030-000 用済み
学校はほぼ午前授業だけ。
午後は教室で試験に備えて自習が出来るように開放されたが、帰宅しても良いことになっていたので花菜子と一緒に帰宅する。もちろん、一緒に登校もした。
そして数回の交渉は、本当に同行するだけだった。
ただ、普段から花菜子は1人で行動していたらしい。その為か、花菜子から渡された服装も相まって、同行者が居るというだけでボディガードと勘違いされたらしい。
交渉はスムーズに進んでいた。
「もう1ヶ所、ついでに寄ってもええか?」
帰り際、花菜子が急に話を持ち出した。
もっとも、ついでなら許可せずに寄ってしまったらいい。
頷いて了承し、付いて行った先は古びた廃ビルだった。
立ち入り禁止の看板を潜って、崩壊が始まっているのか瓦礫の山を大回りして、どんどん奥へと進んでいく。
駐車場らしき場所には1人の気配があった。
だが、その気配を私は良く知っていた。
固まって動けなくなる私を、その人物が振り返る。
「おや。花菜子さんではないですか。それと ……」
「あっちは気にせんでええ」
花菜子はバッサリと天津の発言を切ってから歩くのを止めた。
「それよりも、ウチの学校で起こっとる悪霊騒ぎ。あれ、アンタらの所為やろ?」
「…… 何の話です?」
「惚けても無駄や。咲九から聞いたで?」
急に天津が笑うのを止めた。
そして2人の間にピリピリとした緊張感が漂い始める。
「学校の守護神は気付いとるけど、まだ何もしぃへん。咲九が自分のとこから結界使いの小柄な妖怪を送り込んで対処しとるみたいやけど、守護神が対処せぇへんと長期的には守れへん。しかも日中は妖怪も表に出にくい所為で、結果的に黄昏時に悪霊が出現してまうっちゅう、悪循環をやっとる」
「…… 解っていますよ」
やっと答えた天津は大きな溜め息をついていた。
「部下が事の重大さに気付いて報告してくれましたから。もっとも、彼には自宅謹慎を命じていますが」
「何をしたんですか?」
恐る恐る、私は天津に訊ねた。
天津が私に微笑む。
「学校の結界を生み出している神器の1つを割ってしまったのですよ」
「えっ?!」
これには私も驚くしかなかった。
花菜子が大きな溜め息をつく。
「神器は修復せぇへんと使い物にならんのやけど、修復する術を知っとるんは、ウチの知る限り咲九しかいひん。せやけどな。守護神が咲九に依頼してきぃへん。しかも、その神器を失ったことで結界に風穴が空いて、そのまんま放置しとる」
「とはいえ、私にはもう、あの学園に足を踏み入れる権利がありません。それに、彼も割りたくて割った訳ではなく、古の神器故に属性が解りにくくなっていたことで、増幅方法を誤ってしまっただけです。ただ、事故は事故、ですからね。しかし、守護神に謝罪しようにも、あそこの守護神は滅多なことでは出て来てくれませんから ……」
「ウチは何も、そないなことを指摘しに来たんとちゃうで」
あっさりと答えた花菜子は腰に手をかけた。
「事実を知っとるならそれでかまへん。知らんならついでに最新の情報を売りつけるつもりやった」
「なるほど。では、本題をお願いします」
「黒い面が海外にも現れたらしい」
私も、そして天津も目を丸くした。
花菜子は静かに続ける。
「最初は、今は亡き阿修羅帝国。今はそこからかなり広がっとるみたいや」
「そんな …… そんなはずはない!!」
私は咄嗟に叫んでいた。
そんな私を花菜子が金色の目をして振り返る。
死神様は海外を目指していない。
死神様はただ、不幸な存在を作りたくないだけ。
だからお金という概念を取り払った、誰もが平等の世界を生み出した。
「でも事実や」
花菜子は呟き、天津を振り返る。
「それでも、サーカス、やるん?」
サーカスとそのことに関係性があるのか、までは解らなかった。
だけど、天津は真面目に答える。
「やりますよ。いくら海外から団員を呼べなくても運命は変えたくありませんから」
「それならしゃーない」
花菜子は答え、私を振り返る。
「帰ろか」
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変わらない悪夢。
今夜もまた、同じ悪夢。
―― そう思っていたら。
「こんにちは」
振り返ると、私が居た。
その私が、私の腹部に何かを刺している。
「君は用済みだってさ」
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