035-080 自分か他人か④
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興奮している私が、居た。
これが、独りということ。
これが、死というもの。
あの悪夢を見続けるくらいなら ――
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『雷神は断られても丁重にお連れせよ。ただし命に問題が無ければどのような形でも構わない』
死神様の次なる命令で目を覚ます。
高層マンションの屋上なのか、綺麗な夜景が一望できる場所に立っていた。
複数の鬼の面が額を寄せ合っている。
『では、私が窓側から飛び道具で出口を塞ぎますわ』
『玄関の方は俺が担う。あと1人くらい、近距離攻撃が出来る奴に来てほしい』
『私が参ろう』
赤い鬼の面、青い鬼の面、そして緑の鬼の面がそれぞれ答えた。
私は下段の様子を術で伺う。
2つの魂が固まる方と、離れた場所にある不思議なオーラが漂う方。
オーラの方からは魂の気配がしない。だが、魂の気配がしない、なんてことは生態的に有り得なかった。
それならば、固定式の術式だろう。術式ならば、作戦開始と共に予期しきれない困難が立ち塞がる可能性もある。
念には念を込めて、私はそのオーラがある方のベランダへと降りた。
場所は近いが、オーラさえも遮る特殊カーテンの所為で良く解らない。窓も特殊仕様のようで、式の応用で隙間から侵入させて窓のロックを外すことも、叩き割ることも難しい様だった。
こういう時、最終手段として幽体離脱を使う。
肉体を黒い面に預け、幽体だけで普通の壁から侵入する。
「私の部屋に何か用ですか? 羽生 紫さん」
そこに居たのは天津だった。
最上階の部屋は全て雷神の持ち物のはず。
理解が追い付かない間にも天津は私の喉を掴んでいた。
幽体の弱点は喉。そこを突かれてしまったら肉体から魔力が供給できなくなる。
即ち、今の私が幽体だと知っている証拠でもあった。
しかも、鬼の面はオーラを改変する。
だから今の幽体でも私の名前までは知り得ないはずなのに、どうして。
「簡単な話です。先廻りしておいたのですよ」
幽体では喋れない。しかし、幽体には魂が無いからどんなに読心術を極めた人でも気持ちを読むことは出来ないはずだった。そもそも鬼の面で唇は隠されているし。
だから、どうして天津が質問に答えられるのか、解らなかった。
「情が移る、とはこういうことを指すのでしょうね」
天津が手に力を込めたらしい。
急に呼吸が苦しくなった。次第に視界がぼやけて来る。
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私は、天津のことが、好きだったのだろうか。
胸のドキドキが、治まりそうにもない。
世界が壊れるなら、いつか死んでしまうなら。
天津に殺された方がマシ。
―― だけど、今は。
こんな感情ほど、無意味なモノはないだろう。
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