058-000 引き継いだ記憶
説明には時間がかかった。
でも、最後まで聞いてくれた2人は、どこか納得した表情をしていたと思う。
ただ、如月が死んでいた事実は知らなかったらしい。
「やっぱ、咲九は最後まで保たへんかったか」
「この8月を乗り切れたこと、数回しかなかったからねぇ」
しかし、2人の感想はあっさりしていた。
もっとも、アコが如月の死の予知を知っていたくらいだから、仲の良かった花菜子にも予知は知らされていたのだとは思う。
ただ、章二は予想外だった。
正直、まだ章二という相手だけは信用していない。
「花菜子は、結局どっちの味方だったの?」
「どっちでもあらへんよ」
即答した花菜子は呑気に大欠伸をする。
「咲九でも、里の主でものうない。ウチはまた別の勢力」
「勢力ってことは、まだ他にメンバーが居るってこと?」
「せやね。でも、ウチと神主は協力関係にあるけど、勢力と一括りにするんは少しちゃう」
「じゃぁ、如月とはどんな関係?」
「花菜子」
急に神主がキツイ口調で言った。
途端、私にもそのピリピリした空気が伝わって来る。
どうやら神社の周囲を黒い面に囲われているらしい。
「はぁ。こうも毎日、集団で来られるとやんなるわぁ」
答えた花菜子は歩いて部屋から離れて行った。
私も立ち上がろうとし、ふらついて布団の上に戻る。
それを章二は見ていたらしく、襖をぴしゃりと閉めていた。
「まだ本調子に戻るまで時間がかかると思う。外のことは花菜子1人で大丈夫だから、君はもう少し休んだ方が良い」
「でも……」
「それに、君も今までに一度しか今日を過ごせていない、謂わばイレギュラーだと思う。そもそも、君がここに来て齎した情報も、本来は数日後に知ることだと思う。だから、これから何が起こり、何が変わっていくのか。それは私でも解らない」
章二の言葉に嘘は無さそうだった。
しかし、1点だけ間違いがある。
「8月中に死んだのは1回だけ。それ以外の時は、既にお父さん ―― 章一の手元に居たから、貴方や花菜子に会うことが無かっただけ」
私の返答に章二が目を丸くした。
「多分、如月が乗り切れた時は如月が密かに輪廻を起こした時だと思う。何回か、私の輪廻ではないことがあったから。でも、1度ではなく数十回、それも20回は超えていると思う」
「・・・」
章二は黙った。
そして、何かを考えながら言葉を紡ぐ。
「君は、一体どこまで知っているんだい?」
私は答える。
「多分、ほとんど全てを」
「……はぁ。これは、参ったねぇ」
答えた章二は頭を掻く。
「じゃぁ、君はこれから地界で何が起こるのか、解る?」
脳裏に過ったのは遊園地だった。
その次に、濃霧。
最後には街から人が消え、地界よりも巨大な黒い結界によって崩壊する。
何度も見て来た光景だけに、悪夢になるほど鮮明に残っていた。
口を開こうとして章二に手で止められる。
「その表情を見れば解るよ。ただ、君に1つだけ忠告しておく。花菜子はまだ、私との関係を知らない。龍子……君にとっては黄かな。彼女との関係も教えていない。だから、私が話すまで花菜子には何も教えないで欲しい」
「それは、魔力暴走を引き起こすから?」
「いや。……正直に言えば、花菜子には何も知らないでいて欲しい」
意外な言葉に私は首を傾げた。
章二はどこか悲しそうな表情を見せる。
きっと複雑で悲しい事情があって言いにくいのかもしれない。
私は花びらの記憶から知ってしまったけど、もしも花菜子が知りたいと思っていないなら、無理に知る必要はないのかもしれない。
******************************
悪属性はただの呪い。
世界の加護と呼ばれる現象だって初期の呪いから生まれたもの。
本当は一括りにしてはならない事象なのに、誰もその事実に気付かない。
……いや、気付かれないように複数の意思が世界を染めている。
それが今回の世界ならば、私は敢えて受け入れよう。
******************************




