037-000 自分か他人か⑤
同じ方法を使っても、私が里に戻ることは許可されなかった。
何度も、何十回も。
それこそ夜が明けるまでずっと。
ずっと巡り続けた。
それでも最初の門が開くこともなく。
朝日に照らされた私は、疲れ果ててベンチに座り込むしかなかった。
街では黒い面の暴徒化に伴って鬼の面も迫害されるようになっていた。
その頃から鬼の面が外れなくなって5日間。
里にも入れず、食べ物も購入出来ずに途方に暮れた。
しかし、ここにも長居は出来ないだろうと直感が言っていた。
電車に乗車もさせてもらえない現状、移動は自らの足しかないのだが、警戒中の民間の過激派と出会ってしまったら最後。
拘束されるか、処分されるか、という2択しかない。
しかも彼らは区の境界に存在する結界の近くに居るので、大通りを進めば警察に、路地を進めば彼らに、と短距離の移動だけでも簡単にはさせてもらえなかった。
そんな理由から花菜子の家を諦め、都内とその近郊の移動も選択肢から外し、かなり大回りをして雷神の家を目指すことにした。
流石に圏外は見張りも少ない。
数日程かかったものの、何とか辿り着くことが出来た。
しかし、その場所には先客が居たので屋上から様子を伺う。
1時間もしない内に先客がマンションを去ったことを確認してから、私はその部屋のインターホンを押そうとする。
「入って良いですよ」
相手は解っていたのか、陽気な声がした。
そして玄関の鍵が開いていることを知る。
「先程からずっと、貴方の気配だと気付いていましたから」
天津に通された場所は、中央のテーブルと絨毯以外、何もない所だった。
座った所の逆側に天津が座り、さて、と私を見つめる。
「鬼の面が外れなくなって情報を得る為に来た。又は、誰かと繋いでほしくて来た。大概はそのどちらかが多いのですが?」
「・・・」
声を、出そうとした。
だけど、そこで初めて鬼の面の中で口を開けるとどうなるのか、知ることになった。
まるで口を押さえられているかのように、閉じることが出来なくなった。
その口には、何か硬いモノが突っ込まれている。
その硬いモノから瘴気が喉に直接注ぎ込まれてきた。
「・・・っ」
「鬼の面に飲まれる、とはそういうことです」
天津は静かに言った。
「『鬼の面は選ばれた者しか装着出来ない』。貴方は昔、私にそう言いました。
ですが、実際には『適合者しか装着出来ない』という言葉が正しいようです」
だが、私はその言葉を聞く余裕が無かった。
瘴気は私の体内で渦を作り出す。
その渦が、私の肉体を破って外に溢れ出る。
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死ぬことは、怖かった。
怖いと感じたのは、楽しいことと出会ってしまったから。
これが幸せという意味ならば。
—— 私はまだ、死にたくなかった。
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