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065-(174) 懐古

 そんな会話が懐かしく感じるくらい、日に日に 1日 が早くなっていった。


 今は深夜の1時のはずなのに太陽は上の方にいる。体内時計も布団に入るよう促してくるが、明るすぎてまだ眠れそうにもない。


 ただ、暑いはずの日差しは分厚い瘴気の雲によって軽減されてはいる。

 それが唯一、ありがたいことではあった。




 天津が結界の主から道を教えてもらい、適度に結界道を繋いでくれたおかげで早急に都内まで戻って来れた。

 私と天津は遠音に手紙を託してから、花菜子の居る神社に戻ろうとする。


 だが、その道中でバッタリと里の主の幻影と出くわしてしまった。

 それも、周囲には操られた多くの黒い面の姿がある。

 気配だけではなく魔力も弱かった所為で気付くのが遅れた。


 逃げようにも幻影に結界を敷かれてしまった今では難しい。


 そんな結界の外から天津が言う。


『神社の結界傍に誘導し、隙を突いて逃げ込んで下さい!』


 幻影の狙いは私の強大な魔力。

 意思はそれしかないのか、物理的で読みやすい攻撃を仕掛けてきている。


 ある意味、知能が高い幻影ではなくて良かったと思う。



 逃げ込めた神社には、多くの超能力者が集っていた。


 その1人に声をかけようとして、その相手が同級生の凪だと気付く。

 だが、互いに黒く汚れが顔に付いていたためか、気付くまでに数秒ほど時間がかかった。


「凪……?」

「……? ……あ、紫かぁ。紫も避難しに来たの?」


 平然とした凪の問いかけに安堵し、しかし、結界の外に居る凶悪な敵の存在を伝えると、奥に居た結界師まで快く案内してくれた。

 事情を伝えると、若い結界師が顔色を変え、更に奥に居ただろう結界師に伝えに行ってくれる。


「それにしても、紫が敵を把握しているなんて驚いたよー!」


 凪はいつもの調子で続ける。


「だって、紫ってこういう事件とか、巻き込まれるの嫌がってたじゃん? 鈴木の一件の時も、計画を知っていても悪乗りしなかったくらいなのに。一体全体、何があったんだい?」


 凪は普通の一般人。

 だからきっと、私のオーラが変化したことに気付いていないはず。

 それでも私の変化に気付いたということは、私が変わってしまったということなのかもしれない。


 しかし今、それを説明する余裕はない。


「別に大したことは。ただ、このままだと世界は終わる。だから戦おうと決意しただけで」

「だろうね!」

「……えっ?」


 思わず訊ね返した。

 しかし、凪はケロッとした表情で続ける。


「科学的に考えたらさ。普通、地割れがあって隙間から崩壊が進むじゃん? でも、それとは異なる方法で地表が失われるなんてさ。どう考えたって異常としか思えない。だったら、これは自然的なことではなく人為的なことじゃないかな、とどこかで思ってたんだ。だから紫の発言で確信しただけだよ」


 凪の答えに思わず唖然とした。

 が、戻って来た結界師によって会話は途切れる。


 どうやら神社の奥に守護神が居る神社だったらしく、既に敵の侵入しようという気配に気付いて結界を強固にしていたことを教えてもらえた。

 その結界師はそれ以上は何も答えてくれなかったものの、胸元にあった法被(はっぴ)の文字から、ここが有名な九重神社であることを知った。


 確か、首相の家系に代々伝わる三種の神器を祀っている神社だったと思う。三種の神器が3組あることから九重という名になったという有名な噂がある。

 守護神が居ても全く不思議ではなかった。


 凪は一般人であったものの、まだシェルターには入っていなかったらしい。

 結界師との会話中に離れた凪は、救急で来た数名の内の、擦り傷程度の怪我人の治療を行っていた。


「自分は能力のこととか、良く解んない。でも、遠音たちが巻き込まれていることは、他のクラスでも何となく解ってるんだ。長年、一緒に居た感ってやつ?」


 私が近付けば、凪は勝手に話し出す。


「そっちのことは手伝えないけどさ。少しでも、困っている人の手伝いが出来るなら。そう思って応急処置をしてる。まぁ、流石に二次避難勧告が出されちゃったから、今日中には紗穂里のお母さん同様、地下のシェルターに入るしかないんだけどさ」

「出てたんだ、二次避難勧告」

「うん、ついさっき、ね。まぁ、それほどまでにヤバイってことでしょ? 応急処置や治療なら地下でもできるし。紗穂里のお母さんは占いで明るい未来を教えてあげて、励ましているし。……仕方ないよ」


 シェルターに入れば情報が遮断される、と言われている。

 凪だって不安なはずなのに、それは言葉にしなかった。



 少しでも変わりたい。

 少しでも力が欲しい。

 少しでも情報が欲しい。

 少しでも力になりたい。


 そんな心の声が神社には溢れていた。



 脅威が去ったことを結界師から伝えてもらえたので、珍しく御礼を述べてから神社を後にする。


 そして、それらに後押しされるように、すぐ近くにある宮本神社に立ち寄った。


 神社は酷く荒れていた。

 境内だっただろう場所は燃え尽きて柱の炭だけが残っていて、裏側にあっただろう建物は屋根瓦が割れて落下してしまっている。


 しかし、幾度もの火事にも耐えた形跡が残る蔵は白い城壁を見せてしっかりと建っていた。

 まるで誰かを待ち続けているかのように。


 蔵の扉の関は外されていた。

 失礼して入らせてもらったが、中はかなり荒らされてしまっていた。

 散乱した巻物が無残にも破られている。


『時空乃守』


 不意に神名を呼ばれた私は身が引き締まる。

 そして、私の名を呼んだであろう物の傍へと、自然に足が赴いた。


『我は白金小次郎と申す』


 私は手を伸ばし、それの柄を掴む。

 そして、瓦礫の中から引き抜いた。


 過去に()()が所持していた神器に酷似している。

 だが、装飾が違う。


『我は空神殿のお役に立ちたく、剣として修業を積んだ者。しかしながら、空神殿を発見するに至らず蔵に封じられ、水神による誤った輪廻の理を導いてしまった。我の力は只斬るのみ。しかし、空神殿であれば我を使いこなすことが出来よう』


 短剣はそう言って勝手に契約の術式を描き、そのまま右手の中に納まった。


 小次郎は、変わろうと思っても自由に行動が出来なかった。

 それは、里の中に居た私も同じ。


 変わろうと思ったら行動しないと何も変わらない。


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