040-000 自分か他人か⑦
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いつの間にか、目を閉じてしまっていたらしい。
気付けば、学校の校庭の中央に立っていた。
先程まで隣にいたはずの花菜子の姿はない。
既に夜なのか、灰色に染まった静かな学校に鳥肌が立った。
「(嗚呼、でも、ここは)」
―― 私の居るべき場所じゃない。
そう感じた私は校門へ向かって歩き出す。
でも、校門は堅く閉ざされていた。
登ろうにも、ここの校門は特別製で隙間がほぼ無い。
だが、他にも教師だけが使える裏口が無い訳でもない。
そっちを巡ることにした。
旧校舎の脇にある旧門、闘技場の裏階段、男子校に続く急斜面の階段、調理室の裏口、会議室の裏口。
知りうる限りの全てを回ったものの、その全てに頑丈な結界が施されてあった。
最終手段として残してあった、校舎の廊下から窓を叩き割って出る、という方法も結界によって遮られてしまう。
「(あとは ……)」
ふと、白いピアノのある部屋を思い出す。
調理室のすぐ脇にある、開かずの部屋。
あそこなら、結界も弱いかもしれない。
『お疲れ様』
辿り着いた先に待っていたのは金髪の少女だった。
その少女は白いピアノの上に座っている。気配も無いことから精霊の類だと感じ取れた。
ピアノの魔力に引き寄せられた精霊ならば、恐らくはピアノから離れることはない。
だから無視して壁を叩く。
『そこを破っても、今のアンタじゃ外にゃ出られないよ』
やってみなければ判らない。
私は壁を破った。
結界が無かったのか、壁は意図も簡単に破られる。
だが、そのすぐ先に結界が待ち構えていた。結界は強固でうんともすんとも言わない。
壁との隙間は数センチ。
流石に溜め息をついた。
『無駄なことを。アンタ、前に同じことやってるだろう?』
言われてみれば、確かにそんな記憶もある。
だが、それは巡ったからこそ思い出せただけ。
私がこの後にとる行動なんて覚えていない。
『いんや。覚えているんじゃなく、アンタは知ってるはずだよ。灰色の世界への入口を見つけたのはアンタなんだから』
少女の言葉に聞き覚えがあった。
そして、気付く。
ずっと外界への出口ばかりを探していたことに。
私は急ぎ足で旧校舎へと向かった。
そしてその脇の、フェンスが少し離れている隙間から段差を降りる。
そこは既に見たことが無いアスファルトの平地にされていたものの、記憶を頼りに歩き、ある地点で立ち止まる。
そこは、エレベーターの上に位置する場所。
とはいっても、今はもう、使用されていないエレベーター。
何でも、横穴が空いてしまったから使用できなくなったとか。
私は真下に拳を振り下ろす。
やはり、地盤は脆かった。
あっさり崩れた穴の中は鉄に覆われていた。
崩れて来ることはないだろうと踏んで穴に上半身を入れる。
思った通り、横穴が空いていた。
魔力を綱代わりにして横穴に飛び込む。
それだけで、横穴がアスファルトと硬い岩に挟まれた隙間だと理解できた。
横穴はずっと横に続いている。
私は、過去にも四つん這いになって進んだ気がする。
そして、この灰色の世界を知った。
でも、灰色の世界の守護神によって外界に追い出された。
今、守護神が追って来なかったのは用事があって居なかったからかもしれない。
あのまま居続けたら、次こそは退治されてしまっていたかもしれない。
光が、見えて来た。
そして、やっと四つん這いの体勢から解放される。
だが、私の喉元をスースーした感覚が襲ってくる。
「お前は用済みだ」
世界が反転した。
そして目の前には、やはり私が居た。
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―― 嗚呼、そうか。
私は元々、神器の核を分割された複数の私の中の、1人でしかなかった。
複数の私が居て、その数だけの理性と、その数だけの記憶があった。




