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066-000 死神(閑話)

 幻影の気配が近付いてきたので、少し離れた場所にあった結界道に身を潜めた。


 気配は出入口付近を行ったり来たりしている。

 ここに逃げ込んでいることがバレているのかもしれない。


『にゃーお』


 それは脳裏に響いた声だった。


 振り返れば、1匹の小さめの黒猫が座っている。


 普通の黒猫ならば鳴く。

 だが、その黒猫は鳴き声を伝えた。その違いは大きい。




 黒猫に導かれるように結界道を駆け抜ける。


 道中、外に出ることもあった。

 しかし、それは本当に一瞬の出来事だったので、幻影には気付かれていない。


 黒猫が立ち止まった所は、幾度も抜けた場所と変わらない出口だった。


 しかし、抜け出た先には違和感があった。

 思わず立ち止まって景色を眺める。


「ここは素晴らしいでしょう?」


 唐突に気配が現れた。

 でも、声で相手が解っていた私は見ずに答える。


「本当に」


 そこからは都内でも中心部が一望できた。

 しかし、山の上という訳ではない。強いて言えば、少し大きめの鉄塔の上。


「幻影に追われているのでしょう? ここでは目立ちます。こちらへ」


 天津はそう言いながらも、何も無かったはずの電柱の上に鳥居を現してくれた。



 鳥居を潜ったら既に部屋の中だった。


 海を隔てた中ツ国の上流貴族の家のような装飾が施されている。

 手前には4席のテーブルと、奥にはベッドがあるのが見えている。


「幻影の動きが活発になっていますね」


 そう言ったのは黒猫だった。


「今は動くべきではないと思いますが?」

「確かに、動きたくはないのですがねぇ」


 天津はその黒猫に平然と答える。


 黒猫のことを、私は知っていると思う。


 だけど、思い出せない。

 思い出したくない。


 そう感じている私が居た。


「あのシェルター自体には守護神の結界くらいしかかかっていません。それを結界師が協力し、上から防護しているくらいです。万が一、幻影や巨大化した繭に狙われたら、私達でもかなり危険な状況に追い込まれてしまう可能性があります」


 それは私も考えていた。

 なので黒猫のことをおいておき、訊ね返す。


「天津には、シェルターを強化する手段があるということ?」

「ありますよ。ですが、その為にも北都へ行く必要があります」


「前に章二さんもお遣いを頼みたいと言っていたけど、関係はある?」

「えぇ、ありますよ。ただ、あの時よりも量が入用になりましたから、私も一緒に向かおうとしている訳です。もちろん、既に連絡して量は確保してあります。……運ぶ手段が無いだけで」


 答えた天津は黒猫を振り返る。

 すると、黒猫は大きな溜め息をついた。


「僕は貴方の使い魔ではありませんよ?」

「当り前じゃないですか」


「じゃぁ、何?」

「仲間ですよ。それも、同志と思っています」

「そう思っているなら、彼女との契約を今すぐに破棄して下さい。僕の家族を皆殺しにした者の顔など見たくありません」


 あぁ、そうか。

 この黒猫は、複製の私が逃した唯一の獲物なのだと思い出す。


 動物の山猫から派生した妖怪の化猫には、妖力という神秘的な魔力が備わっている。妖力を持つ妖怪は多いが、魔力と混ざっている者も多い。

 故に複製の私は、その化猫の妖力を求めて雷神の森を彷徨っていた。確か、今年の春頃に夢を見たと思う。


「ごめんなさい」


 自然と言葉が出た。

 黒猫が目を丸くして私を見つめる。


 あれは複製がしたこと。

 されど、その複製も今は私の中に居る。


 仲間を失い、1人だけ残された苦しみは良く解る。

 謝って済むことでもない。


「許して欲しいとは言えない。でも、今は仲間として……どうしたら信じてもらえる?」


 黒猫は言葉を失っていた。

 が、天津に背中を叩かれて我に返ったらしい。


「……チッ」


 舌打ちした黒猫が上に一回転して人の姿になる。

 ただ、その姿は明らかに異様だった。


如月 蓮(きさらぎれん) と申します。貴方から逃亡中、他の者に奇襲され、あろうことか吸血鬼に落とされました」


 堕転とは少し質が異なるらしいが、吸血鬼という存在は一度も見たことはなかった。噂では、純粋な吸血鬼に血を吸われた者も吸血鬼になるらしい。

 つまり、蓮は希少な化猫で、更に希少な吸血鬼という2つの力を持つことになる。


「自分の力ですら制御できなかった僕は魔力暴走で命を落としかけました。ですが、如月 咲九――あろうことか、貴方と類似した者に救われました。しかも、死神の核と国籍まで頂いて」

「じゃぁ、今の君は……」

「死神ですよ。ですが、この死神の核も女神と同様、不完全でした。女神は力が無いのに対して、死神は属性神と同じで記憶が無い。なので、死神を名乗る相手に困惑していました」


 彼女が、里の主が死神ではないことを知っていた理由なのだろうとすぐに気付いた。

 長い溜め息の後に蓮が失笑する。


「しかし、貴方のことは何度も見てきました。姉さんが特別視していたこともありましたが、それ以上に、何度も龍子さんを守ろうと行動してきた姿は姉さんと重なる部分がありました。だからか、今はもう、本心から敵とは認識していませんよ。

 ただ、貴方を見る度に死んだ姉さんが……いえ、今の発言は忘れて下さい。なので、これからも貴方の行動を見させて下さい」


 言いたいことは解らなくもない。

 まして、今の私は彼女の記憶をも引き継いでしまっている。


 まだ全てを思い出せていないだけで、恐らく彼女は私に全てを託している。

 そんな気がしていたから。


 それよりも、少し気になったことがあった。


「……黄のことを知っているの?」

「え? もちろん、知っていますよ? 幼馴染ですからね」


 答えた蓮は、しかし、少し驚いているようだった。


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