049-137 核融合
水に落ちた気がした。
もはや、肉体には感覚さえも残ってはいない。
それでも、桜色の半透明の水が、私を包み込んでくれる気がした。
水が、私の肉体の中に入って来る。
少しずつ、少しずつ。
その水が、私の核にちょこんと触れた気がした。
『ここの生活は、意外と快適なのよ』
その一言に、私は目を薄らと開く。
『君はそっちで幸せだった?』
凄く、幸せだった。
純と出会えて、円と出会えて、花菜子と出会えて、天津と出会えて。
色々なことを経験させてもらえて。
それらの記憶は、私以外にはきっと誰も持っていなかった。
他の私も、こんな経験が出来たら他者を殺めずに済んだのかもしれない。
もしかしたら、私よりも幸せになれたのかもしれない。
『幸せ、だよ』
私は答えた。
『今も、幸せ。幸せを抱いて死ねるのは、私だけなんでしょう?』
水が、私の核を包み込んだ。
これで最後だと覚悟を決め、目を閉じる。
『貴方は死なない。死ぬのは私』
桜色の髪の少女が脳裏に現れ、言った。
驚いた私が目を開ければ、先程までの桜色の水が花びらのように周囲を舞っていた。
その花びらが少しずつ私の肌に接触しては、浸透するように消えてゆく。
その度に、私の脳裏に記憶の断片が張り付いていく。
一枚。
また、一枚。
その一枚には夢で見たモノも多く含まれていた。
あの時、リュウ様の件で会議が開かれることを知っていた。
あの時、クラスメイトが4人に侮辱されることを知っていた。
あの時、円と瞳が式を使うことを知っていた。
あの時、花菜子が悪夢の昏睡状態の皆を助けたことを知っていた。
あの時、黄の結界を解除する方法を知っていた。
あの時、私は既に殺されていた。
そして、私によって回収され、私が見た内容を見続けていた。
夢の中で見た未来に起こる一枚は、私が繰り返す歴史の中で見たことなのだろう。
だから、私は全てを知っていた。
これら全てが私。
私という本来の生物。
私の正体は、輪廻を起こす神器、そのモノ。
花びら一枚ずつ、というのは、私が脳内で処理できる限度だったのだろう。
でも、今の私ならば全てを受け入れる自信があった。
「おいで」
私は私に言った。
花びらが一気に肌に吸い付く実感があった。
脳裏に一気に記憶が駆け巡っていく。
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。




