045-000 壊されたモノ
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私が目覚めたのはお手洗いの個室の中だった。
「死神様は偉大なお方よ?!」
これは、明らかに円の声。
鏡の前で服装を整えてから走り出していた。
廊下を急ぐ最中にも現場から争う音が聴こえてきている。
到着した時には、機材はひっくり返り、セットは酷く荒れてしまっていた。
現場に居合わせた能力者達によって円は取り押さえられている。
が、そんな円を一目見て更に目を丸くして固まってしまう。
「どうして皆様、他の神を信仰していますの?? 死神様がいらっしゃれば他の神なんて不要ですのに!! 嗚呼 …… どうして解って頂けないのかしらっ!?」
泣きじゃくる人、どこかに連絡する人、機材やセットを直す人、……様々な人間が各々の仕事をする中、円だけが死神教の神髄を大声で唱えていた。
ただ、それが私には、他人事のように感じていた。
まるで円が何者かに憑依され、別人になってしまったかのような、どこか遠くに感じる、寂しい感覚。
「嗚呼、紫っ!!」
しかし、それを現実に戻してくれたのも円だった。
名前を呼ばれた私は、仕方なく円に近寄る。
「紫なら、解ってくれ ――」
パアァァァァンッ
鈍い音が現場に響き渡った。
ホールの形の所為で音が間延びしている。
その行為に、誰もが驚いて私と円に注目するのが解った。
私は、ヒリヒリした掌をもう片方の手で抑えながら答える。
「円はここに仕事をしに来ているんじゃないの?」
やっと円が黙ったので安堵し、私が周囲に頭を下げる。
「申し訳ございません!!」
私は下げたまま周囲の反応を伺った。
それが功を成したのか、比較的近くに居た監督が私の肩を叩き、顔を上げるように示唆した。
「貴方は悪くないわ」
その一言で顔を上げた。
男性なのに、女性のような声を出す監督がニッコリと微笑んでくれる。
「でも、ごめんなさいね。少し他のメンバーで会議をしたいから、円ちゃんと一緒に席を外してもらえるかしら?」
それが大人の対応だと感じ、私は円を半ば強引に引っ張ってその場から控室に退場させた。
普段の私なら、喜んで円の狂気に参加していたと思う。
でも、今日はそんな気分じゃなかった。
項垂れたままの円に温かい缶コーヒーを渡す。
円は、それでもただ黙っていた。
「紫、ごめんね」
しばらく経ってから円が私に謝った。
でも、私は頭を横に振る。
「謝るのは私に、ではなくて、仲間に、だと思う」
「…… そう、ね」
それだけ言った円はまた黙る。
でも、円は何か考えている様子だったので、そのまま放っておいた。
どうして円が死神様に入れ込んでいるのか、私にはちっとも解らない。
だけど、それがもし、鬼の面の影響ならば、今の私に出来ることは何もない。
だから私も黙ることしかできなかった。
「ねぇ、紫」
「何?」
「もし、私が紫のことを忘れてしまっていたら ―― 殺してくれる?」
私は静かに目を閉じて黙った。
多分、純と同じように記憶喪失になることを懸念しているのかもしれない。
だけど、それだけで死を選ぶ円を受け入れることは出来ない。
「例え忘れても、生き続けて欲しい」
「…… 殺しては、くれないのね」
「生きていれば、良いこともあるよ」
私には、円が甘く見えた。
そこまで辛くは思えなかった。
―― むしろ、私の方が辛いのに。
でも、その言葉は心の中にそっとしまっておいた。
辛さは自分と他人では違う。比較対象にはならない。
「じゃぁ。私がお友達を傷付けていたら、殺そうとしていたら、殺してくれる?」
「何を言って ……」
だけど、それ以上の言葉は驚愕によって失ってしまった。
円の下半身から複数の細い足が見えている。足というよりは肌色の蛇に近い。ただ、先端はつま先のようになっている。
あまりの気色悪さに一歩だけ後退した。
「もう、制御が出来ないの」
円が私の手を握ろうと伸ばしてくる。
でも、私はそれを避けてしまった。
円は残念そうに手を降ろす。
化物になる現象を、私は良く知っていた。死神様の魔力が多過ぎる場合に、魔力が肉体を突き破ろうとして吐出してしまうらしい。
ただ、あくまでも私の肉体であれば、の話し。
恐らくは、私の肉体と同じように円にも改造を加えたのかもしれない。
ただの人間の肉体では何が起こるか、何て私でも想像がつく。
「遅くなってごめんなさいねぇ」
ノックと共に監督が控室に入って来る。
だけど、円のその姿を見た監督は、瞬時に危険を悟ったのか、私を廊下へ引っ張ると共にドアを勢いよく閉めていた。
その行為は大正解。
円の悲鳴と魔力暴走し始めた時の魔力による爆発音がドア越しに聞き取れた。
お父さんの実験によって、私が壊された。
―― そして、円まで壊された。
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こちらの次の更新は5日後くらいになります。
輪廻篇(本編)が追い付かないので。
こちらが停止中はそちらを急ピッチであげていくので宜しくお願いします!




