表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/85

052-000 決別

 私は生まれ変わった。

 里の主や悪神の言いなりになっていた時と違って、情報が整理できて、何となく推測もできるようになった。直感も冴えている。


 本来の生物はこうやって成長しているのかもしれない。

 でも、そんな普通ですら、過去の私には想像もつかなかったし、ただ恐怖でしかなかった。



 里の主と決別した私は、最後の別れを伝える為だけに女神様の元へと向かった。

 恐らく、私のことは里の主に敵だと認識され、共有された後だったのだろう。誰もが警戒し、緊張状態が続いていた。

 だが、念の為に黒い面を装着していた為にまだバレてはいない。


 女神様は私の正体に気付き、あっさりと部屋に通してくれた。

 だが、そこに居たのはもはや女神様でも、まして人間でもなかった。


 それでも悲しく感じなかったのは、女神様との接点が薄いからか、又は既に化物の原理を理解していたからか。

 どちらにしても、私はもう、女神様の味方で有り続けることは出来なくなる。


『申し訳ございません』


 私は最初に謝罪の言葉を口にした。

 が、女神様は解っていたらしい。


『貴方は私の為に働いてくれました。それだけで十分ですよ』


 御優しい言葉にも、私は同情しなかった。


『ここにはもう、戻るつもりはないのでしょう?』

『はい』

『ならば、急ぎ外界へお戻りなさい。この船はもうすぐ消滅しますから』


 知らない情報には、やはりまだ抵抗があった。この船には偽物とはいえ、分割した里の主も乗っている。

 なのに消滅することなどあり得るのだろうか。


『紅色の鬼、そこに居ますね?』


 女神様は私の問いには答えなかった。

 代わりに、ずっと警備をしていたのだろう。あの赤い方の鬼の面がスッと、気配もなく姿を現した。


 化物の下半身から、それが円だとすぐに理解する。


『ここにおります』

『この者を、出口まで案内して差し上げて』


 円の優しい手によって部屋の扉が開かれた。同時に女神様がフッと笑う。


『今の私に悔いはありません。なぜならば、本来の私の役目を貴方が担ってくれましたから』

『……どういうことですか?』


 もちろん、心当たりなど手紙の投函くらいしか思いつかない。


『旦那が皆から盗んだ記憶は私にも共有されていました。なので、貴方が花菜子と黄の傍に居てくれたことを知っています』


 私は理解出来ずに困惑した。

 記憶はやはり、里の主に奪われていたらしい。でも、2人の傍に居たことは、別に女神様の為ではなく私的な都合。それに、女神様と2人にどんな関係があるというのだろうか。


『あの2人は私の妹ですから』

『……えっ』

『私はずっと、外界の黄を救いたい一心で我慢してきました。しかし、後のことは全て、花菜子に任せてあります。だから私は安心して消えようと思っています』


 手紙のことを思い出す。あの手紙は花菜子宛てだったらしい。

 思考を整理しようとしたものの、女神様の優しい触手によって扉の方へと押し出されてしまう。



 円に背中越しに両手を拘束されたまま、そして押されるがまま、私は廊下を真っ直ぐに歩いていた。

 この廊下を、私は知らない。船のことなら、里の城のことなら全て知っていると思っていたのに、私はまだ無知のままだったらしい。

 女神様と花菜子と黄の関係のことも、円が女神様の元に居たことも、同じ。


 私は何も知らなかった。


 でも、それだけ無知のまま過ごしてきたということ。

 友人ならば、仲間だと思っていたならば、本人達から聞き出すべきだった。

 その責務を怠ってきたから、こうして友人を失うことになってしまっている。


『円、ごめんね』


 私の一言に円が立ち止まった。

 背中越しに当てられた手が大きく震えた気がする。


『私、円のこと、信じきれていなかったんだと思う。大切な友達だと思い込んでいただけで、円のことは何も知ろうとしなかった』

『……解っていましたわ』


 円は背中越しに答えてくれる。


『紫が記憶喪失の純を守っていること。最初は不思議でなりませんでしたが、今なら……女神様から教えて頂きましたから、理解しましたわ。だから、もう……』


 円の震える声で、きっと円も怖いのだと理解できた。

 その恐怖は、死への恐怖か、私への恐怖か。もしくは……。


『死神様のところに居た瞳の鬼の面は壊しておいたよ』

『……何てことを。アレが無ければ、外にも出られませんのに』


 でも、円の手の震えは明らかに止まっていた。


 鬼の面から里の主の魔力が供給されている。円が既に化物と化している以上、瞳もまた、化物になっている可能性は高いと思う。

 だとすれば、鬼の面が壊れたら少しの時間稼ぎは出来ると思う。


『だから、円も一緒に船から降りよう?』


 円が息を呑んだのが解った。

 恐らくは、円も外に出たかったのだと思う。


 しかし、円は歩み始めた。


『返事は?』


 催促しても、無かった。

 無言のまま、円は私のことを押す。



 しばらく経って、両脇の灰色の壁と同じような、少し暗い場所が広がる場所に立たされた。

 風の流れから、その広がる場所が外だということは理解する。


 でも、まだ円の返事を聞けていなかった。


「返事をしてよ」


 私は催促する。

 でも、円は徐々に私の背を押している。きっと、それが答えなのだろう。



【でも、進まなくてはいけない時が来たの。もしそういう日がやってきたら、嫌でも覚悟を決めて進まなければならない。はっきり言って、覚悟を決めておいたとしても凄く辛かったわ。傷を癒す時間も無かった。だからね、出来たら2人には自分のタイミングで踏み出して欲しいの】



 私は意を決して空へとダイブした。

 そして円を振り返る。


 円は鬼の面を外していた。その顔は既に黒い蔦によって模様が出来上がってしまっていた。


『真の地獄は、貴方には似合いませんもの』


 その一言で私は全てを悟る。

 既に間に合わなかった、ということを。


「まどか……まどかぁっ!!」


 風をまだ掴めていない私は重力に逆らうことができなかった。

 どんどん円から離されてしまう。


『貴方は生きて、純を助けてあげて。貴方と純が生き続けること ―― それが私の、いえ、()()の希望なのですから』


 口元はそう言っているように感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ