039-(084) 自分か他人か⑥
「どないしたん?」
花菜子の声で目を覚ます。
教室にはほとんど誰もいなくなっていた。
「寝とる、何て珍しいこともあるもんやね? はよいのう?」
私は、ただ寝ていただけなのだろうか。記憶がない。
そもそも、学校に来た覚えもない。
それでも、花菜子が急いているので立ち上がって鞄を持った。
ロッカーに向かう道中には、珍しく2人きりの田川と吉岡が居た。猪塚と小池は居ない。
「なんかさ。学級閉鎖になりそうな感じじゃん? どっか遊びに行かない?」
田川の嬉しそうな発言に吉岡は黙っていた。
意気揚々と話し出す田川に対して、吉岡が苛立った表情で口を開ける。
「出掛ける予定なんてどうでもいいよ!!」
あまりの大声に廊下に居た誰もが2人を振り返った。
花菜子でさえも、驚いて立ち止まっている。
「いのっちも、いけっちも、どっちも連絡取れなくなってるってのに、たーちゃん酷過ぎるよ! 2人のことを心配して探しに行くなら付き合うけど、そうじゃないなら、たーちゃんなんて嫌い!!」
「なっ ……?! あっちゃん、そこまであの2人が心配なの?? 今まで散々に付き合わされた所為で、私ら校内でも不良の扱い受けてんじゃん?! やっと2人が消えてくれたんだよ?? 自由になれた今だから遊びに行くんじゃん??」
どうやら2人の意見が食い違っているらしい。
それにしても、試験が終わったばかり、あと少しで夏休みだというのに。
学級閉鎖の単語を聞くなんて思わなかった。
「通常なら、既に学級閉鎖になっとるんやろうけど」
校門を出た帰路、花菜子が先にそう切り出した。
「試験に関わらない、要は夏休み後の予習授業みたいなんやっとる以上、休むんは自由や、という先生の意向があるんやろ。せやから、勝手に連絡なく休んどる過半数の生徒が成績優秀者やから学級閉鎖にはしとらん。そう思わん?」
花菜子の言っていることは理に適っていると思う。だから頷き返した。
でも、それ以外にも大人の事情があるような気はする。
「もしかしたら、学級閉鎖に出来ない理由があるのかも」
「まぁ、法律上、授業数は最低いくつ以上、って定められとるしなぁ」
「ううん、そういうことじゃなくて。例えば、学級閉鎖にすることで被害者が増加する、とか」
私は目の端で黒い面の存在を捕らえていた。
黒い面は私の視線に気づいて姿を消している。
脳裏に浮かんだのは、黒い面に染まった同級生の姿。
そして生徒の居ない校内を荒らす光景。
黒い面は人間の欲望を引き立たせる。
そして興奮させて理性を失わせる。
一度でも経験してしまえば、理性という殻を破ってしまった人間は元には戻れない。
興奮を、黒い面の欲望を追い求めるようになってしまう。
例えそれが操られていると解っていても。
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死よりも恐ろしいことは、私が私ではなくなること。
今まで感じていたことが、全て消えてしまうこと。
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