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070-000 絆を生む軌跡

 幻影に居場所が突き止められてしまったことで2度目の緊急会議が開かれた。

 しかし、章二の避難に関しては、章二自身がこの山から動く気は無いと言い張ったのでどうしようもない。その理由も理解できない訳ではなかったので、私はただ黙っていた。


 そうこうする内に日付が変わり、休憩中に外の空気を吸いに行った際、薄らと霧が出始めていることに気付いた。しかし、その霧がただの霧ではないことは過去の記憶から知っている。


 もう数時間もすれば、あの上空に居る巨大な船の動きも活発化するだろう。

 それにより、避難しなかった者が次々と死体となって道に転がり始めるだろう。


 みのるの予知夢によれば、学園が炎上するのは今日から数日の間だと言っていた。

 ただ、白雲運河曰く、濃霧の影響で火事はそこまで大きくならないから心配しなくて良いらしい。


 問題は属性神に時間が無いこと。

 何でも、属性神の神器は特殊仕様らしく、いくつもの条件をクリアしなければ触れることもままならない代物らしい。訓練と称して指導を受けていた雷神でも20日間かかったとか言っていた気がする。


 過去に、彼女は輪廻の力を応用して時間を停止させたことがあった。

 それを使えば私でも時間を止められるかもしれない。


 しかし、それを言うべきか悩んでいた。

 何故ならば、彼女は決してそのことを口外しなかったから。


 その理由は解っている。

 輪廻の力は一度発動させたら最後、魔力が尽きるまで過去に戻り続けてしまうから。

 一時的停止は出来るが、戻る作用は抑制できても止まれないので自分の負荷となる。


「(でも、属性神が居なければ先は無い。この力で猶予が出来るなら、少しでも安全に出来るのなら、やってみるしかないかもしれない)」


 案が出ないまま、時間だけが過ぎていた。

 だから悩んだ末に、()()()()()()()()()()神器の能力だけを話した。



「その案、乗ってみようか」



 真っ先に章二が賛成してくれた。

 まぁ、先に進めない以上、そうなるだろうとは覚悟していたが。


 流石に即決とはいかない天津と白雲運河が互いに目を合わす。

 そして天津が溜め息をついた。


「しかし、時間と範囲の指定が必要です。属性神が聖地の境界に潜った直後で、尚且つ、範囲は地界だけを指定しなければなりません」

『確かに、タイミングと範囲の指定は必須だろう。タイミングは守護神や見張りに知らせてもらうにしても、地界という範囲指定は思った以上に難しい』


 容易に3人が案を受け入れたことに唖然としてしまった。

 しかも、かなり明確に話し合いが続けられている。


「方法を知っている相手には心当たりがあります」


 口を挟んだのは蓮だった。


「ですが、輪廻の力は術者自身にも及ぶと、死んだ姉から聞いています。下手すると術者が先に巻き込まれてしまうこともあるとか……」

「術者を守る場所が必要、ということですか?」


 頷き返す蓮に天津も白雲運河も、そして章二までもが苦言の表情を見せた。


 沈黙が流れる。


 しかし、白雲運河の3人がどんなに知識を絞っても出て来ないならば。


「相談……してみませんか?」


 私は蓮を見て続ける。


「範囲の指定が出来るなら、その人が何か知っているかもしれない。その人が知らなくても、その人の友人が知っているかもしれない。……その人もチームを組んでいるならば、だけど」


 もっとも、そうでもなければ今の世界では生き続けることなんて出来ない気はするけども。

 そんな内心を呟きながらも蓮の反応を待った。


 しかし、返答をしたのは章二だった。


「蓮君。もしかして、その心当たりというのは首相のことかい?」


 流石に私も目を丸くした。

 が、蓮は頭を横に振る。


「ただ、それに近しい相手ではありますね」

「え。首相って、国で一番偉い人だよね??」

「えぇ、まぁ」

「シェルターに避難命令出しておいて、首相がまだ避難してないとか……」

「いいえ、避難はしていますよ」


 言い合いの後、蓮はあっさりと情報を教えてくれた。


「ただ、理由があってシェルターのすぐ傍で待機しています。もっとも、首相の側近には優秀な能力者が揃っていますから、首相が軽く指示を出せば、各地のシェルターに伝令出来るようになっているようです」

「凄いシステムだよねぇ。自国の守備だけなら世界一だと思うよ」


 章二は胡散臭く絶賛していたが、その視線がチラチラと白雲運河に注がれていた気がした。


 白雲運河が属性神の見張りを、天津が私のボディガードを、蓮が道案内と仲介を担うと決めている間に、私はこっそりと白雲運河から伸びている線に触れていた。

 そして何本かの線に触れた時、水色の線が結界の主とみのるに繋がっていることを知った。


 しかし、その色がどういう関係か、まだ解ってはいない。



 天津は白雲運河の姿に変身し、私と蓮を伴って移動する。

 地上ではかなり霧が濃くなってきているが、上空はまだそこまで被害が出て居ない。しかし、高度を上げ過ぎると船の被害に遭う。

 なので、その絶妙な高さを維持して進んだ。



 最初にやってきたのは国会議事堂。

 それも整備された庭の一角、バラ園のわきの道に着地する。


『ここだけ結界が薄くなっていた』


 天津の一言に疑問を投げかけようとした。

 が、それには別人が答える。


「仕方ないでしょう。緊急事態でしたからね」


 その別人が霧の中から姿を現した。

 私は目を丸くする。


 それは首相だった。

 その両脇にはスーツを着たボディガードが守っている。


 首相は蓮に気付いて会釈した。

 蓮も深めにお辞儀する。


「もっとも、死神を名乗る不届き者は私や智神の核には興味が全く無かった様子。魔力が少ないことが幸いしましたよ」


 首相は軽く自身を蔑みながらも続ける。


「それで、今回はどのようなご用件でしょう?」


 天津が蓮を顧みた。

 蓮は進み出て答える。


「以前、首相のご子息から伺った件でご相談に参りました」


 流石に蓮も、より丁寧な敬語を使っていた。

 私でも、ここまでスルスルとは出て来ないだろう。


「通常の結界では、地界と境界、両方に効果を及ぼしてしまいます。ですが以前、"その片方だけに範囲を指定して霊力と魔力の違いに関する測定を行った"。そのようにおっしゃられておりました」

『訳があり、地界という範囲に絞って術式を展開したい。故に力を貸してもらえないだろうか?』


 天津の一言に首相は悩んだ。

 が、そんな首相の代わりに、後方から1人の青年が現れる。


「かなり前、要様が霊力と魔力を使い分け、どちらの魔弾がより遠くまで進むか、実験をした時の話しだと思われます」


 その青年には見覚えがあった。

 が、どこで会ったのか解らずに首を傾げてしまう。


 その一方で、首相はようやっと思い出したらしく、納得の頷きを見せてくれた。


「あぁ、あの時か」


 しかし、あまり良い表情はしていなかった。


「あれは要が勝手にやっていたこと。私では解らん」

「えぇ、そうですね。でもあの時、私はまだ要様の御傍に居ましたので詳細は存じております」


 首相は少し悩んでからこちらを見る。


「その一件、私は息子の執事から聞いただけで存じておりません。しかし、代わりにこのカザミという従者を御貸ししましょう」


 そう答えた首相はカザミという青年を振り返る。


「解っていると思うが……」

「えぇ、解っています」


 カザミがそう答えると、首相とそのボディガードはカザミを残して霧の中へと戻って行った。

 それをしっかり見送ってから、カザミがこちらを見て失笑する。


「まさか要の一言から面倒そうな方向に巻き込まれるとは思ってもいなかったわー」


 先程までの態度とは裏腹にカザミは砕けた。

 しかし、その声を聞いて思い出す。


「あ。あの時、結界道のことを教えてくれた人!」

「いやー。あん時は仮面、ありがとね。お陰でピンチを切り抜けてここまで来れたよ!」


 どうやらカザミは、廃病院とは逆方面のここに向かっていたらしい。


「それで、蓮。さっきの説明だと、実はちょっと語弊があるんだ」

「語弊?」

「あれは首相への報告として伝えた内容。実際にはかなり危険なことをやってたんだよ。まぁ、その秘密は言わないぜ? だが、あん時は何人かの力が合わさって要の魔力暴走を集束させたんだ。つまり、偶発。悪いことは言わない。アレをもう一度ってのは多分、無理だ」


『結界道の地図を製図しようとした?』


 天津の一言にカザミがビクリと大きな反応をした。


『なるほど。あの時、私が何となく管理していた結界道で不可思議な異変が起きたのは貴方達の所為だったようだ』

「あー……」


 罰が悪そうな表情をするカザミに天津が続ける。


『新しい智神が、新たな知識を求め、……又は自身の逃げ場とする為、結界道の地図を各地の守護神の許可も得ず、無理に作成しようと試みたのだろう?』

「……その通りだ」


 観念したカザミが返答した。


「結果的に地図は描けなかったが、要の脳内には地図が入っているらしい。あ、俺は要と契約している従者だよ。だからあの時、その記憶を覗くことで正確な道案内が可能になった。だが、まさか結界道を白雲運河が管理していたとは知らなかったなぁ」

『知らないことは仕方ない。だが、今回はその方法を教えてくれるならば見逃そう』

「えっ。いや、だからそれは危険だと……」


「それでも、やらないといけないんです!」


 蓮の一言にカザミは溜め息をついた。

 しばらくして、カザミは2度目の溜め息をつく。


「解りました。でも、ここだとアレなんで……ついてきて下さい」


 そう言ってカザミは、迷路のようなバラ園の中へと入っていく。

 バラ園には強めの結界が張られていた。


「あの時に居たのは、要と、範囲を指定する者の他に、ベテランの結界師が2人と、柔軟に何でも出来る執事です。あ、あと役立たずの俺」

『随分と役者は揃っていたようだが?』

「範囲を指定する者は、そもそもその力自体、不安定だと言っていました。だから念の為、多めに揃えておいたんです。要の能力も、あの時はまだ不安定でしたし。とは言え、要本人が魔力暴走をするとは誰も予想していませんでした」


「結局、どういう経緯で収束させたんですか?」

「要と契約して、従者になっていた執事が放出する魔力の器になった、ってことは理解したんだけど、それ以外の3人がどういう動きをしていたのか、までは解らないです。でも、それの所為で範囲を指定する者が自身の能力を嫌ってしまったんで、あれが最初で最後でした」

『それで、その範囲を指定する者はどちらに?』


 蓮の質問に答えたカザミに天津が訊ねた。

 カザミは頭を横に振る。


「今、どこに居るのかは解りません。ですが、その者は要と以前から面識があるようでした。要の友好関係は全て執事が管理しています。なので美島市にある別邸の執事に訪ねれば教えてくれるかもしれません。が……」

「あぁ、なるほど」


 口ごもるカザミを見ていた蓮は頷く。


「首相がシェルターに入らない理由に繋がるんですね?」

「……まぁ、そんなところ?」


『でも、別邸を管理する執事は別邸に残っているだろう?』

「それも多分、としか言えないですけどね。何せ美島市だけではなく、周辺の県からの情報は途絶えてしまってますから……」

『そのくらいなら、いくらでも教えよう』


 天津は軽く答えた。

 それにはカザミが驚いている。



 私達が北都と美島市の情報を話し終えたあたりで、カザミは安堵の表情を見せていた。

 都内のことは、世界の為には属性神が必要ということも、濃霧が地下鉄から発生するということも、結構マニアックな情報だと感じていたのに知っていた為、詳しくは話さなかった。

 ただ、属性神がどういう状況に追い込まれているのか、までは知らなかったらしい。


『その為に時間が必要となり、地界の時間停止を予定している。無論、ここも直に巻き込まれるだろう』

「なるほど」


 カザミは呟き、悩んだ末に口を開く。


「ということは、アンタが空神か」


 驚愕する私のことを見たカザミは続ける。


「大昔、純が――風神が言っていたんだよ。時を操る空の神に助けられた、とね」


 それは本当に大昔の話しだった。

 しかし、同時に何となく悟る。


 本当の名前はカザミではなく風見(ふうみ)なのではないか、と。


「美島の巫女から輪廻を引き起こせる空神が実在することは聞いていたけども、まさか白雲運河の傍に居るとは思わなかったなぁ」


 カザミはそう言いながらも私から天津に視線を戻す。


「それで今、思い出したのですが、執事の他に、コンノという狐の妖怪なら何か知っているかもしれません」

『そのコンノは何者です?』

「情報屋、程ではなく情報通というくらいですが、あの場に居たベテランの結界師の内の1人ですし、要が暴走した時にも執事と共に柔軟に動けていました。私も詳しくは存じておりませんが、美島市では有名な傭兵のようです。恐らく、市長ならその方のことを存じていると思います」

『貴重な情報、ありがとう』


 天津はそう答えて蓮に視線を投げていた。




 濃霧の中を進むことは躊躇われたので、まだ濃霧が広がっていない結界道を利用して美島市へと抜ける。

 そして天津は白雲運河の変身を解いて、市長の部屋へと窓から侵入する。


 もっとも、中に居た市長は最初から解っていたらしい。


「侵入なんて君らしくない」

「急いでいるもので」


 どうやら顔馴染みの様子。


「で、何用?」

「コンノという結界師に合わせて頂きたいのです」


「えっ?」


 感嘆の声がしたのは部屋の隅だった。

 市長もその方向を見つめている。


「いやぁ、凄いタイミングだねぇ」

「は、はぁ……?」


 そして全員の視線の先、壁とほぼ同化していた女性が姿を現した。

 女性にはフサフサした三又の尾が出ている。



 時間が無いので早速、天津は説明を始める。

 そして端的な説明でコンノは納得の表情をしていた。


 しかし、市長は複雑な表情をしている。


「それは村岡さんですね。カラオケ店の店主をされている方の」

「あぁ、やっぱり奴か」

「でも、不安定な能力ですよ? まして輪廻なんて……」

「善後策を講じている余裕なんてありません」


 天津は2人の反論を遮った。

 切羽詰まっていることは十分に伝わっているとは思う。


 市長とコンノは互いの目を合わせていた。


 しばらくしてコンノが深い溜め息をつく。




 コンノの案内で着いたのは、本当にカラオケ店の前だった。

 店員らしき男性がのぼりを取り込んでいる。


「店じまいですか? 村岡さん」


 声をかけられて男性が振り返る。どうやらこの人が店主だったらしい。

 年齢的には同じか、少し上くらいだろうか。カザミの方が歳は近いかもしれない。


 白雲運河の姿に戻っていた天津は手っ取り早く説明を始めた。

 しばらくして店主は頭を横に振る。


「そんな大役、御免だね」

『そこを何とかお願いしたい』

「じゃぁ、お前の本当の姿を見せてみろよ。そうしたら考えてやる」


 蓮が驚くそのわきで、天津はあっさり変身を解いて見せた。

 が、それに驚いていたのは店主の方だった。


「なっ?!」

「別に姿何て大したことではありませんからね」

「お前、確か "ひゃくが" の班長じゃ……」

「えぇ、そうですよ。お久しぶりですね、村岡 了(むらおかさとる)さん」


 どうやらこちらも顔馴染みだったらしい。

 私は黙ったまま様子を伺った。


「班長が、白雲運河だった、なんて……」

「そういう貴方こそ、専門学校を首席で卒業していながらカラオケの店主になっていた、なんて驚きましたよ。それに、特殊な固有能力をお持ちだったとは。まぁ、今はそんなことを言っている場合ではないのですが」

「……はぁ」


 店主は大きな溜め息をついてから答える。


「言っておくけど、本当に不安定な力なんだ。それに、俺は超能力者じゃない」

「えぇ、知っていますよ。貴方の履歴書を拝借した時から、妖怪ではなく人間に近いけど人間ではない種族だということも、その種族には超能力とは異なる能力があることも存じています」


「……そこまで知っていて、使えと言うのか?」

「はい」


 天津は言い切った。


 そのおかげで、どんな種族か、何となく解ってしまった。

 でも、きっと隠していたいのだろう。だから敢えて私は口を噤んだ。


 店主は失笑を返す。


「仕方ない……手を貸そう」

「じゃぁ……」


「ただ、場所はそこの森の結界の中だ。地界(こっち)で魔力暴走させたら俺は真っ先に巻き込まれるからな、種族的に。それから、準備するのに最低でも2日は欲しい。出来ればそれ以上。もちろん、市長や結界の主に許可も必要だろうし、そっちで準備があるなら日数は勝手に伸ばしてくれ。あと、今回は協力するが他言無用でお願いしたい。それが条件だ」


「条件多過ぎません?!」

「うっせーな。そのくらいじゃなきゃ割に合わねぇってーの!」


 蓮のツッコミに答えた店主は、何故かドヤ顔で天津を見つめていた。


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