。


 しかし、過去の穴埋めはできない。

 過ぎ去った無駄な人生をやり直すことは、本来であればできない。


 いや、輪廻という手段で出来たとしても、やってはならないことだと思う。

 何せ成長せず、永遠に停滞してしまうのだから。


 本来、一般の人間ならこの答えに自ずと辿り着くはずだった。


 それが、超能力や呪い、強いては神何ていう特殊な事象を研究してしまったが為に、その事象に対して更なる欲望を見出してしまったのが、お父さん――章一という人物なのかもしれない。


「本当に、かわいそうな人」


 そして、結果的に色んな人物の欲望が見事に合致して憑依されてしまった。


 私は本来の章一という人物を良く知っている。

 優しくて、煽てに弱くて、乗せられやすい人。


「まぁ、ようは漬け込まれたのだろう」


 声に出して呟いてから、辿り着いた金庫から対象物を取り出した。




 濃霧は既に完成されていたので、結界道を利用して、何となくの感で突き進む。

 そして地上に出たところで電柱の地名を確認しては戻る、を繰り返す。


 そして、やっとのことで章二の秘密基地に辿り着くことができた。

 私の気配に気づいてか、慌てた様子で黄が飛び出て来る。


「もう大丈夫な……」


 言いかけた言葉は、黄が私に抱き着いて来たことで途切れた。

 何となく察したので、黄の暖かい体温が奪われないようにと中へと入るよう促す。



 そこに居たのは、全ての絆の線を1本に集中させた章二と、その線の先で液体化しつつある花菜子のベッドだった。

 花菜子はもう、肉体を保っていられる状態ではないらしい。


 本来の喉元に当たる場所には小さな魔法石が、否、女神の核だけがしっかりと輝いていた。


「花菜子さんとの契約が切れたの!!」


 もはや、敬語も使えないほどに狼狽えた黄が私に言ってきた。


 恐らく、章二は自身の知る最後の術式で花菜子を生き長らえそうとしているに違いない。

 私のことなど気にも留めずに暗唱し続けている。


 このまま花菜子を死なせてはならない。それは、私も十分に理解していた。

 しかし、どうしたら良いのかが解らない。答えが見つからない。


 真っ白になった時、黄がポツリと呟いた。


「やっぱり、あの人じゃないと無理だったんだ。私や貴君では、魔力を供給し続けることは不可能だったんだ……!」


 過去には如月が花菜子と契約していたという。

 頭を抱えた黄が言うあの人というのは、恐らく彼女のことなのだろう。


 そして、その特殊な契約の方法も知ってはいる。


 核を割って譲渡し合い、互いに消耗してでも、少しでも生き続けるという選択。

 しかし、既に小さすぎる核では契約時に全てを失う場合もある。


 でも、どちらにしても死んでしまうのであれば、賭けても構わないだろう。


「まだ間に合うよ」


 言い聞かせるように呟いた私は自身の核を取り出し、小次郎を使って同じくらいに切り出す。

 そして、契約の魔法陣を展開した。


 黄は唖然とし、章二が驚愕のあまりに口をポカンと開けていた。


 その視線の先に居るのは私。

 だけど、きっと私ではなく彼女を見ているのだろうと思った。



 こうして無事に交換会は終わり、花菜子が人間の形に徐々に戻って来たあたりで、私は章二に例の件を話した。

 もっとも、この現状では章二も動けないだろうが。


『行ってきて。ウチはもう大丈夫やから』


 懐かしい花菜子の声が聴こえた。


 驚いて私達は花菜子を見つめたが、花菜子はやっと顔の形が戻ってきたかな、くらいで決して全てが元通りになっていた訳ではなかった。


『誰ぞ行かなならん。きっと神主の力が必要になる』

「……私がここに残ります」


 黄は意を決した表情で私達を向いた。

 どちらかといえば、章二の方に傾いている気はする。


「もう二度と失いたくないんです。もう二度と離れ離れにはなりたくないんです。だから、私がここに居ます。だから、貴方は貴方のやるべきことをお願いします」


 私は章二の言葉を待った。


 章二は娘を心配しているのだと思う。

 もしかしたら、濃霧の影響でここに戻って来られなくなることまで考えているのかもしれない。


 しかし、世界のことを考えたら私は章二を守りながら美島市に連れて帰る選択をしたい。

 それは章二も解っていることだと思う。


「……少し、時間をくれないか」


 困惑した表情の章二は、そう言って外に出て行った。




「今まで騙していてごめんなさい」


 黄は不意に私に言った。

 私は花菜子の脇に座り、頷き返す。


「私は生まれながらに鬼神でした。

 前世の影響か、瘴気を体内に蓄えやすい体質で、幼い頃から魔力暴走を繰り返していました。物心がつく前に舟山の音神の元に預けられたのはその所為と聞いています。

 でも、その所為で義理の兄となったリュウ様までもが魔力暴走を起こすようになってしまったんです。そしてあの人と契約をせざるえない状況を作り出してしまった。

 もっとも、両親のことはあまり覚えていなく……母親の匂い、くらいですかね。香恵子様は、そんな母親の匂いに似ていました。

 だから、思わず縋ってしまったんです。結果的に突き放されていましたが、それも香恵子様の愛情だと気付いた時には、既に失った後でした」


「無知だった過去を嘆いても仕方ない」


 私は黄を慰めるように呟いた。


「でも、今ならまだ間に合う」


 しかし、もしかしたら私自身に言っていた気もする。


 きっと今の黄もそのことは解っているはず。

 だから言葉なんて少なくて良い。


「花菜子のこと、宜しくね」

「……はい」


 とは言ったものの、花菜子もそんなに長くはないだろうとどこかで感じていた。


 だから、その為にも地界の時間を止める。

 成功させてみせる。



 章二を呼びに行こうと外に出る。

 しかし、そこに章二の気配は無かった。


 代わりに、何故か猪塚のオーラが残っていた。

 もっとも、ここに来た形跡は無い。風に乗って来たのだろう。


 しかし、猪塚は既に避難していなければならないはず。

 そもそも、あの猪塚が黒い面のオーラも混ぜずに生存していることが有り得ない。


 だから警戒しつつも、その風上の方角に山を下ってみる。


「クスクス……」


 猪塚は私に気付いたらしい。

 強い視線を前方から感じた。


 濃くなってきた霧の所為で、私はまだ、姿は捉えられていない。


 が、間違いなく猪塚のオーラだった。


「「かごめ、かごめ」」


 どうやら、いつの間にか私は背後を獲られていたらしい。

 金縛りに遭ったかのように身動きが取れなくなる。


「籠の中の鳥は」

「いついつ出やる」

「夜明けの晩に」

「鶴と」

「亀と」

「滑った」


「「後ろの正面だぁれ?」」


 かごめかごめ。

 子供の頃には、遊んでいた子供が多かった記憶がある。


 しかし、これも能力者が行えば軽度の呪縛になる。


 真後ろに居る者の名前を当てれば開放されるが、当てられなければ結界に囚われることになる。その結界は特殊で中から解除は出来ないが、能力者が遠くに離れれば即時に開放される。


 しかし、その時間が命取りになるかもしれない。

 しかも、そもそもまだ見えてもいない相手。当てられるはずもない。


「おどろいた?」


 猪塚がやっと私の前に姿を現した。


「ばかにした、おかえしだよ?」


 声を出そうにも、出ない。それはテレパシーも同じ。


 猪塚は私の真ん前まで来ると、その細い手で私の胸元をスッとくすぐる。

 それを数往復。気持ち悪い。でも、悶えることも出来ない。


「このまま、おそっちゃっても、いいんだけどね? そーしたら、あたしとしては、らくなんだけどさ。センセーが、いまのあたしじゃないと、ダメなんだって」


 何を言っているのか、全く理解できなかった。

 しかも、猪塚の手からは熱を感じられなかった。熱どころか、その周囲には溢れているオーラすらも体内からは何も感じ取れない。まるで空気の様。


「ほしいなぁ、このカラダ」


 猪塚の手が、いつの間にか私の体内に入り込んでいた。


 一瞬フラッシュバックしたのは、里の主が円と瞳から心臓を抜いた光景。

 あれは、お父さんと里の主が契約していたから、お父さんの固有能力を里の主が使えていた。


 今、その時のように猪塚の手が私の心臓部を弄っている。


「……あれ?」


 とはいえ、そこに私の核は無い。

 そもそも、そのような固有能力があることを知っていたからこそ核は別の場所に保存してある。


 猪塚は私の体内を必死に弄っていた。


「何で、ないの? 何で、何もないの?? おかしい……おかしいよ、このヒト!!」

『教えてあげるよ』


 私は猪塚の手を通して伝えた。

 猪塚は驚いて手を抜こうとしているが、この能力の弱点を知っていた私は既に対策済み。


 硬化した体が猪塚の手を完全に吸収し、消化し始めている。


 舌打ちした猪塚はそのまま肩を斬って腕を切り離していた。

 しかし、このことで歌の効力が途切れて自由の身になる。


「ばけもの!! ひとでなし!! せっかくのきれいなうでが……!!」


 そして吸収したことで、今の猪塚が何者かに憑依されていることを知った。


 私のことを良く知っていて、綺麗なモノが好み。

 その中で、私に恨みがあって、お父さんの傍に居た人物。


鈴木 花子(すずきはなこ)


 その名前に猪塚が大きく反応した。どうやら当たりだったらしい。


 鈴木は一応、風見家の血筋ということになっている。"なっている" と言ったのは、赤子の時に養子縁組で風見家の遠縁に迎えられた為らしい。

 もっとも、その遠縁には能力に目覚めなかった者が多かったことと、目覚めたとしても里から出た者として扱ったので、風見家としては深く関与していない。


 しかし、鈴木の右手には反転の固有能力があった。

 掴んだ物が生物なら死を、死体なら生を与えるという、使い方によっては最強の能力を持っていた。


『きっとその右手が実の両親を無意識に殺してしまったのかもしれない。でも、もう大丈夫。先生はお医者さんだから、君にとっておきの魔法をかけてあげよう』


 お父さんはそう言って鈴木を実験に取り込んだ。


 お父さんこと "センセー" を信じて何度も炎神を嗾けて学校に火災を起こし、何度も水神を白金小次郎で魔力暴走に陥れ、何度も地神を穴に突き落とし、何度も風神を濃霧に惑わした、悪神の化身。

 もっとも、鈴木は騙されていると理解していない。口説いたところで、甘味のような暗示は容易に解けない気はする。


「私は先生に全ての内臓を奪われたの。だから内臓がないぞー」


「……えっ。……そ、そうだったんだぁ」


 冗談に驚いたのか、内臓の事実に驚いたのか、それは解らない。

 しかし、このことで私の体への興味を失くしたのか、先程までの好戦的なオーラは消えていた。


「じゃぁ、何でここにいるの? ……もしかして、センセーにいわれて、あたしのようすを、見にきたの?」


 鈴木は不思議そうに首を傾げた。


「そういえば、長いこと、センセーのところに、もどってないかも? あ、でも。きっと、そろそろ、なんだよね? キリをもっと出さないといけないから、そのことをつたえにきてくれたんだよね??」


 どうやら鈴木は濃霧の犯人だったらしい。

 とはいえ、勝手に勘違いしてくれたのは正直有り難い。なので頷き返した。


 鈴木はパッと嬉しそうな笑顔になる。


「うん、わかった! ツカサくん、おいで」


 ずっと気配を消していた、ツカサと呼ばれた少年が霧の中から現れた。目は虚ろですっかり痩せ細っている。

 その少年は私に脇目も振らずに鈴木の両腕の中に納まった。


「だぁいすきなツカサくんといっしょなら、あたし、しぬまでがんばれる。センセーに、そうつたえて」


 そう言い残して鈴木は少年と共に去って行った。




 何度も通った結界道を利用して県境まで赴き、そこからはただ走って進むだけ。


 遠目に見ても解るくらいに、巨大な船の襲撃によって美島市の結界には穴が空き始めていた。

 しかし、それでも耐えられているのは結界師だけではなく、市民が一丸となって団結できているからだろう。


 巨大な船は諦めたらしく、一部は東都に戻って行こうとしている。


 混乱する市街地を越えて、天津の居る結界の主の空間へと舞い戻る。


「っ!」


 到着し、もう1人の存在に最初に驚いていたのは結界の主だった。

 が、すぐに顔を背けている。


 その視線の先に居た天津が気付き、こちらに近寄って来た。


「章二さん……!」

「龍子にも背中を押されてしまったからね」


 その一言に、結界の主が悲しそうな表情を伺わせていた。



 なお、初日でほぼ道具は揃っていたらしいが、入念な準備は続けられていた。


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